SONY α1のイメージセンサで使われている量産品で世界初と思われる新技術
こんにちは。元イメージセンサ開発者のFreshfishbutMechaです。
今回はSONYのフラグシップ機α1で使われている世界初と思われる技術について話そうと思います。
※今回は結構中級者向けの内容になってしまっているかもしれないので、わからない部分あればぜひ教えてください。調べて考えてわかる範囲で回答します。
参考:α1
Sony α1のイメージセンサは高速読み出しと高解像度と低ノイズを全て兼ねた化け物性能です。イメージセンサ技術の視点で見ると高速読み出しと高解像と低ノイズはトレードオフの関係にあるのですが、新しい技術を使って、トレードオフラインを引き上げて実現していそうです。
最初になぜα1が上記のトレードオフを結構新しい技術を使って克服していると思ったかについて説明します。SonyのISSCC学会発表資料の撮像素子が新しい技術を開発したという内容になっており、その論文で達成したスペックとSONY α1公式サイトの売りが酷似しているためです。
AD変換:「新しいAD変換方式」⇄「ΔΣADC」
動画:「8k動画記録」⇄「技術の適用範囲:8k以上」
画素数「5010万画素」⇄「50.1Mpix」
以上より、ほぼ間違いなく、以下のサイトはα1のイメージセンサだと思います。
学会発表資料:ImageSensorsWorldより辿れます
学会発表資料でトレードオフ克服をするための技術について3つ説明されています。
(1)画素アナログ信号ライン分割とCu-Cu接続での負荷低減による高速読み出し
これは1つ前の記事でいうところの画素回路ブロックからアナログ回路ブロックに配線で転送するところについての工夫だと思います。簡単にいうと、配線の分岐を少なくして短くしてあげることで、信号が迷う道をなくしてあげるのと、走る距離を短くしてあげて、信号読み出し時間を短くするための策です。
(2)適用的なゲイン制御とパイプライン動作のためのカラムパラレルkTCノイズキャンセルS&H
(3)高速と高解像度の両立のためのΔΣADC
これらは、2つ前の記事でいうところのアナログ回路ブロック内のADC(アナログ-デジタル変換器)と信号を保持しておくためのS&H回路(サンプル&ホールド回路)の技術についての工夫だと思います。
おそらく(2)と(3)はセット開発したものだと思います。これまで多くの撮像素子はSingleSlope ADCを使ってきたのですが、今回(3)の高解像化に有利なΔΣADCを使うために、新たなkTCノイズキャンセル機能が必要になり(2)が考え出されたのではないかと思います。
※これまでの記事で説明していませんでしたが、イメージセンサは各画素での出力ばらつきを減らすために、2回読み出すことで買う画素数でのばらつきを減らしています。フォトダイオードに信号がない状態でノイズだけ読むのと、フォトダイオードにためた信号を読むという2回の読み出しを行い、うまいこと引き算を行うことで、この差分を各画素の妥当な画像信号としているのですが、ΔΣADCだとそれを実現するのが難しく、うまいこと引き算できるようにするために(2)の回路を開発したのだと思います。
(1)は既存技術を使用した工夫レベルですが、(2)(3)をイメージセンサの製品レベルで実現しているのは世界初だと思います。
私が知る限りで恐縮なのですが、綺麗に絵を撮ることを目的としたイメージセンサの量産品でSingleSlopeADC以外は聞いたことありませんでした。感覚で申し訳ないのですが、10年くらいずっとSingleSlope方式だったと思います。なので今回の技術を製品化させたのは素直にすごいと思いました。
※業界関係者の方がもしいて上記説明が間違いでしたら教えてください!修正します。
あと気付いたこととしては、学会発表資料の共同著者に初めて見るイスラエルの方がおり、イスラエルのSONY関係会社の方が開発した技術なのかもしれません。
(イスラエルはコロナワクチンといい、この技術といいいいニュースを耳にする頻度が高くなってきましたね)
すごい技術ですが、あえてデメリットをあげるのであれば高そうなことと、学会資料でも言ってたのですが高速かつ高解像度領域が今回の技術の得意分野っぽいので、それが必要ない場所ではこの技術はいらなさそうです。そう考えると従来のSingleSlope方式も改めて優秀な方式ですね。
イメージセンサの説明は以上です。
さて、Sony α1に話題を戻しますが、プロモーションビデオっぽいところで多く流れていたように1瞬を逃せないプロにとって喉から手が出るほど欲しいカメラになっていそうですね。オリンピックでも活躍するのではないでしょうか。
そろそろ寝るので、今日はこのあたりで。
では!