フリーランスも主戦力のチームでデザインを内製化 一貫性のあるクリエイティブで一躍テック企業へ/株式会社出前館
フリーランス・パラレルワーカーが参画することで、チーム一丸で大きな成果を上げたプロジェクトにスポットを当て、フリーランスと組織の理想的な関係構築のあり方や共創意義を賞賛する「フリーランスパートナーシップアワード 2023」。本記事は、1次審査を通過したファイナリスト5組のうち、株式会社出前館の事例をご紹介します。
同社ではプロダクト開発の内製化を進める中で、デザイン業務についても内製化に着手。フリーランスを含むデザインチームを立ち上げ、アプリやWebサイトなどのクリエイティブを全方位でフォローできる体制を整えました。2022年にはグッドデザイン賞を受賞し、さらなる優秀なフリーランス人材の獲得に成功すると同時に、テック企業としてのプレゼンスも向上。社内の信頼も高まり「頼れるデザイン部」へと進化を遂げています。
今回は、株式会社出前館プロダクト本部デザイン部デザイングループ マネージャーの竹田敬輔さん、同社で活躍するフリーランスデザイナーの高橋 順さんと澤田 航さん、出前館とフリーランスのマッチング支援を行ったレバテック株式会社の𡈽川愛理さんにお話を伺いました。
ユーザー急増で、常駐できるデザイナーの確保が急務に
――竹田さんにお聞きします。御社のデザイン部門に、フリーランスを登用することとなった経緯を教えてください。
竹田:出前館は、地域の飲食店や商店とユーザーをアプリやWebでつなぎ、デリバリーするサービスです。47都道府県に広がる加盟店は全国に10万店以上にのぼり、地域を支えるライフインフラとなるべく、サービスとデザインの改善に取り組んでいます。
以前は社内にクリエイティブ専任のチームはなく、外部のデザイン会社に発注していました。そのため全体を通して整える観点が抜けており、部門や発注時期によってテイストがバラバラ、アプリやWebは古いバージョンをつぎはぎしながらアップデートするという状況が続いていました。
しかしコロナ禍を経てデリバリーが人々の生活に定着し、ユーザーが急増しました。それに伴い、Webやアプリをはじめとするクリエイティブのデザインの質を高め、出前館ブランドとしての統一感を持たせたい、顧客体験のさらなる向上を目指したいという思いが高まりました。
そして2020年3月のLINEとの資本業務提携が後押しするきっかけとなり、デジタルコンテンツを作りこめる体制が整ったと同時に、デザインやUXに求められるレベルも上がったのです。
そこで私の前任者が1人でデザインチームを立ち上げたのが、今に至る最初のきっかけでした。
――正社員のデザイナーだけで固める、という選択肢もあったかと思うのですが。
竹田:見直しをかけたいクリエイティブ量に対し、人材が大幅に不足していました。たとえばひと口に出前館アプリと言っても、ユーザー用、加盟店用、ドライバー用と分かれていて、またWebサイトも加盟店募集とドライバー採用ではまた違います。デザインはエンジニアと協業しながら常に改善し続けるものであるため、マンパワーの確保は急務でした。
もちろん正社員の採用も、並行して行っていました。しかし即戦力を見つけるのはなかなか厳しい。加えて、当時の出前館が「クリエイティブやテックに強い企業」という印象が世間に浸透していたとは言い難く、採用の苦戦は想像できました。
そこで経験豊かなフリーランスデザイナーの力を借りたいと考え、レバテックさんにご相談したんです。当初の募集条件は、社内に週5日常駐、2回に分けた商談の実施と、敬遠されかねないものでしたが、おかげさまで優秀な即戦力人材を確保できました。
正社員との区別のない関係と裁量の高さがやりがいに
――現在のデザイン部は、どのような体制ですか。
竹田:現在は正社員が5、6名、フリーランスが十数名のデザイナーで動いています。少しずつ人数が増え、ようやく全方位のデザインに注力できる体制が整ってきたところです。
マネジメントなど一部の業務を除き、正社員とフリーランスが担う仕事は同様で、出社での作業とリモート作業の比率も変わりません。おそらく、他部署の社員もデザイン部の誰が正社員でフリーランスなのか区別がついていないと思います。だからといって、マネジメント面で特別苦労するなども感じたことはありませんね。
ただ正社員は比較的ジェネラリスト志向で、いろんなクリエイティブに携わるのに対し、フリーランスは「イラストが得意」、「Webやアプリに強い」などそれぞれ得意なことが明確なので、スペシャリストとして活躍する傾向にあります。
