見出し画像

企業戦士が「やりたいこと」を見つけるために必要な”WILL”とは~丸紅従業員組合「生涯稼ぐ力をつける副業講座」に学ぶ

会社員が自分の仕事以外のキャリアを見つけるのは、思った以上に難しいものです。丸紅従業員組合では、組合主催のセミナーとして、フリーランス協会が企画・実施する「生涯稼ぐ力をつける副業講座」(昼の休憩時間を利用した1時間のオンライン講座・計3回)を開催。そこに集まったのはちょっと意外な人たちでした。

【丸紅従業員組合】 
委員長 桃井千晴さん 
副書記長 田子奈々瑛さん 
【フリーランス協会】

中村龍太 当協会のパラレルキャリア推進リーダー。本講座の講師も担当。週に4日、サイボウズでサラリーマンをしながら、残りの週3日はフリーランスという複業家
郷田郁子 本講座のプログラム開発担当。経営コンサルティング会社経営をしつつ協会事務局に参画

参考記事(本講座プログラム参加者へのインタビュー)

――今回の研修を企画した背景と、反応について教えていただけますか?

田子 弊社では2020年4月から50代の社員を対象に、副業を制度化しています。しかし、副業が解禁されている・いないに関わらず、どの年代も、これからの世の中では常に自分のキャリアを見つめながら生きていくことが必要になってくるだろうという考えから、研修は全年齢向けに企画していました。初回としてはいい反応だったのではないかと思います。
セミナー後、任意でおこなったキャリアコンサルティング面談にも、定員を超える応募者がありました。

少し意外だったのは、周りで転職・起業が当たり前になっている20~30代よりも、50代の参加者が多かったことです。毎回参加者のうち半分は50代で、唯一副業が解禁している世代とはいえ、彼らのアンテナの高さには驚きました。

――研修の効果をどのように見ていますか?

田子 実際に副業等の社外活動をしている方の具体的な事例は、特に興味を持ってもらえました。キャリア開発に向けて、何をしたらよいのかいろいろ発見があったのではないかと見ています。報酬は金銭に限らず、人脈や経験も、その一つであるというメッセージも、とても響いたようです。

副業が解禁していない世代でも、金銭が発生しなければ何でも挑戦できますし、副業が解禁している世代にとっては、金銭報酬がないボランティアやプロボノの方が、低いハードルで始められると思いました。組合としても、本業から一歩離れて経験を積む機会は、本業で培ったスキルや経験を客観視できる貴重な機会だと考えているので、これをきっかけに挑戦する人が増えたら嬉しいです。

ただ一方で、ハードルを感じてしまう方もいたと思います。私自身の悩みでもありますが、副業にしろ、あるいは何か他の活動にしろ、すぐにアクションを起こすのは難しいのではないでしょうか。

――すぐにアクションを起こすのは難しい、というのは理由がありますか?

桃井 40代や50代の社員が入社した時は、「企業戦士として24時間会社のために尽くす」というイメージが強く、会社の中でピラミッドの階段をきちっと上がってくのが是とされていました。横の畑を見ず、自身の所属する組織の中で成果を出さなければならないという企業風土の中で働いていた方が多いと思うので、そういう社員が20、30年経って「あなたがやりたいことはなんですか?」などと急に言われても、即座に答えるのは難しいと思います。自部署の中での自分の位置付けはなんとなくわかるけれど、違う畑に立った時に自分がどういうポジショニングなのか、何ができるのか、というのは見えづらいのだろうな、と感じました。

最近は転職が当たり前の時代になってきていますし、「会社の中での自分」と「会社外での自分」とのポジショニングというのがフラットにできる人も増えてきていると思いますが、こと40代、50代はこれまでそういった環境で働いてきていないので、ハードルが少し高いと感じられるのかもしれません。副業の制度はできましたが、実態としてパラレルキャリアを実行している方は多くはないでしょう。ただ、時代も変わってきているので、何かしなければ、と感じている人は多いと思います。われわれ組合が、そういう方の背中を少しでも押せればと思っています。

スクショ①

――研修を企画した協会側は、どのように見ていますか?

