エフェクターボードのためのMIDI設定ガイド~ギター・ベース向け~
「エフェクターのMIDIって端子、何に使うんだろう…?」
「マルチよりコンパクトでボード派だけど、タップダンス状態。正直プリセット使えるなら使いたい…」
「持ってるエフェクターのMIDI、使おうと思ってトリセツ読んだけど、挫折した…」
そんなMIDIデビューを検討中のギタリスト&ベーシストの皆さんに向けて、エフェクターボードにMIDIを導入する初歩の初歩を解説いたします。
エフェクターボードでMIDIを使いこなすと、スイッチ一つでありとあらゆるパラーメーターを同時に変更できるようになります。
MIDIとは?
本題に入る前に、カンタンにMIDIについてのお話。
楽器同士のコミュニケーションツール
MIDIとは、楽器と楽器がコミュニケーションするための規格です。楽器同士のLINEみたいな感じ。読み方は「ミディ」です。
MIDIに対応している機器同士は、MIDIを介して連絡ができます。MIDIに対応していない機材、例えば、
USBやMIDI端子のないエフェクター
一般的なエレキギター、ベース
何の端子もない生ドラム
なんかは、ガラケーしか持ってなくてLINEできない、みたいな。
何ができるの?
MIDIは「演奏情報」を送受信する規格で、色んな事ができます。
プリセット(プログラム)の変更
パラメータの変更
テンポの共有、同期
曲のスタート、ストップの伝達、同期
発音情報の伝達
などなど…
ただし、出来ないこともあります。それは「音声の伝達」です。MIDIでは、音のデータを送信、受信することはできません。
「ウソだ!MIDIキーボードを押したら音が鳴るぞ!」と思ったそこのあなた。
実はMIDIキーボードからは音が出ていません。MIDIキーボードは「音を出せ、という命令」を送信し、それを受けた音源が指定の高さ、長さで発音をします。
それではいよいよ、エフェクターはMIDIを使って何ができるのか見ていきましょう。
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事前にチェック!
「MIDIに対応」でも動かない!?
先ほど、MIDIは色々なことができると伝えましたが、実はすべての機器が、すべてのMIDIの機能を使えるとは限りません。
例えば、PCアプリのLINEでもメッセージの送受信ができますが、PCにカメラがついていなかったら、ビデオ通話はできませんよね?
それと同じで、例えば、MIDIキーボードをStrymonのTIMELINE(ディレイ)につないでも、何もできることがありません…
このような事態を避けるために、それぞれのエフェクター、スイッチャー、機器が、MIDIのどの機能に対応しているのか、を確認する必要があります。
たいていのMIDI対応エフェクター/スイッチャーは、下記の機能のいずれか、またはすべてに対応していることが多いです。
プログラム・チェンジ(PC):プリセットの変更
コントロール・チェンジ(CC):パラメータの変更
クロック:テンポ(BPM)の同期
どの機能に対応しているのかは、各機器の
「MIDIインプリメンテーションチャート」
という表を確認するのがもっとも確実です。詳しくは次の項へ。
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「MIDIインプリメンテーションチャート」とは?
各機種の「MIDIに関係する機能への対応をまとめた表」です。
例えば、同じ「CC22」という値であっても、あるエフェクターでは「トレモロのオン/オフ」と認識され、また別のエフェクターでは「タップテンポ」と認識される、ということがあります。
各機種で、「どの番号がどの機能に割り当てられているのか」を説明しているのが、MIDIインプリメンテーションチャートです。
たいていの場合、取扱説明書やマニュアルの最後の方、あるいは別紙に記載されていることが多いです。
例として、下記はLINE6のM5というエフェクターの取扱説明書を見てみましょう。
左端、「機能」の欄で、「MIDIを使用して何ができるのか」を確認することができます。他にも色々と書いてありますが、詳しいことは後ほど
ちなみに、MIDIインプリメンテーションチャートが見つからない場合は、取扱説明書やマニュアル内に記載があるかもしれません。
それぞれの機器があなたのやりたいこと(プリセット変更、パラメーター変更、テンポ同期)に対応しているかどうか、よく確認しましょう!
