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火の灯る鳥居


 つぶてヶ浦はいい場所だった。耳に響くのは、この鳥居を支える岩の、塩水に洗われる波の音だけだった。
 たしか、16時頃に着いた。この旅を企画したのは私ではなかったから、時間のことはあまり気に留めていなかった。
 近くにちょっとした駐車場がある。海岸沿いの細い道路に面している。意外にも、その海の反対には山があった。まあ、ちょっとしたものだけれども、駐車場は、この山に少し食い込んでいたので、いったい山に来たのか、海に来たのかなんだかはっきりしない心持になったのを、今でもうすらと覚えている。
 しばらく人が少なかった。この鳥居の前には、よく海岸で立ち会うようなコンクリートの階段があった。名所なのだろう。事前知識は、これといって持ち合わせなかった。
 どうやら後で調べてみると、昔、ある神様が、伊勢から岩を投げ飛ばしたそうな。それで鳥居があるというわけらしい。
 少し日が暮れてきて、辺りも変貌した。海辺というのはいつの世も、得てして、夕暮れ時が美しい。夕暮れの赤みがかった橙は、どこから見ようが、一定の美しさがある。しかし、それが一面の海原を輝かした光景というのは、やはり特別なものがある。自然の壮大さ、なのだろうか。
 ふと辺りを見渡すと、三々五々、人がいた。なるほど、これを見に来たのか。海辺に立つ鳥居というのが、神聖なものであるなら、それを地平線のかなたから照らす夕日との融合を、神秘というのだろう。
 鳥居に、火が灯るのを見た。


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