中村 丸紅さんに限らず、大企業で長く働いた方の場合、会社の中で最適化されている社員が多いはず。別の世界を見る機会が少ないので、自分が社会の中でどういうポジションで存在しているのかとか、どんな価値を持っているのかはわかりにくいだろう、と思っていました。

今回の研修は、「外の世界はこんな感じか」ということを感じるきっかけにはなっているようです。キャリアコンサルティング面談に参加した方へのインタビューを読むと、社会貢献と自分の立ち位置とか、専門としてきた中国との関わりとか、自分がどこで貢献できるのかというイメージを持つことができたように感じられます。そのような「解像度」を上げる企画になったのではないでしょうか。

郷田 中高年層の場合、一社で長く働いてきただけに、他と比較して自信を持つ機会もないのだろう、という話もありました。研修そのものは、受講者からの質問の内容も、「税金について知りたい」とか「専門的なキャリアを積んでいないから難しい」とか、ビジネスパーソンの一般的な反応ではないか、と思います。仕事もあり、一定の収入もあれば、キャリアを変える切迫性がありませんから、行動に移しにくい、というのが会社員の副業にはあるのかなと思います。将来的な選択肢を広げる情報提供が第一歩と考えています。

――今後の研修フォローをどのように考えていますか?

田子 研修を受けた方から自分のキャリアの棚卸しをやってみたい、という声があったので、キャリアの棚卸しを踏まえてアクションプランを立て、一歩踏み出すアシストをする研修や、本業以外の活動を始めてみたい方の支援を検討しています。突然副業をすることはハードルが高くても、持っている資格を活かして組合でセミナーの講師をやってみたり、他社のプロボノに参加してみたり、ちょっとしたアクションを積み重ねることで、いざという時に身軽に動けるようになってくれたら、と思っています。

桃井 これは個人的な考えになりますが、これまでは、一つの会社の中でいかにピラミッドを上がっていくか、というのがイコール、キャリアだったように思いますが、今やそれだけがすべてではないでしょう。人材が流動化し、価値観が多様化してきている現代においては、階段をのぼることがすべてではなく、逆に一人一人が自分の望む働き方、やりたいこと、つまり「個々のWILL」を大切にして、それに基づいてキャリアを設計していくことが重要なのだろうなと思っています。

目の前のピラミッドだけを見て「自分には何もできない」「ここは自分の居場所ではない」と考えるではなく、自身のやりたいことやありたい姿を描き、一人一人が本来の前向きで明るい自分を取り戻していって欲しいと思っています。どんな風に働くのが自分にとって幸せなのか、と。

―― 「個々のWILL」を大切にする、というのは大事ですね

桃井 組合の今期のスローガンは「声を集め、想いを育み、道を創る」というものです。まず従業員の声をきちんと集めることがステップ1です。一人一人のWILLはどういうものなのかを知り、WILLを明確にするために組合ができることは何かを再確認しましょう、ということです。そして、その上でステップ2として、WILLのデザインを組合できちっとサポートしていきたいと考えています。それはなにも意識高く「起業しよう!」みたいなことではなく、それぞれの「自分らしい働き方」「自分らしい生き方」を自らデザインするということだと思います。その実践の一つが、今回のキャリア支援です。

さらにもう一つあるのが、組織の中でWILLを実現させるための方法論です。というのは、自分のWILLが明確になったとしても、あくまでそれはいろいろな関係性、特に本人と上司との信頼関係が構築された上で実現できるものだと考えています。マネジメント層を巻き込みながら、個々のキャリアを尊重する形で、一緒に会社と個人の持続的成長を実現していく。そのために組合ができることは何かを考えながら活動を進めています。

(参考)
フリーランス協会・プレスリリース
「50代社員の活躍・キャリア自律を支援する 研修等サービスを提供開始」
https://blog.freelance-jp.org/20201221-11361/

間杉俊彦
1961年 東京都生まれ。1986年 早稲田大学第一文学部文芸専修卒業、ダイヤモンド社入社。週刊ダイヤモンド編集部に配属され、以後、記者として流通、家電、化学・医薬品、運輸サービスなどの各業界を担当。2000年 週刊ダイヤモンド副編集長、2006年 人材開発編集部副部長を経て、ライターとなる。著書に『だから若手が辞めていく』(ダイヤモンド社刊)。

末尾バナー


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?