ギリギリ無給インターンの話
前回の記事を読んでくれた方はご存知だと思うが、私はメルボルンで康に会った。
まだ傷が癒えず(?)転職活動どうするものか・・・と悩んでいた数日後、一本の電話が鳴った。
康にFxxkとブチ切れた一件があり、それから私は丁寧に電話に出るようにしている。
時に「グッバイ!!!」とシンセの喋る声と共に電話を切られることもあるし、マンションを買わされそうになったりもするが、禊だと思い我慢している。
しかし、この電話はその類とは違った。
「来週の月曜日、面接に来れますか?」
という内容のものだった。
暇だったし、ニートなので、とりあえず行ってみることにした。
面接の朝、なんとなく乗り気がしなくて朝から憂鬱だった。
なぜかと言うと、電話をくれた会社に応募した記憶がなかったから。
ただ、思い返してみると、康にフられた以降、手あたり次第に求人に連絡をしていたので、私が忘れているだけかもしれないし、どっかから企業が情報を引っ張って連絡してくるのはたまにあるので(どういう手か知らないけど)何かの縁だと思って行ってみることにした。
電話をくれたのは、家から徒歩5分の語学学校だった。
「面接なんですけど・・・」そう言ってアラビアンな人たちに声をかけると、担当者の人を呼んでくれて、個室に通された。
担当者は、粋なBTS研修生みたいだった(韓国人)
彼が英語で話し始めた内容はこうだった。
・ウェブマーケターとして人材を探している
・日本企業との関係が薄く、日本人の学生を増やしたい
・そのために、日本語に精通している人材がほしい
・SNS運用や他サイトへの発信、営業周りに強い人が欲しい
こんな感じだった。
『履歴書みたけど、事務の経験もあるみたいだし、特にこの’Dance in the rain'ていう言葉が良いよね。オラ、わくわくすっぞ!』と悟空は言った。
私の職歴や履歴書を気に入ってくれたようだった。
営業周りは経験があるし何となく理解できるが、ウェブデザインのあたりが良く分からないな…と思い、
「ウェブマーケターの経験はないんですけど、具体的にどういうことをするんですか?」と聞くと、悟空は
『メインでやってくれている人が辞めちゃうから、代わりにインスタグラムの更新とかをお願いできる人が必要なんだ。あわよくば日本語も出来ると、日本人が見るサイトとかにも掲載できるからいいよね!』と言った。
私には動画や写真の編集のスキルは全くないが、副業でちょっとウェブデザインをかじったことがあったので、その程度でも大丈夫かと尋ねたところ、
『心配ないゼ!その分野ってプロになるのムジィし、みんな徐々に成長するって感じだってバヨ!日々勉強だってバヨ!』
とコブシを掲げて悟空は言った。
私はドラゴンボールはあまり詳しくないので、どうしても語尾がナルトっぽくなってしまう。
そんなこんなで、悟空からの熱意はとても伝わったし、なんとなく面白そうだからやってみたいなと思った。
「是非やってみたいです。トライアル雇用はありますか?」
『そうだね。まずはインターンとして参加してもらうよ』
インターンか。なるほど。
確かにウェブマーケターというのは未知の分野だし、トライアルよりも長い目で見る必要があるのかもしれない。
「期間はどのくらいですか?」
『2~3か月ってとこカナ』
ちょっと長いな…普通はトライアルでも1週間くらいだと思うんだけど…
まあ企業によるのか…
「その間のお給料はいくらでしょうか?」
私がそう聞くと、悟空はかめはめ波を溜め込みながらこう言った。
『インターンは…無給ス!
なぜなら、私たちのビジネスはスキルが必要なことだからね。たくさん学んでもらって、経験を積んでもらってから、ようやく一人前の戦士として活躍すると思うんだ!』
びっくりした。無給!?!?
無給インターン・・・熱烈パワフル学生じゃないんだから・・・
でもまあ他に雇用先ないし・・・
「インターンの先は、絶対雇用なんですかね?」
『まあね。僕はウィンウィンて言葉が大好きだし、インターンとして働いてくれる人がハッピーで、オラ達も戦力になる人がいるなら雇うってもんヨ』
翻訳は苦手だが、ざっくりとこんなようなことを言った。
つまり、インターンの最中に能力の可否を判断して、それが企業に必要な人材だと分かれば、そのまま採用ってことだ。
そういうことなら、パワフル学生するしかない。
私は了承した。
『ワクワクするぜ!!!』
悟空はまたそう言った。
面接の後、学校内を案内してくれた。
ラテン、ラテン、韓国人、インド人、ラテン・・・日本人は一人もいなかった。
「日本人はいないのですか?」
悟空にそう尋ねると、「インターンで一人いるよ」と言った。
すでにインターンがいるのか。となると、ライバル?
