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顧客が「逆切れ」して報酬払わず、賠償請求までされた…フリーランスの「怖い話」から、法的トラブルの対処法を学ぶ!

フリーランスや副業・兼業など個人の立場で働いていると、クライアントから賃金が支払われない、ハラスメントを受けた、突然契約を切られた、といったトラブルが起こることもあります。

一緒に仕事をする人と争うなど考えたくもない……と目をつぶりがちですが、いざ起きた時、泣き寝入りしないための「備え」も重要。副業やフリーランスなどの相談窓口「フリーランス・トラブル110番」に実際に寄せられた事例を基に、トラブルへの備えと対処法を考えました。

※この記事は、10月19日にプロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会が開いたオンラインイベント「実際にあった怖い話から学ぶ契約トラブル回避の基礎知識」の内容を再構成しました。事例の一部は相談者を特定されないよう、内容を抽象化しています。

フリーランスが直面! 本当にあった「怖い話」

まず初めに、フリーランス・トラブル110番に寄せられた体験談――「本当にあった怖い話」を5つご紹介しましょう。

怖い話① 「お金がない」と、報酬50万円が未払いに

ウェブデザイナーAさんは、クライアントの依頼でウェブサイトを制作したものの、契約書は交わしていませんでした。仕事は完成したものの、顧客は約50万円の報酬について「(支払う)お金がないので、分割払いにして」と要求。Aさんは仕方なく応じましたが、支払いを求める電話もメールもメッセージもすべて無視されるようになり、1円も支払われませんでした。

怖い話② 相手が逆ギレ、損害賠償を請求された!

イラストレーターのBさんは、完成品に対して発注者から「ここを直して」と、最初に合意していた以上の修正をひんぱんに依頼されるように。Bさんが契約書を作って持参しても、「また今度」と署名・押印せず放置されてしまいます。

「話が違うので、これ以上は仕事を受けられない」と言うと、相手は逆切れして報酬支払いを拒否。さらに損害賠償まで請求されてしまいました。

怖い話③ 完成直前に「もういらない」と契約解除、請求書も無視

ウェブエンジニアCさん。委託を受けた仕事が8割程度進み、間もなく完成というところまで来た頃、「もういらないんで」と、顧客から突然契約を終了されました。

報酬の半分は前払いされていましたが、残りは請求書を送っても音沙汰がありません。

怖い話④ 契約をやめたいけれど、相手が怖い…

エンジニアDさんはアプリ開発の仕事を請け負ったものの、自分の力量不足もあって顧客から修正依頼が相次ぎました。

納品はしたので契約をやめたいのですが、相手が「完成させないなら法的措置を取るぞ!」と高圧的な態度に出るため、怖い思いをしています。

怖い話⑤ 他社向けの仕事をコピペして納品、バレたが逃げようとしてトラブルに…

シナリオライターEさん。以前別の会社向けに書いた未公開作品をコピペして提出したことが、発注者にばれて報酬返還を求められました。

一定額を返すことで一時は落着に向かったものの、Eさんが友人に「お金を返すなんて甘い、なめられてるよ」と言われたことで一転、返還を拒否し、かえって顧客を怒らせてしまいました。

「怖い話」になる前に!弁護士が教える

フリーランス・トラブル110番には、毎月300件を超える相談が寄せられると言います。その中身の大半は、未払いや支払い遅延など、報酬を巡るトラブルだそうです。

今回は、上記の5つの事例を踏まえて、「110番」を運営する第二弁護士会の堀田陽平弁護士に、トラブルへの「備え」を聞きました。

①ない袖は振れない。契約の際に、相手の支払い能力を見極めよ!

発注者にお金などの財産がなければ、たとえ裁判などで顧客の未払いが認められても、報酬を取り戻すことは物理的に難しくなってしまいます。

まずは契約時に相手に支払い能力がありそうか、きちんと見極めましょう。一括払いできないクライアントからは、分割で少しずつお金を回収するのも一つの手です。

②納得のいかない要求には、毅然と対応を!

