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「やり残したことがない」と思える人生を送るための一冊。まずは、満たされた状態を知ることから。
Well-beingとは「満たされた状態」のこと
「Well-being」という言葉を少し前からよく耳にするようになりました。
「Well-beingな組織」「Well-beingな働き方」「Well-beingな暮らし」などWell-beingが前につく言葉が溢れています。
Well-beingが初めて登場したのは、遡ること70年以上前の1946年。WHO(世界保健機関)が設立された時でした。
「健康とは、単に疾病や病弱な状態ではないということではなく、身体的、精神的、そして社会的に、完全に良好ですべてが満たされた状態である」
この定義の中の「満たされた状態」が Well-beingという英単語にあたります。つまりWell-beingとは日本語では「満たされた状態」という意味になります。
「満たされた状態」にはなりたいけれど、一体どうすれば満たされるのか。そんな疑問を抱いたのではないでしょうか。
そこで、今回はWell-beingになるためのヒントが書いてある本、『たとえ明日終わったとしても「やり残したことはない」と思える人生にする』(日本実業出版社)をおススメします。
著者の杉村貴子さんはキャリアデザインスクール「我究館」、語学スクール「プレゼンス」、「生き方」と「働き方」をデザインする「Well-being Academia」などのスクール運営を手掛ける株式会社ジャパンビジネスラボの取締役会長であり、ウェルビーイング・コンサルタントでもある方です。現在はWell-beingの普及をライフワークとして活動しているそうです。
夫・杉村太郎さんが死の直前に残した言葉
「やりたいことは次々と出てきてきりがないけれど……、うん。やり残したことはない」
杉村貴子さんの夫が、死の直前に残した言葉です。
夫・杉村太郎さんは就活ガイドブックのロングセラー『絶対内定』の著者であり、日本初のキャリアスクール「我究館」の創業者でもあります。
著者の杉村さんは夫の死後、「どうすれば『やり残したことはない』と言える生き方を実践できるのか?」を考え続けます。そしてポジティブ心理学の「Well-being」に出会い、この問いへの答えを見つけます。
「Well-beingな生き方」こそが、死を前にしてもやり残したことはない、自分なりによく生きたと言える生き方なのではないかと。
そして、誰もがWell-beingな生き方を実践することができるように、Well-beingな生き方のための基本の法則、「四つ葉のクローバー理論」を考案します。
「四つ葉のクローバー理論」
「四つ葉のクローバー理論」はキャリア開発の第一人者であるサニー・ハンセン博士の「4L理論」と、ポジティブ心理学の創始者マーティン・セリグマン博士の「PERMA理論」が土台になっています。
4L理論とは?
4Lとは、幸せに欠かせない具体的な4つの要素を指します。その4つが組み合わさることで人生はより意味のある全体となるという理論です。
著者は一つのLを一枚の葉に見立て4Lを「四つ葉のクローバー」と表現しています。
【4つの要素】
・Labor / 仕事
・Love / 家族、仲間、友人との愛、絆
・Leisure / 余暇
・Learning / 学び、自己成長
PERMA理論とは?
PERMA理論とは、幸せを感じる時の感情を5つに明確化したものです。5つの要素の頭文字をとったものが「PERMA」です。
【5つの要素】
・Positive Emotions ポジティブ感情
・Engagement ・Flow エンゲージメント・フロー
・Relationship 良好な人間関係
・Meaning 意味・意義と目的
・Achievement 達成感
著者の考案した四つ葉のクローバー理論とは、「4L」を「PERMA」で満たすことによってWell-beingな生き方ができるというものです。
公式にするとこうなります。
Well-being = 4L × PERMA
幸せに欠かせない4つのLを、幸せを感じる時の感情で満たしていくとWell-beingに繋がっていく。抽象的だったWell-beingの輪郭が少しずつ見えてきました。
Well-beingを実践するための36個の質問
本には
・Labor(仕事の葉)×PERMA
・Love(愛の葉)×PERMA
・Leisure(余暇の葉)×PERMA
・Learning(学びの葉)×PERMA
として4つのLにPERMAを掛け合わせた質問が36個書いてあります。
「この質問を自分ごととしてとらえることによって悔いのない人生を生きるために必要なことが見えてくる」
この質問に答えることによって、Well-beingな生き方に繋がっていく、と説きます。
では、印象に残っている質問をいくつか紹介しましょう。
Labor(仕事の葉)× Meaning
「お金をもらわなくてもやりたい仕事はありますか?」
有名な「3人のレンガ職人」の寓話が書いてありました。
3人の職人はそれぞれ異なる目的を持って仕事をしています。
1人目は「レンガを積んでいるんだ。つらいけど仕事だから仕方なくやっている」
2人目は「壁をつくっているんだよ。この仕事のおかげで家族を養えている」
3人目は「歴史に残る大聖堂をつくっているんだ。多くの人がここで祝福を受けることを考えると、幸せな気持ちになる」
価値観は人それぞれなので1人目、2人目の目的がだめだということではありません。
ただ一番仕事自体を楽しんでいるのは自分の仕事に意味や社会的な意義を見いだしている3人目なのではないでしょうか。
本には「『仕事の葉』は意義・意味を自覚することで充実する」と書いてありました。
自分の仕事に意義や意味を見いだし、充実感や達成感を味わうことができたら、きっと楽しくてしあわせな人生になるはずです。まさにWell-beingな生き方です。
「Labor(仕事の葉)× Meaning」には他にこのような質問があります。
仕事をしていて、どんな瞬間が一番楽しいですか?
