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海外よりも自由に? 3カ国に住んで分かった、日本で“もっと自由に働く”ための3ステップ
SNSなどで目にする場面も増えた、海外の自由な働き方。雰囲気にひかれて、一度は気になった人も多いのでは?
海外の働き方のイメージ……
・ゆとりがある(悲壮感が漂っていない)
・人生が楽しそう(ライフワークバランスのライフが充実)
休暇や趣味を満喫しながら仕事も楽しむライフスタイルは魅力的に見え、日本の暮らしが少し窮屈に感じるかもしれません。
しかし、いざ仕事をしながら海外に住んでみると言語の壁、法律やVISAの違い、人種差別、友人をゼロからつくらなければいけない……などで、案外制約が多く「思ったほど自由がない」と感じることもあります。
では、本当の自由ってどこにあるのでしょうか?
海外3カ国での在住と現地勤務も経験した筆者が、最もおすすめしたいのは「日本」です。
「日本は同調圧力やルールが厳しく、自由な働き方は無理なんじゃないか?」という声が聞こえてきそうですが、あなたの「自律」次第でもっとゆとりを持てる可能性があるかもしれません。
本記事では、フリーランスの自由をかなえる自律的な働き方について、筆者の体験を交えてお伝えします。
夏子(Natsuko)
23歳でオランダでのインターンシップを経験し、現地のライフワークバランスに衝撃を受ける。その後、日本でもキャリアとライフワークバランスの両立を模索した。ファッション業界へ転向後、イギリスやスペインにも在住。ファッション業界で10年以上の経験を積み、フリーランスへ転身。現在は2拠点生活を送りながら、ライター・エージェントとして自由な働き方を実践中。最近の趣味は日本の地方巡り。自身の経験を投影したメディア、siesta magazineも運営。
Web: https://siestamagazine.net/
でもやっぱり憧れる、自由に見える海外の働き方
自国にないものは新鮮で魅力的に映るもの。かつての私もそう感じていました。
そんな私がこれまでに見た海外の働き方は次のようなものでした。(主にヨーロッパ諸国)
・夏休みは3週間〜1カ月
・クリスマスもしっかり長期休暇(休み優先の文化)
・出世するほど長期ホリデーを楽しむ(休みは豊かさの象徴)
・残業は必要な時だけ、定時に仕事を終えるのが基本
・女性管理職が仕事と子育てを両立
初めて海外で働いたのは23歳、オランダでのインターンシップ。
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当時は日本人の存在が珍しく、日本語で名前を印刷するだけで喜ばれた
帰国子女ではない私は、帰国後に入社した外資系企業でビジネス英語を徐々に習得しました。上司や同僚が頻繁にクビになる「外資の働き方」も経験し、お金という数字だけを追う環境になんだか満足できないと感じるようになります。
その後、たまたま紹介されたニューヨークの帽子デザイナーの展示会を手伝ったのが転機に。時間を忘れて仕事に没頭している自分に気づき、「情熱を注げるのはこれだ!」と感じて、ファッション業界へキャリアを転向しました。
ファッションの本場でグローバルな視点を身につけたく、引っ越したロンドンではファッション大学のコースに通いながらスペイン発ブランドの立ち上げにも参加。
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その後、スペインのマドリードにも滞在しました。帰国後はラグジュアリーブランドや国内外のブランドを扱うエージェンシーに勤務し、ファッション業界で10年以上過ごした後、コロナ禍をきっかけにフリーランスに。現在は国内で2拠点生活を送りながら、ライターやエージェントとして自由な働き方を実践しています。
3カ国での在住や、日本で働きながらヨーロッパ、アメリカ、アジア、オーストラリアなど20カ国以上の企業や人々と仕事をする中で、働き方の違いにもたびたび直面しました。例えば、仕事よりも長期休暇を優先する人たち(わりと普通)、昼休みが2時間以上のラテン国、夏の1カ月オフィス全員が休むイタリア企業など。そんな働き方の違いを肌で感じた経験が、私の視野を広げてくれました。
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結局、日本の働き方は何が根本的に違う?
かつての私が海外の働き方に漠然と憧れていた理由は、「自由に見えたから」。日本にはない自由がそこにあるように感じたのです。
しかし実際に海外で暮らしてみると、
・VISAの種類によって、職業や滞在期間が大きく制限される(簡単に転職できないことも)
・VISA取得までの手続きや費用がかさむ(特に移住先として人気の国は大変)
・人種差別がある(海外に一歩でると私たちは外国人。肌の色、言語の発音、地元住民でないがゆえに生じる差別もある)
・安全はお金で買う、安い場所はそれなりに治安が悪い
・住む場所を探すのが大変だったり、その国の常識を知るのに時間がかかる
・言語の習得やレベルアップには長年の地道な努力が必要
…などの理由で忙しく、思ったほど自由ではありませんでした。
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仕事や勉強だけができればよいわけではない
さらに、移住者を多く受け入れている国ほど、仕事やキャリアの競争も激しくなります。世界中から来たライバルと比較されながら自分の望む仕事とキャリアを得るには、「能力」「個性」、そして時には「運」が求められるのです。
自由を求めて向かった海外での暮らし。でも結局は様々な制約があり、現地の人たちにとっても必ずしも「自由」ではないということも知りました。階級、人種、生まれ育った家庭の環境や資産といった個人では変えられない背景が、暮らしの自由や選択肢に大きな影響を与えるケースも珍しくないのです。
日本にはない制約もある海外。それでも、海外の働き方が「自由」に見えるのはなぜでしょうか?
