「mixiに届いたDMが転機」。地方の会社員→フリーランスエンジニアへ、転身を支えた「学び」と「発信」とは
フリーランス協会の会員特典である、オンライン学習プラットフォーム『IBM SkillsBuild』。フリパラでは「フリパラSkillsBuild特集」として、その活用方法やおすすめ講座を紹介しています。
今回ご登場いただくのは、2013年から地方でフリーランスのエンジニアとして活動するS(エス)さん。
最初の頃はエージェントに依頼して仕事を獲得していましたが、コロナ禍以前はリモートワークができる案件がなかなか見つからず、希望する仕事を探すのに苦労していたと振り返ります。
そんな状況を変えるべく、エスさんは「スキルチェンジ」と「個人で仕事を獲得できる状態」を目指すことを決意。自己研鑽と発信を強化し、現在ではTwitter経由で直接仕事が得られるようになりました。その後も引き続き、週1日を学習日と設定し、自分の開発やアウトプットの時間にあてています。
本記事では、そんなエスさんに学びの時間の重要性と、習慣化の工夫について聞きました。
『mixi』に届いたDMが転機に
──エスさんがフリーランスになったきっかけを教えてください。
たまたま『mixi』にログインした時に届いていた、案件を斡旋しているエージェントからのDMがきっかけでした。
DMにはフリーランスとして活躍しているエンジニアの事例が紹介されていて。その中で、週1日平日に休みをとり、病気の治療のために通院しながら働いている人のエピソードが紹介されていました。
当時の僕は岐阜県の田舎に住んでいました。もともとは名古屋でSEをしていたのですが、家族の事情で引っ越すことになって。そこでは、プログラマやエンジニアの求人はなく、やっと見つけた「社内SE」の職も、条件面で満足のいくものではありませんでした。
とはいえ、田舎に住みながら都市部で働くのは現実的ではないと思っていたんです。だからDMの事例を見て、「こういう働き方もあるんだな」と。
そのことがずっと頭に残っていて、ある日ふと、「平日に出稼ぎのようなかたちで名古屋まで出て、週末に岐阜の家族のところに帰る働き方ができるなら、フリーランスという選択肢もあるのではないか」と思いました。
そこでDMに返信をして話を聞いてみたところ、希望の働き方がかないそうだったので、すぐに会社を辞めてフリーランスに転身しました。
──会社員からフリーランスに転身をするのは、10年前だと今以上に勇気がいる決断だったと思います。最終的に背中を押したものは何でしたか?
多分、当時働いていた会社への怒りだったと思います。製造業の現場で社内SEとして働いていましたが、怒号が飛び交うような職場で。
あとは、給料面の問題もありました。田舎の企業の給与は本当に安く、40歳過ぎで手取りは20万円ほど。このままでは子どもを大学に行かせてあげられないなと。
そうした理由から、「この現状をどうにかしなければまずい」という危機感があり、結構強引に道を変えましたね。
とはいえ、その会社で5年弱働いていたので、DMを見ていなかったらあのまま働き続けていたかもしれません。精神的に追い込まれるような事態になっていたかもしれないと考えると、良いタイミングで働き方を変えられたなと思います。
アウトプットは不測の事態に自分を助ける資産となる
──最初はエージェントから仕事を紹介してもらっていたと聞きました。現在は直接契約で仕事を得ているそうですが、案件獲得の方法を切り替えた理由は何ですか?
