自由だからこそ指標がいる――映画『ブックセラーズ』監督に聞く「好き」の貫き方
「紙の本」と「電子書籍」なら、私は断然、紙派です。匂いをくんくんしたり、残りのページが減っていくのを名残惜しく感じたりと、紙の感触を楽しみたい。
4月23日公開の『ブックセラーズ』は、紙の本を愛する偉大な先輩方が主役のドキュメンタリー映画。世界最大規模のニューヨーク・ブックフェアの裏側や、そこに出入りする著名なディーラー、希少本のコレクター、個性的なブックストアの経営者らの貴重なインタビューで構成されています。
芸術や文化で稼ぐことは難しいけれど、こだわりと偏愛を貫き、我が道を行くブックセラーたちに魅了されます。
この映画の監督は、叔父と叔母もブックセラーだったというD・W・ヤングさん。ヤング監督へのZOOM取材が実現し、「好き」を貫くブックセラーたちの素顔や、インディペンデントで映像作品を手掛けている監督のフリーランサーとしてのこだわりなどを聞きました。
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――本を題材にした映画『ブックセラーズ』を撮ることに、どんな価値を感じたのですか?
D・W・ヤング監督(以下、監督):文学のようなハイカルチャーが守られてきたのは、それに貢献してきた人がいたから。ところが、文化を守ってきた貢献者の存在が忘れられている。その存在を伝えることに、価値があると思いました。
――「好きを貫くタイプの人が多い」という意味では、この映画に登場するブックセラーたちはフリーランスで働く人と共通項が多いと思いました。彼らの生き方の魅力はどんなところだと思いますか?
監督:本の業界の人たちは、もともと権威的なものを信用せず、ヒエラルキーには入り込めないタイプが多いと思います。「ボスになるなんてゴメンだ」という考え方の人たちですから。エキセントリックと言ってもいいかもしれない。だけど、この業界はそういうタイプの人のほうが成功していると思います。
ニューヨークのブックフェアに行くと、風変りな人たちが集まっていて、とても面白い。彼らは自由ですが、自由だからこそ、どのように進んでいくのか考えることが非常に大切で、指標のようなものが必要になる。自由を得るには選択を間違えてはいけないのだと、彼らへの取材を通して感じました。
――映画の世界も同じだと思いますが、「好きを貫く」と「お金を稼ぐ」の両立って難しいですよね。
監督:フリーランサーとアーティストは全く同じだとは言えませんが、1つ確かなことは、立ち止まってはダメだということ。私自身、前進することが大切だと常に感じています。
ブックセラーたちは、たとえお金にならなくても、情熱を持って好きな道を進んでいますが、彼らがその道を「選択して」進んでいるということが大事です。
――映画の中で「Kindleで本を読むのは主に40代で、若者は紙の本を好む」と紹介されていました。アメリカではそういう傾向があるのですね。意外でした。
監督:統計的にはそうですね。インターネットやスマートフォンを見ることに時間が奪われている今の世の中で、紙の本を読んでいると「ちょっとカッコイイ」という意識があるのかもしれません。30年前なら何とも思われないですが、今、誰かが紙の本を読んでいれば「自分の意志で選択して読んでいる」と分かる。本を読むということは「自分はどういう存在なのか」という自己表現になっているのだと思います。
――本を読むことも自己表現だという視点は新鮮です。ところで、監督は完全にインティペンデントで活動しているのですか? インディペンデントのアーティストとしての仕事の厳しさ、楽しさを教えてください。
監督:完全にインディペンデントです。
映画作りにはお金がかかるので大変です。映画監督だけで暮らしていくのは現状大変なので、プロデュースや編集などの仕事を引き受けて収入にしています。
映画作家として信念にしていることは、ファイナルカット(※)は譲らないということ。コマーシャルの制作など、「ジョブ」として引き受ける時にはこだわりませんが、自分の「作品」として監督するときは絶対に譲りません。(※最終編集版。たとえばハリウッドでは監督ではなくプロデューサーがこれを決める権利を持つ)
自由ではありますが、映画作りは共働なので、まったく自由に作れるなんてことはあり得ない。その中でどこまで自分の自由を守れるのかというところは、常に大きなチャレンジです。でも、仕事を積み重ねていくと、以前より少しずつ自由がきくようになり、少しずつお金も入るようになる。すべては積み重ねです。
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監督の口から繰り返し出てきた「自分で選択する」という言葉。成功も失敗も自分の選択の積み重ね。そこがフリーランスの厳しさでもあり、やりがいでもあると改めて感じました。