「その人はどのくらい働かれているんですか?」と聞くと、
悟空はあからさまに難しい顔をした。
「う~ん・・・なんというか、人には向き不向きがあるからサ、
正直な話まだ分からないんだよね。」
そんなに難しい仕事なのかとハードルが一気にあがり、
私の中のパッションが震えた。勝ち取れ、仕事。
翌日、さっそく私のインターン生活が始まった。
朝9時起床。そのまま歩いて事務所に向かう。パソコン持ち込みなのがダルい。
早起きするのも久しぶりだし、とにかく早くインターンを終わらせるためにもやる気を見せねば。
燃えるゼ。
私まで悟空になりつつあった。
インターン初日、悟空に如意棒の使い方、筋斗雲の呼び方を教わった。
次第に頭の悟空が孫悟空に切り替わっていることに薄々気付いてはいたが、これを書きながら私はこの先に起きた事実に愕然としていていて、くだらないことを書く手が止まらなかった。
必死で彼を悟空化しているだけで、実際にはめっちゃ怒ってた。
だから物語が西遊記になろうが構わなかった。あとドラゴンボールは本当によく知らない。
そんなわけで、色々学校のこと、ウェブデザイナーの一日の仕事について小1時間ほど会話した後、悟空はドラゴンボールを探しに出かけたまま戻らなかった。
やらなければいけないことがあるわけでもなく、求められたこともなかったが、悟空が言っていた『あんなこといいな、出来たらいいな』をかき集めて、何とかその日は、やるべきだろうと思うことをやった。
具体的には、LINEのビジネスアカウントを作り、日本人向けの掲示板にイベントの投稿などをした。
初日はこんなもんか…?と思いながら、いつまでもこんな調子だと、「ひょっとしたら玉が7つ揃うまで、私はこのままかもしれない」と不安になったので、悟空に「いつになったらスーパーサイヤ人になれるのか」と尋ねた。
『試合に勝てば、いいでしょう』そんなようなことを言った。
安西先生かと思った。私は、仕事がしたいです。
ちなみにこれは、ウェブマーケターにおいては「顧客を獲得する」ことを意味すると思う。成果を出せば、それなりの人材だとみなされるということである。そゆこと?
2日目。
今日も悟空は一日中ドラゴンボールを探していた。
どこを探しても見当たらないようで、『タイム イズ フライング…』と呟いていた。お疲れ様。
悟空が一日中いないので、成果を見てもらうどころか何をすればいいのか分からず、とりあえず日本企業の情報を集め、リスト化した。
そしてSNSにあげる用の動画リールも3本作成した。
これを評価してくれるかどうか、私の中に基準が全くないので、とにかく焦った。何をすれば、彼の求める成果なんだろう。
そうだ、もう一人の弟子(インターンをしている日本人)から学んでみよう。
そして後日、顔を合わせたもう一人のインターン生については、あえて触れないでおく。
彼女は何も悪くないので、変なイメージを付けたくない。
しいて言うと、ブルマにはあまり似ていなかった。
つまり、私の目指す道筋は完全に途絶えてしまったのだ。
モンモンとしているところに、一通のメッセージが届いた。
それは、日本人向けにブルマ(仮)が作成したインスタグラムからだった。
「学校の費用について詳しく教えてください」
客だ!と思った。
問い合わせ=成果ではないか!私は速攻DMを返信し、次のインターンの日までやり取りを続けた。
そして、客とやり取りをする私に対して、悟空が何というか知りたくなって連絡した。
「ハロー悟空!すごくエキサイティングだよ!学生からの問い合わせ来たよ!これって成果ジャン?!ってことはここからパートタイムになる可能性アリ?!」
翻訳は苦手なので、どうしてもギャルっぽくなる。
とにかく、ブルマと私がしていることが何かしら日本人からのアクションに繋がっていると伝えたかった。
そして、悟空から返事が来た。
『いいスタートだね!そのままオラに力を!
なんなら毎週ヨロシク!』
エッ なんか・・・ニュアンスちがくない??
悟空は「成果」と言ったが、「成果=顧客獲得まで」のことだったのかもしれない。
とすれば、この問い合わせだけでは悟空の言うところの成果には当てはまらないということか。
無給の身でなぜそこまで…という考えが捨てきれずさらにモヤモヤしたが、とりあえずはそのまま耐えることにした。
なにせまだ2日目・・・
そして3日目。私は問い合わせをくれた学生の対応をしつつ、悟空が全くこの件に対して評価をしてくれていないことに気付いた。
彼はシェンロンにしか興味がないのだ。その証拠に今日もボールを探している。
もどかしい・・・モチベーションのやり場よ・・・
熱血学生のパッションはどこへやら、私の心はもう折れかけていた。
折れすぎて一人残された受付で、他の仕事をしながら投稿用の写真2つと、日本企業への営業用メールの作成とかをしていた。
が、SNSに挙げるトピックは自分で探す、インターン中にやるべき業務も自分で探す、というこの状況で成果を出すのは非常に厳しい・・・
やはり日本エージェントに営業をかける必要があるのか?無給インターンの身で?