エージェント経由では、僕が希望する条件の仕事がなかなか見つからなかったことが大きいです。
以前の僕はJavaという言語で、業務系システムをメインに仕事をしていました。案件自体は潤沢にあるものの、そのほとんどが客先常駐です。
一方、Web系企業ではリモートワークが少しずつ広がり始めていました。そういう働き方をするには、Web系のスキルに舵を切る必要がある。そこで2019年頃からLaravel/Vue.jsを学び、Webエンジニアにスキルチェンジをしました。
同時に、自分のサイトで「こういう仕事を探しています」「こんなことができます」という技術ブログをアップしたり、当時はツイッター転職がトレンドになっていたので、その波に乗っかってつぶやいてみたり。
そうするうちに、名古屋の企業の方からツイッターでお声掛けをいただくことができました。半年ほど出勤すればそれ以降はリモートワークに移行できると聞き、実際に仕事をしましたね。
──発信した結果、個人で仕事を得られるようになったのですね。
インターネット上で情報を探すのが当たり前な現代において、ネット上にアウトプットがないということは、ネット上に存在していないのと同じだと思っています。
急に契約を打ち切られたり、何かの状況が大きく変わって焦ったり……というのはフリーランスあるある。平常時からコツコツとアウトプットを続けることは、そういった不測の事態に自分を助けてくれる資産になると考えています。
実は、それを痛感したのが、先ほどお話ししたツイッター経由でお声掛けをいただいた名古屋の企業の件です。半年ほどで先方都合により契約終了となってしまい、1カ月ほど無収入になってしまって。
「手が空きました」と発信したらいつでも声が掛かるような状態をつくらなければまずい。そう実感したことで、ブログやツイッターを熱心にやるようになりました。
特にエンジニアの場合、大手からベンチャーまで、さまざまな企業が社外の人も参加可能な勉強会を開催しています。そういう機会を通じて、自分を知ってもらうこともできると思います。
──とはいえ、現在エンジニアは超売り手市場です。コロナ禍でリモートワークも広まり、エージェントから良い条件の仕事を紹介してもらいやすいのではとも思います。
そうですね。エージェントに依頼すればすぐに仕事は見つかりますし、コロナ禍でリモートワークが広まったことで、きっと働き方の希望もかなえやすくなっているでしょう。
ただ、この状態は嫌というか、なんだか引け目があるんです。
今はたまたまラッキーな状態にあるだけで、本来フリーランスにとって重要なのは、自分のスキルとお金を引き換えること。それを自力でできなければ生きていけないわけで、全てをエージェントに委ねている状態は健全ではないように感じています。
スキルアップや発信の時間を確保する工夫
──現在はどのような働き方をしていますか?
リモートで、東京のカンリーというBtoBのSaaSをやっているスタートアップで働いています。ツイッターで声を掛けていただいて、もう3年になりますね。
働き方は、週4日稼働が目安。最近は忙しいのでなかなか実現できていませんが、余った3日のうち2日間を休みにして、残りの1日を学習や個人開発の時間にあてるのが理想です。
フリーランスには過去に蓄積したスキルや経験を切り売りする面があり、それはある程度仕方がないと思っています。だからこそ、新しいものをキャッチアップしなければという切迫感や焦燥感は常にありますね。
なので、仕事で生活費のベースを作りつつ、新しいことをやる時間も確保するように意識しています。
──週1日の学習や個人開発の時間で、具体的には何をしているのでしょう?
まず学習については、勉強会やイベントに参加することが多いです。ようやくリアル開催も増えてきて、先日は名古屋で開催されたもくもく会に参加しました。
オンライン参加だと結局裏で内職してしまいがちですし、リアル開催の方が他のエンジニアとの交流もしやすいので、やはりオフライン開催がいいなと感じています。
一方の個人開発では、今は仕事で使っているLaravelの新しいバージョンを使ってみています。仕事でいきなり最新バーションに切り替えることはできないので、新しい技術は個人で追いかけることが多いです。
こちらは趣味と実益の双方を兼ねていますね。楽しんでやっていることが、結果的にスキルアップにつながっているようなイメージです。
──スキルアップや発信にあてる時間を確保する難しさは多くの人が感じているところだと思います。何か工夫していることはありますか?