各地のさまざまな働き方を目にした結果、働く人の内側にある「自律心」に大きな違いがあると気づきました。
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仕事は放っておいても何とかなるので、週末のことを考えましょう!」と書いてある
変えるべきは環境よりも、まず自律心
自律心とは、環境に左右されず、自分の価値観や目的に沿って行動する力。
自由を作るのは外的環境ではなく、自分の在り方(=自律心)だと気づいたきっかけは、海外出身の経営者やフリーランスの友人・知人たちの存在でした。
彼らは、キャリアではさまざまなクライアントを抱えて世界中を飛び回っていましたが、プライベートでは数週間〜数カ月の休みを取るなど、ワークとライフの境界をしっかりと持ち、人生を謳歌していました。
特に印象的だったのは、仕事がプライベートに食い込みそうなときに、即座に「果たすべき責任」と「緊急性の低いタスク」を判断し、絶妙なバランスを保っていたこと。彼らは意図的に仕事にメリハリをつけ、自分にとって心地よいライフワークバランスを作り出していました。
周囲に左右されすぎず、自分のライフスタイルも考慮して仕事の優先順位を見極める。その自律心が、結果的に自由な環境を生んでいたのです。
また、興味深かったのは、必ずしも自由を犠牲にして高収入を得ているわけではないという点です。自律している人ほど役職や収入が高く、その自由も増していく傾向がありました。
このような彼らの姿をみて、理想のライフワークバランスは、環境を変えて誰かに与えられるのを待つのではなく、「自分で作り出す方が満足度が高いのでは?」と感じるようになりました。
日本出身者にとって日本はVISAや言語、金銭面での制限が少なく、アクションを起こしやすい環境が整っています。あとは自分の在り方次第で、自由を広げる余地が大いにあると思うのです。
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フリーランスは小さな経営者、さりげない自律で自由を広げられる
それでも、「日本人が日本で働くには色々なしがらみが……」と思うかもしれません。確かに日本の組織の中にいると、避けきれない色々な制約もあるでしょう。
ですが、フリーランスは違います。個人事業主、つまり個人レベルの小さな経営者。規模は小さくとも、自分の会社を経営しているのと同じです。ですから仕事で関わる相手は、同じ組織に属する上司でも部下でもなく、独立した「他社」としての関係となります。
この立場だからこそ、自分次第で相手とのほどよい境界線を引きやすくもあるのです。ここに自由なライフワークバランスを実現するヒントがあります。
日本人の特徴として、「他者と自分を同化しがち(それが時に同調圧力に変わる)」「優先順位をつけるのが苦手」という点があります。ですがフリーランスとして、さりげなく境界線を持ち、自分好みのライフスタイルに向けて優先順位をつけて行動すれば、環境に左右されずに自由を広げられるでしょう。
特に日本の文化では、「さりげなく」「平和に」行動するのが本質的な自由への第一歩だと思います。
以下に、私が考える「さりげなく自律する3つのステップ」をご紹介します。(海外の自律的な働き方を参考に、日本向けにローカライズしました)
日本で自由を広げる、さりげない自律の3ステップ
1、自分だけの優先順位をつける
すべてに全力で取り組むのは素晴らしいですが、働き方においてはゆとりがなくなり、苦しく感じる場面もあるかもしれません。ここは海外のメリハリのある働き方を見習って、自分だけの優先順位をつけてみませんか。
例えば、「昼休みが2時間以上」「夏の1ヶ月間はオフィス全員が休み」といった海外の働き方は明らかに「ライフ」を優先しています。同僚と過ごす楽しいランチタイム、家族や友人と過ごす夏休み。あなたの人生において、一番大切なものは何でしょうか?