――フリーランスとして活躍されているお二人は、なぜ出前館に参画することになったのでしょう。
高橋:10年ほど案件型でデザインの仕事を請けながら、自分でもアパレル系ECサイトを運営しています。写真撮影やSNSやWeb広告の出稿なども自分で手がけているので、「ECの経験を活かせる仕事をしたい」とレバテックさんに相談したところ、出前館さんを紹介されました。デザイン部には2022年10月からジョインし、オフィスには仕事の状況に合わせて週3回ほど通っています。
澤田:私は大学在学中から、フリーランスとしての活動を始めました。不動産やインテリア系企業のブランディングやWebデザインに携わりつつ、今は自分でもインテリアショップを持っていて、実店舗とECの両方があります。
実は竹田さんとは、過去に同じ職場で働いていたこともある仲です。昨冬、うちに子どもが生まれ、自主育休を取っていたタイミングで「時間の自由もききやすく、意思決定の上流から関われる」と竹田さんから声をかけてもらい、出前館に参画しました。平日は出前館で業務を行い、週末はインテリアショップの仕事をしています。
――出前館で働いてみて、意外に感じたことや良かったことはありますか?
高橋:出前館では与えられる裁量が大きく、こちらから提案もできます。正社員と大差なく、自由にやらせてもらえているなと感じます。また、デザインチームには、自分にはない考え方やスキルを持つ方がたくさんいる。日常的にインプットの量が増えて、ポジティブな変化がありました。
澤田:驚いたのは、参画直後にラフ案を社長に説明する機会があったこと。中堅以上のデザイナーだと、すごくやりがいを感じると思います。風通しのいい会社の風土も魅力的で、正社員かフリーランスかなど誰も意識せずに働いている印象です。私自身、印刷会社など取引先や協力会社との窓口を務めることもあります。
――正社員として雇用関係を結び、個人の仕事は副業で、という働き方も考えられる中、あえて、フリーランスとして企業に参画する理由は?
高橋:今の働き方は収入の安定を確保したうえで、自身の事業ではチャレンジできるのが魅力だと感じています。また雇用関係を結んでいるわけではないので、働き方を柔軟に調整できます。たとえば自身のECに注力したい時期は、週3日コアタイムだけ働くといった関わり方もできると思うんです。「いいとこどり」のバランスを探れるところが、自分に合っています。
澤田:私自身はフリーランスに、それほど固執してはいないんです。ただひとつの仕事に専念するより、複数のプロジェクトを並行して進める働き方のほうが向いている気がします。なぜならそれぞれの仕事で得た知見を、ほかの場面で活かせる感覚があるからです。
それに仕事のキャリアに限らず、ライフステージによっても自分にふさわしい働き方は変わってきますよね。正社員やフリーランスといった形態にこだわらず、その時々で最適な選択ができたらと思っています。
チャレンジの障壁が下がり、優秀な人材と出会えるのがフリーランス活用のメリット
――デザインチームを立ち上げ、フリーランスとの協業を図ったことで、どのような成果がありましたか。
竹田:チームで最初に手掛けたのは、デリバリーを注文されるお客さま向けのスマホアプリの改修でした。レバテックさんにご紹介いただいたデザイナーさん2名と社員1名で、アプリのUI/UX、ビジュアルなどを1年半ほどかけて改善していきました。
そして当時、私の前任がフリーランスデザイナーと雑談していたとき、「グッドデザイン賞に応募してみては」と提案を受けたのをきっかけに、受賞をマイルストーンとして設定することに。レバテックさんから新たに、別のサービスでグッドデザイン賞に携わったことのあるデザイナーを紹介してもらい、準備を進めた結果、2022年に獲得できました。
「WebやアプリのUI/UXやブランディング、コミュニケーション面、加盟店や配達員のワークフロー設計に至るまで、クオリティの高い体験デザインを実現している」と評価をいただき、顧客体験向上に向けて尽力した証を得ることができました。
社内でもチームの認知度も格段に上がっていて、他の部署から依頼されるクリエイティブの数も、立ち上げ期から比べると2~3倍になっています。また先日、ようやく「ブランドガイドライン」を社内に向けて公開することができました。クリエイティブ全般に関わるガイドラインで、ブランディングには欠かせないものです。制作には澤田さんたちにも入ってもらいました。今後、クリエイティブにより統一感が生まれることが期待されます。
――デザイン部が組織として機能する中、現在もフリーランスを活用し続ける理由はどこにありますか?