支払い猶予を求められた時、安易に承諾するのはNG。納得できなければ毅然と拒否するか、支払い期限を明確にすべきです。分割払いの場合も、毎月の支払い額と分割回数を決めましょう。事前に合意すれば、利息を求めることも可能です。

またCさんのように完成まで80%の進捗度だった場合、納品することで発注者にも利益が生じるのであれば、作業割合に応じた報酬を請求できる可能性もあります。

③メールやSNSは証拠になる。

未払い報酬を請求する際、「何の作業をいくらでするか」という契約が成立していることを、受注者が立証する必要があります。もちろん、契約書を交わしておくことが最も重要ですが、Aさんのように契約書を交わしていなくとも、メールやLINE、メッセンジャーなどの記録が証拠になりえます。

またBさんのケースのような、相手の署名・押印のない契約書も、当初の契約内容を推測させる重要な材料です。LINEやメッセンジャーの場合、相手に送信を取り消されないよう、スクリーンショットを保存しておきましょう。

④「法的措置」を怖がりすぎないで。

発注者が損害賠償を求める場合、「受注者に落ち度があり、損害を被った」ことを立証する責任は、発注者側にあります。フリーランス側が契約通り仕事を完成させていれば、不用意に怖がる必要はありません。

また法的トラブルの際にしばしば使われる「内容証明郵便」は、単に「郵便を出した」ことを証明するだけ。内容証明が来たからといって、「自分に非がある」と思い込む必要はありません。

⑤フリーランス側も約束は守ろう。

フリーランスの契約には、主に委任契約と請負契約があり、委任契約では受注者、発注者ともに契約を終了できる「任意解除権」があります。

しかし請負契約の場合、受注者に任意解除権はなく、Dさんのように受注者が契約終了を希望する場合、発注者に契約違反がない場合には、発注者との交渉で解除することが必要です。

フリーランスのほうも、契約は簡単には解除できないことを肝に銘じましょう。内容のあいまいな仕事を安易に受けず、自分の力量に見合うかどうか確認すること。また、Eさんのように自分の落ち度を認めず、発注者の心証を損ねると、さらに多くの支払いを求められる場合もあります。

トラブルが起きたら「少額訴訟」「支払督促」「和解あっせん」

では、実際にトラブルが起きたときはどうしたらよいのでしょうか。そのときの対処法を、同弁護士会の山田康成弁護士に聞きました。

・少額訴訟
少額訴訟とは、請求額が60万円以下の、お金の支払いを求める場合に利用できる裁判所の手続きです。

通常の民事訴訟では、弁護士費用がかさむ上に審理も長期に及ぶなど、請求額に見合わない負担を強いられがち。一方、少額訴訟は原則1回の審理で終わるのがメリットです。裁判所は原告、被告双方の主張を踏まえ、判決を言い渡したり、話し合いによる和解を勧めたりします。

・支払督促
支払督促は、簡易裁判所に金銭の支払いを申し立てる制度。書類審査だけなので裁判所に出向く必要はなく、手数料も訴訟の半分ですみます。ただ相手が異議を申し立てた場合、相手の住所地を所管する裁判所での訴訟手続きに移るため、発注者のオフィスが遠い場合などは注意が必要です。

少額訴訟、支払督促はいずれも、相手が異議を申し立てなければ申立人の言い分が認められるので、相手は手続きから逃げることができません。また相手が、裁判手続の結果に応じない場合、強制執行を申し立てをすることができます。

・和解あっせん
和解あっせんは、フリーランス・トラブル110番が提供している手続きで、キャリア10年以上の弁護士が「あっせん人」となり、当事者間の話し合いを仲立ちして、紛争解決を助ける方法です。申し立てが簡単で手続き費用は無料。契約条件の見直しなど金銭請求以外の案件も扱えます。

あっせん人が間に入って、当事者の間で納得のいくまで解決策を話し合ってもらう手続きのため、柔軟な解決を探ることができますし、オンライン上での話し合いも可能です。ただ相手に参加を強制する力はありません。

トラブルに悩んだら、迷わず「フリーランス・トラブル110番」に連絡を!

「フリーランス・トラブル110番では、和解あっせんの申立書の書き方や、証拠提出に関するアドバイスなどもしています。和解あっせんの手続きは、仕事をキャンセルする際のルールを決めるなどの話し合いもできるので利用してみては」と、山田弁護士。「110番」ではこのほか、労働基準監督署や公正取引委員会など、相談に応じて解決に適した機関も紹介しています。

またフリーランス協会は、今年9月からすべての一般会員に、報酬トラブルなどで生じた弁護士費用を最大70万円まで補償する保険サービス「フリーガル」を提供しています。

最も大切なのは、「トラブルを回避すること」であるのは大前提。しかし、いつ自分がトラブルに巻き込まれるかなんて、誰にも予測できません。

もしトラブルに悩む日が来たら、「フリーランス・トラブル110番」に連絡してみてくださいね!

(著者プロフィール)
有馬知子(ありま・ともこ)
フリージャーナリスト。共同通信社を経て独立。取材テーマはひきこもり、児童虐待、性暴力被害や労働問題、多様な働き方など。
HP: https://note.com/tomoko_arima/

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