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「送信」と「受信」
もう一つだけ、設定を始める前に押さえておきたい知識があります。
MIDIはコミュニケーションツールと言いましたが、実は、一方通行の通信しかできません。
下記の画像のように、MIDI IN と MIDI OUTと端子レベルで分かれており、
受信する(命令を受ける)には、"MIDI IN"
送信する(命令を出す)には、"MIDI OUT"
にケーブルをつなぐ必要があります。
後ほど詳しく説明するので、今はまだよくわからなくてもOKです。
ちなみに、ケーブル一本でお互いに送信と受信、つまり双方向通信ができる「MIDI2.0」という規格も開発されていますが、2024年現在、対応している機種が極めて少ないのが現状。今は気にしなくてOK。
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エフェクター・スイッチャーのMIDI設定
いよいよ、各設定へ!
【ケーブルの接続】
何はともあれ、ケーブルで接続してあげなければ通信ができません。ワイヤレスMIDIなる規格もありますが、今回は古き良きケーブル接続に話を絞ります。
現在、MIDIの接続に使われる端子は、2種類あります。
一つ目は5ピンの「DIN端子」。ずんぐりむっくり。
もう一つがイヤホンと同じ見た目の「TRS-MIDI」。
もちろん端子が違うと挿さりません…が、流れている信号は全く同じなので、下記のようなケーブルで変換すれば、問題なく接続可能。片方がDIN、もう片方がTRSになっているようなケーブル↓↓
ただし、2018年までTRS-MIDIの規格が統一されておらず、メーカーごとに独自のルールで設計していたこともあります。古い機種でMIDIに上手く反応しない場合は、ココが怪しいです。下記、アンブレラカンパニーさんの記事が詳しいです。
それではいよいよ結線していきましょう。
先ほどの言った通り、MIDIは一方通行の通信です。
命令を出す機器の"MIDI OUT"
命令を受ける機器の"MIDI IN"
に接続してください。
注意!「ケーブルの両端がMIDI IN」もしくは「両端がMIDI OUT」に接続されていると、動作しません!
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【「チャンネル(CH)」の設定】(重要!!)
重要!MIDIで何をするにせよ、「チャンネル(CH)」という概念を理解しなくてはいけません。
仮に、次のようなシーン想定してみます。
「MIDIスイッチャーを使用しスイッチ1つで、MIDI対応のオーバードライブとディレイのプリセットを一度に変更したい。」
シンプルな接続例は下記の通りとなります。音声を通すシールドケーブルではなくて、MIDIケーブルのみ、図に示しています。
このとき、MIDIスイッチャーから伸びる1本のMIDIケーブルに、
①オーバードライブへの命令
②ディレイへの命令
の2つの命令がギュッと詰まっていることになります。
このままでは、オーバードライブさんとディレイさんが、それぞれどの命令を受け取ったらいいのかわかりません。
そこで力を発揮するのが、「チャンネル」の概念です。
例えば、
オーバードライブはチャンネル1
ディレイはチャンネル2
と設定し、スイッチャー、オーバードライブ、ディレイの全員の間で認識を合わせておけば、お互いが混乱せずに通信することができます。
つまり、
命令を送信する側の機器は、「どのチャンネルに対しての命令なのか」
命令を受信する側の機器は、「どのチャンネルの信号を受信するのか」
を、しっかりと設定しておく必要があります。
具体的な設定方法は各機種によって異なるので、取扱説明書をご参照ください。
16チャンネルまで認識する機種が多いので、17個以上の機器をMIDIでコントロールするとなると一工夫必要になるかも?
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【プリセット(プログラム、パッチ)を変更する方法】
さて、ここからは各機器のチャンネル設定が完了している前提で、話を進めていきます。
プリセットを変更するには、
「プログラム・チェンジ(PC / Program Change)」
という種類の命令(「メッセージ」と言います)を使うことが多いです。
今回は、PCメッセージを用いてプリセット(プログラム、パッチとも)を変更していきましょう。
必要な条件は以下の2点。どちらも各機種の取扱説明書、もしくはMIDIインプリメンテーションチャートで確認してみてください。
送信側の機器が、プログラム・チェンジ(PC)のメッセージを送信することができる。
受信側の(プリセットを変える)機器が、プログラム・チェンジのメッセージを受信し、プリセットを変更する仕様である。
ここまで確認できれば、あと一歩です。送信側の機種で、設定するのは以下の2つ。
メッセージを送るチャンネル
PC番号(プリセット〇〇番)
そして、受信側のMIDIチャンネルが、「送信側で設定したチャンネル」と合致していることさえ確認すれば、準備OK。送信側の操作で、受信側のパッチが切り変わるようになったはず!