ずっとやりたかったこと、先延ばしにしてきたことはありますか?
我を忘れて夢中になった仕事はありますか?
「出せる力は全部出した」と思える仕事はありますか?
大変だった仕事の山を越えたとき、どんな景色が見えましたか?
Love(愛の葉)× Positive Emotions
「世界一周旅行のチケットが当たったら誰と行きたいですか?」
誰が思い浮かぶでしょうか。
世界一周旅行のような特別なイベントに誘うのはとても大切な人のはずです。
「大切な人と一緒に、もっと時間を過ごせばよかった」。これは人生の最後に多くの人が後悔することのひとつだと書いてありました。
大切な人を大切にするということは、「大切な人との時間を大事にする」「大切な人に感謝の思いを伝える」など、やろうと思えば今すぐできることなのかもしれません。
大切な人との時間を大事にして、「ありがとう」をきちんと伝える。
これができれば豊かな人生が送れそうです。
「Love(愛の葉)× Positive Emotions」には他にこのような質問があります。
「あのときは、本当に楽しかったなあ」と思い返す出来事はありますか?
「あの人としか話せない話」はありますか?
あなたが「わがままになれる」のはだれの前ですか?
あなたの人生を変えた「運命の出会い」ベスト3は?
だれかに「ポジティブな影響」を与えたと思えることはありますか
Leisure(余暇の葉)× Achievement
「ほかの人が目に入らないくらい達成感で一杯になったことはありますか?」
「ほかの人が目に入らないくらい」、この言葉がポイントになります。
たとえば
・写真好きな人が絶好の瞬間をカメラに収めることができたとき
・車好きな人が愛社を洗車してピカピカに磨き上げたとき
自分の好きなことに向き合っているときには、自分一人だけで充実した気持ちになれるものです。本にはそれを「自分だけの幸せポイント」と書いてありました。
誰かに言われたことではなく自分自身が見つけた達成感は生きる原動力のコアになり、自分自身で歩き出す力にもなるそうです。「自分だけの幸せポイント」を書き出してみたくなりますね。
Leisure(余暇の葉)× Achievementには他にこのような質問があります。
自分から「仕事」を取ったら何が残りますか?
会社の中でも、家族の前でもない、「素のあなた」はどんな人ですか?
無人島にひとりで1週間すごすとしたら、何を持っていきますか?
「気づいたらあっという間に時間がすぎていた」と思うことベスト3は?
もし宝くじで1億円当たったら、だれと、どこで、何をしますか?
Learning(学びの葉)× Meaning
「自分の年表をつくるとしたら絶対に欠かせない3つの出来事は何ですか?」
3つの出来事がプラスかマイナスかはそれほど意味がなく、出来事から何を学び、何を得たかということが重要になります。
人の考え方(マインドセット)には2種類あるそうです。
グロース(成長型)マインドセット
自分が持っている能力や才能は経験によって成長できるという考え方
※成功者と言われる人はグロース(成長型)マインドセットの傾向が強い。
フィックスト(硬直型)マインドセット
持って生まれた能力は変化させることはできないという考え方
本には「過去に起こった出来事をグロース(成長型)マインドセットで捉えることでポジティブな解釈を与えていくことが出来る」と書いてありました。
マイナスな出来事から学ぶことがあったからこそ成長できた、そう捉えることができたら、すべての出来事が自分へのギフトになります。非常に前向きな思考であり生き方です。
3つの出来事に向き合う際に意識するポイントが3つ書いてありました。
点ではなく俯瞰してその後の人生とどう結びついているかを意識する。
自分なりにその出来事から学び得られたことは何かを言葉にする。
それらを「グロース・マインドセット」で成長の機会として捉え解釈する。
本には「自分ではコントロールできないこともありますがどのようなマインドセットでいきるかは今、自分で決められる」と書いてありました。
グロース(成長型)マインドセットで生きることはしあわせへの近道でありWell-beingな生き方と言えそうです。
Learning(学びの葉)× Meaningには他にこのような質問があります。
今でも気になる、あきらめたこと、投げ出してしまったことはありますか?
あなたが「人生で最も時間を使ったこと」は何ですか?
「会いたいけれど音信不通になっている人」はいますか?
「自分なりによくやった」と思えることベスト1は?
おわりに
「幸せとはあたり前のように過ぎていく日常のなかにあること。あたり前のようにあること自体、じつはあたりまえでないことに気づけること。それが幸せなのではないか」
これは、本の最後に書いてあり、印象に残った文章です。
Well-beingとは特別な何かではなく、自分の中にもう既に存在していて、
それに気づいて大切に育めば到達できるもの、なのかもしれません。
つかみどころがないと感じていたWell-beingが、とても身近なものになりました。
平井圭子
富山県出身。青山学院大学経営学部経営学科卒。
プロフェッショナルファームで10年以上人事業務に従事。妊娠・出産を経て人事系フリーランス&キャリアカウンセラーとして独立。現在はベンチャー企業の人事業務支援、大手法人のダイバーシティ&インクルージョン推進支援、大学・高校での相談業務に携わる。
仕事の目標は仕事が楽しいと思える人を増やすこと。
プライベートでやりたいことは全国の素敵な本屋さん巡りをすること。
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