竹田:ひとつは正社員よりも応募障壁が下がることで間口が広がり、優秀な人材が獲得できる傾向が見えてきたからです。正社員の場合、入社後に合わないと気づいても辞めづらいこともあり、働く側も応募に慎重になりがちです。その点、業務委託のほうがチャレンジングに会社を選べるようで、いろんな経歴をお持ちの方がエントリーしてくださる印象があります。
もうひとつはやはり、自社にないナレッジや経験を持ち合わせていることですね。高橋さんや澤田さんのように、正社員とは異なるバックグラウンドやインハウスデザイナーだと外注しがちな経験を持っていて、実際の業務に生かしていただけると期待しています。
澤田:今のチームでは私は最年長に近く、人に教える場面も少なくありません。それが自分にとっても勉強になっています。自分たちの経験を伝えながら、チームがビルドされていく感覚がとても新鮮です。
𡈽川:出前館さんは商談の際に、候補者に対して一人の“人”として向き合っている印象がありますね。商談では「業務を通じ、どんなキャリアを築きたいのか」、「なぜフリーランスという働き方を選んだのか」など、個人の考え方やビジョンまで質問されました。
事業を共に拡大するパートナーと出会いたい、出前館での経験がその人の将来にプラスになってほしいといった姿勢が伝わることで、優秀な人材を惹きつけているのではと感じます。
――フリーランスが組織で各自の持ち味を発揮するために、大切なこととは何でしょう。
竹田:自己決定できる余地が大事だと感じます。私自身も過去に別の会社でフリーランスとして働いていたことがあって、そのときは上流の情報を正社員だけが知っていて、フリーのデザイナーには作業のみが降ってくることに不満を感じていました。
今はマネジメントの立場として、情報はできるだけオープンにし、判断できるだけの材料を伝えるように心がけています。幸い全社ミーティングや月次の業務報告にも、デザイン部のすべてのメンバーが参加し目を通してくれています。
高橋:今の仕事に思いきり打ち込めているのは、自分に裁量が与えられていることで、「パフォーマンスを最大限に発揮したい」という意欲を持てているからだと思います。
出前館で働くようになってしばらく経ちますが、社内でのプレゼンスや関係値を高めることで、より重要な仕事や、上流工程に関われるようになりました。案件型では得られない経験も多く、腰を据えて取り組んだ方がおもしろい仕事ができると感じています。
澤田:サービスや経営にまつわる情報は、良質なデザイン提案をするうえで欠かせません。優秀なフリーランスというのは、指示されなくてもそういった情報を自分で取りに行ける人だと思います。私もいろんなSlackのチャンネルを覗いては、全社的な動きをチェックし続けています。
フリーランスはプロとしての仕事ぶりや、アウトプットを求められています。実現するには与えられるのを待つのではなく、自分から動くことが大事なのではないでしょうか。
――フリーランスと正社員の垣根を取り払い、対等な関係を築くことで、高いパフォーマンス発揮や大きな成果につながっていたんですね。一人ひとりのキャリアを考えた出前館の組織づくりや、積極的に組織にコミットするフリーランスのお二人の姿勢に刺激を受けました。本日は、ありがとうございました。
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