ちなみに、PC以外のメッセージ(後述する「CC」など)でプリセットを変更する機種もあります。その場合、次の項の説明を参照してください。
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【パラメーターを変更する方法】
各種パラメーターをMIDIで変更するには、
「コントロール・チェンジ(CC / Control Change)」
という種類のメッセージを使用します。
しかし、ありとあらゆるパラメータすべてが変更できるとは限りません。どんなパラメータが変更に対応しているのか、取扱説明書、またはMIDIインプリメンテーションチャートを確認しなくてはなりません。
例えば、先ほども見たLINE6 M5の場合。表の2列目、「メッセージ」というところをご覧ください。
CCに該当するのは、下記の4つですね。
タップテンポ:CC64
FX On/Off:CC11
エクスプレッション・ペダル:CC01
チューナー・モード On/Off:CC69
これらの機能が、CCでコントロールできるモノ。それ以外のパラメータは、残念ながらMIDIで変更することはできません。
そしてもう一点、先述のPC(プログラム・チェンジ)と異なる点として、
操作するパラメータを「どんな値(バリュー / Value)にするのか」
という情報も必要になります。上記画像内では、左から3列目「値域」というところに説明があります。例えば、チューナーモードのオン/オフをするには、
CC69番として、64~127までのいずれかの値に受信→チューナーがオン
CC69番として、0~63までのいずれかの値に受信→チューナーがオフ
となるように設定すればよい、と読み取れます。
まとめると、以下の条件をクリアしている必要があります。
受信側の機器が希望のパラメータのCC(コントロール・チェンジ)を受け付けている
送信側の機器が希望のCC番号と値を送信できる
それでは、設定していきます。
送信側の機器で設定するのは以下のとおり。
メッセージを送るチャンネル
CC番号
値
それぞれ、どんな値にすればよいかは、受信側の機器のMIDIインプリメンテーションチャートで確認してください。
例として、上記で例に挙げたLINE6 M5において、外部のMIDIスイッチャーに「FX on」という機能を設定しようと思います。仮にM5はチャンネル6に設定しているとしましょう。その場合、
メッセージを送るチャンネル:チャンネル6
CC番号:CC11
値:64~127のうち好きな数字
と設定すれば、送信側(MIDIスイッチャー)のスイッチが「FX On」として機能するはず。
繰り返しになりますが、MIDIチャンネル(CH)が違うとそもそも情報を受信することができません。「受信側のMIDIチャンネル」が、「メッセージを送るチャンネル」と合致しているかどうか、よく確認してくださいね。
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【テンポ(クロック)を同期する方法】
あまりエフェクターボード内でテンポ同期をしている方は見かけませんが…以下のようなシチュエーションに対応することができます。
「ディレイを2機使っている。数値やプリセットでテンポ(BPM)の同期はできるが、片方でテンポを変えたら、もう片方も追従して変化してほしい。」
「トレモロとステップ・フィルター(スライサー)を使っている。テンポ(BPM)は数値で同期できるが、同じBPMでも、シーケンスのスタート地点がズレる。」
「MIDIクロック」という機能を使うと、MIDIに対応している複数の機器の間で、テンポ(BPM)をスタート地点まで同期して揃えることができます。
「MIDIクロックを送信する機器」と、「MIDIクロックを受信する機器」を用意し、以下のように設定すれば実現可能です。
MIDIクロックを送信する機器は一台のみ
同期したい機器でMIDIクロックを受信する
ただし、クロックを受信するエフェクターは一般的なのですが、クロックを送信するエフェクターは残念ながらあまり見かけません…
その場合は、MIDIクロックジェネレーターと呼ばれる機器を導入すればMIDIクロックをボードに導入可能です。下記、DISASTER AREA DESIGNSのmicro-clockがコンパクトでオススメ。
お手持ちの機器がMIDIクロックの送信・受信に対応しているかどうか、確認してみてください!
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さいごに
エフェクターボードでの使用を前提に、MIDIの導入について解説してみました。あなたのエフェクターボードもきっとMIDIでもっとスマート、便利で知的になるはず…!
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