私の心は夏模様だった。
そんな時に、一通のメールが来た。(どんだけ来るねん)
それは、私が前に仕事をさせてもらったエージェントからだった。
インターンシップ中、「成果」を出すためにそのエージェントにコンタクトを取っていたのだ。
そしてエージェントは私の話に興味を持ち、ぜひ一度話がしたいとのことだった。
そしてそれは、前に悟空が対戦を挑んだ前の相手!!
悟空は敗北している、つまり私が企業とアポを取った初めてのヒト。これはもう大成果ではないか。
私はこれを最後の武器とし、再度悟空に挑戦を挑んだ。
今回は真向勝負である。ゆるぎなし。
ってかこれで「成果」じゃなかったら、もう何が正解か分からん。
(ちなみにここからが本題なんだけど、私のあまりの苛立ちがすでに脅威の3000文字を生み出してしまった)←全然懲りてない
「あのさ、前に悟空がオス!したとこの日本のエージェント、連絡来てアポ取ったけど、これって成果じゃない?
前も聞いたけど、無給インターンの身で営業ってポジション的にどうなの?って思うし、こっちも経済的な負担でかいんだよネ。
そろそろ雇う気あるのかどうかはっきりしてくんない?このまま3か月も続けるの無理ゲーなんだけど。」
そんなようなことを言った。
100歩譲ってインターンでも頑張るけど、せめて最低賃金は出してくれよ、と思ったし、そうでないにしても、時期を早めるとか、何かしら考慮してるよ的な話が欲しかった。
てかそもそもアポ取ったらもう成果じゃないの?
って気持ちは爆発してたし、日本語だったらすごい言い方してたと思う。
英語のニュアンスは分からんけど、日本語よりは冷静だったと思う。
だけど、どこまでも悟空は超越していた。
『いやいや、これからっしょ。日本人担当みたいな感じで、悟空と共に修行中って感じで言えばいいから!』
とか言われた。まったく話が噛み合わない。
てか質問の意図よ!
「え・・・ちょま・・・まだお試し期間いる??ってとこなんだけど。3か月、求める?まだ足りない?ってこと。ってかまさかただの社会経験の機会提供してるみたいなイメージ???」
と聞くと
『まだまだ視野広めていこ!掴もうぜ、ドラゴンボール!!!』
と言われた。悟空もここまでくると倒したくなる。
「いやいや!!!無給インターンシップって、会社の利益じゃなくて自己向上のためにやるものでしょ?日本企業にアポ取るってもうインターンシップじゃないし、これでなお成果出せってどんだけ👆ちょもう無理だてま」
と、我ながら攻めた発言をすると、
『ちょっと何言ってるか全然分からんけど、出来ることあれば手伝うよ!
てか何を勘違いしとるん?話聞こうか?』
って言われた。ダイナマイトすぎ。(BTSはそれしか知らん)
「えっと・・・日本の企業のアポ取る=成果じゃないし、なんならまだまだ経験積ませたいって感じなんだよね?となると、頑張ったらすぐ働けると思ってた私が勘違いしてたってこと!!おけ?!じゃ!」
と、もうめんどいから話を終わらせようとすると
『え~まじ?!負担感じちゃってたらごめんごめん!でもさホラ、ウチらボランティアでやってっから。
知りたいこと教えてあげたジャン!!』
とさらに火の玉ぶっこまれた。
大炎上!!!!
「だとしたらめっちゃ勘違いなんですけど!!最初からここで働きたいって言ってたしインターンやりたいなんて言ってないんですけど!!
ボランティアて!!」
『え~じゃあ勘違いだね~!!もちろんウェブデザイナー探してるけどそもそも雇用の保証してないって言うかぁ~!!!』
「てかそもそも他のインターン生には2か月って言って、私には2-3か月って言ってる時点でもう雇う気サラサラないじゃん!
最初からパートタイムしか希望してないんですけど!?インターンって言ったのそっちですけど!?これで勘違いって思わせるのやば笑
無理ですごめんなさい!!!」
とあまりに話が二転三転するので、もうこれ以上は何も言いたくない旨をアピールすると、
『ちょ、まてよ!話し合おうぜ!』と言われたが、さすがに断った。
『なんかそっちが勘違い?してたみたいだけど、ウチらなんもやましいことないし、誰かに話したかったら言いなよ☺誤解されたくないからさ☺』とか言ってて、ほんとにフュージョンしなくて良かったと思った。
で、そうやって煽られたから、お望みの通りシェアしている。
「もうインターン行かへんけど、色々ごめんな、ありがとやで」
って言ったら、最後に
『雇用する可能性をこないだ話したとこだったのにな・・・残念だけどチャオ・・・』だって。
うるせーー!!!!遅ぇわ!!!!!!!