・家族や友人と過ごす時間
・仕事のやりがい、自分の裁量
・休みの頻度や自由度
・人間関係
・給与水準
・勤務地、リモートワークかどうか
・出張の有無(旅気分で出張を好む人もいる)
・肩書やクライアントのブランド
・健康が維持できるか
・長期的な目標と仕事の方向性が一致するか
など。
この時のポイントは、自分の価値観を大切にすること。「⚪︎⚪︎さんがこう言ってたから」などと他人の価値観を判断基準にすると、本質的には自分に嘘をつくことになり、本当に望む自由から遠ざかってしまいます。今は確信が持てない人も、自分だけの優先順位リストをそっと作って眺めてみるといいと思います。
現在、暮らしにゆとりがないと感じている人は、上記で割り出した優先順位と仕事の状況は一致していますか?何か違うと感じる場合は、何がどのように違うでしょうか。大抵の場合、「自分の本当の望み」と「行動の基準」が一致していないのが原因だったりします。
海外で私が見たバランスの良い働き方をしている人々は、皆、自分に正直でした。休みたいから休む、遊びたいから遊べる時間をつくる、家族が大切だからここぞという時は家族を最優先する。実は結構シンプルでもあります。
2、引きの目線を持つ
フリーランスは小さな経営者。目先のタスクだけでなく、自分の仕事が全体にどのような影響を与えるのかを考える「引きの目線」が経営状況を左右します。
・この仕事はクライアントにとってどのような存在なのか?
・どのような方向性で仕事をがんばると、クライアントの富を増やせるのか?
・時間と労力を最適化するにはどうすれば良いか?
自分の役割を全体的な観点から捉えれば、メリハリのある働き方が可能になります。
例えば、製造の現場で5mmの違いを修正するのに何週間もかけるのは本当に重要でしょうか?
・安全性が求められる製品 → とても重要
・機能性よりもデザイン重視の製品 → 全体のバランスが美しく見えていれば許容されることも。納期を守る方が大切な場合もあります
引きの目線で自分の仕事の本質を見極め、柔軟に考えていくと、何に時間と労力をかけるべきかわかるようになります。自分を小さな経営者と見立てて視座を高めると、クライアントに還元しながら、働き方にゆとりを生むための道筋が見えてきます。
3、ほどよい境界線を持つ
さりげない自律のための最終ステップは境界線。境界線を持つことに不安を感じるでしょうか。
先述の通り、フリーランスと関わる相手はそもそも全員「他社」です。フリーランスとして働き始めた時から、境界線はすでにそこにあるのです。ですから、不本意にその境界線を越えようとしてくる相手には「境界線がありますよ」とお知らせするだけでOK。
お知らせするのは、どんな時か?
「引きの目線」で仕事の本質的な義務を果たしているものの、「自分だけの優先順位」の上位項目が守れそうにない時、それが境界線を意識すべきタイミングです。
フリーランスにおける境界線とは、業務内容、期間、対応範囲を定める業務委託契約です。
「クライアントの要求につい応じすぎてしまい、気づくと疲弊している」と感じる人は、仕事の本質を引きの目線で見極められているか、再確認する時かもしれません。また、契約と実務の担当者が異なり、実務の担当者が悪気なく契約の詳細を忘れている場合もあるものです。
働き方を自分で管理しなければならないフリーランス。無理をして途中で倒れるよりも、適切なキャパシティを保ちながら安定して働く方が、結果的にクライアントのためにもなります。ですから、自分のキャパシティと優先順位をしっかり把握し、それに合った内容で業務契約をあらかじめ結んでおくのが大切。そうすれば、あとは「ここに境界線があります」と伝えるだけで、自由とゆとりが生まれます。
そして実はゆとりのある働き方をしていると、学びの時間が取れたり新しいアイディアが生まれやすく、クライアントに還元できるサービスの幅も広がりやすいというメリットがあります。クライアントに多くを還元できる人材は「必要な存在」です。ゆとりの時間に自分の付加価値を上げながら、クライアントにどんどん還元していけば、境界線を持つことにも自信がついていきます。
フリーランスは業務委託契約を通じて、自分に合った働き方を自由にデザインできるのが魅力です。自分の中に自律心を育てて、日本にいながら自由なライフワークバランスを実現してみてはいかがでしょうか。
与えられるのを待つのではなく、自律で自由を作る
自律心とは、
・本質を見極める
・目的と手段を明確にし混同しない
・実現したい自分のイメージ(優先順位)を定め、外的要因に左右されない軸を持つ
これらを意識すると育っていくものです。
私は海外の文化やデザインに触れるのが好きで、また海外の企業や人々との交流から多くを学び、とても感謝しています。この記事の執筆依頼も、海外で働いた経験のおかげでいただけたものですし、これからも海外のさまざまなシーンから学ぶ場面も多いでしょう。また、短期的には今後も世界各地を訪ねたいとも思います。
と同時に、何気ない日常生活を送る拠点としては、日本が最も気軽で安心できます。VISAや言語、治安や医療での制約が少なく、その結果、自由の幅があると思うのです。
自由なライフスタイルを求めてなんとなく海外に憧れていた私が、こう思うようになったのも、自分の内面にある自律心が自由をもたらすと気づいたから。
「日本が嫌だから海外へ」ではなく、「日本も海外も良さがあるけれど、やっぱり日本が好き」という国際感覚と日本への愛着を持つ人がもっと増えるといいなと個人的には思います。
自由はどこかから与えられるものではなく、自分で築くもの。フリーランスという働き方だからこそ実現しやすいワークライフバランスについて、この記事が何かのヒントになればうれしいです。
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