大きく3つのイベントやコミュニティを活用しています。
1つ目は「みんなのITもくもく会」です。月曜と金曜の朝8時から10時にオンライン開催されているので、スケジュールに組み込んで習慣化ができます。
2つ目は僕が主催している「やってみる部」。年齢を重ねていく中で、新しいものに対して「ふーん」で終わることが増えてきて。好奇心がなくなっていく恐怖があります。
そこで月1回、気になっていたことを試す機会として、こういう場をつくりました。近所にできたお店に行ってみる、本や映画の感想を話すなど、内容は何でもOK。参加者は毎月3〜6人くらいで、オフラインで小規模にやっています。
──プログラミングに限らず、好奇心を刺激することが目的なのですね。
そうです。農業をやっている方など、エンジニア以外の方も参加してくださっていますね。普段は同じ業界やエンジニア同士のつながりがほとんどなので、さまざまなジャンルの人と接するだけでも好奇心が刺激される感じがします。
そして3つ目がPodcast「Tech系フリーランスが選ぶ最近の気になるトピックス」です。「みんなのITもくもく会」を主催している方と一緒にやっています。アウトプットをするためというよりは、趣味に近いですね。
たぶん、僕は告知力のようなものを持ちたいのだと思います。新しいものをつくり、広めたい人がいたときに、それを紹介する場と力がほしいのでしょうね。
──イベントを主催したり発信したりと、外に向けて何かをすることが好きな印象を受けました。ご自身ではどう思いますか?
言われてみるとそうかもしれないですね。
ただ、リーダーシップを持ってみんなを引っ張るのはめちゃくちゃ苦手です。どちらかというとサポートの方が向いていると思いますし、会社員の頃は今みたいな活動はほとんどやっていませんでした。
当時の自分からすると、今の自分は意外かもしれないですね。フリーランスになって考え方や意識が変わったところはありますし、自分的には「よくやっているな」という感じです。
エスさんおすすめ講座
エスさんのお話は、フリーランスに興味はあるものの、「自分は発信が苦手だから向いていないだろうな」と思っている人にとって励みになったのではないでしょうか。最後にエスさんに、『IBM SkillsBuild』から受講できるおすすめの講座を教えてもらいました!
「効率的な学習方法が学べる講座です。具体的なプログラミングや技術ではなく、習慣化やマインドセットなど、「どのように勉強を進めていくか」を俯瞰的に学ぶことができます。
プログラミングを学ぶ人は増えていますが、挫折しやすいとも耳にしますので、まずは学習を継続する方法を知ることが有効だと思います」(エスさん)
「プログラミングをこれから始めたい人や、エンジニアになって間もない人におすすめです。
Webシステムの技術は移り変わりが早く、今はツールを使えば楽にシステムをつくることもできますが、とはいえ基礎知識も重要です。この講座ではプログラミングの歴史を追いつつ、基礎を深く学ぶことができます。
その上で、LINEとの連携なども含まれていて、学べる範囲はかなり広いです。つくったものが実際にLINEと連携して動くので、達成感もあると思います」(エスさん)
「人に対してどのようにアプローチをして、興味喚起をし、反応をもらうか。いわゆるナーチャリングについて体系立てて学べます。
僕はエンジニアなのでマーケティングは普段の仕事で携わることのない領域ですが、こうした考え方を理解できると、例えば自分でイベントを開催し、人を集めるときに役立ちます。フリーランスであれば、自分自身のマーケティングにも生かせると思います」(エスさん)
「3つ目と同じく、マーケティング系の講座です。マーケティングの考え方と、チラシの見本を見ながら伝え方について学ぶことができます」(エスさん)
「ベストセラー『13歳からのアート思考』を動画で追体験できます。
『13歳からのアート思考』では、美術史の流れを踏まえた上で絵画が評価される理由が紹介されていて、絵画の楽しみ方を知ることができます。動画では実際の作品を見ながら解説を聞くことができ、より理解しやすいと思います。
個人的に『13歳からのアート思考』は新しいものの見方や考え方に気づかされた本で、とても面白かったんです。当たり前だと思っていることに対して、自分の中で問いを立て、自分なりに考えることが重要だと普段から思っているのですが、その良いきっかけをもらえる内容です」(エスさん)
「GoogleChromeの拡張機能で、動画の再生スピードを上げることができます。講座のスピードはゆっくりなので、動画を集中して見るには2倍速でも遅いと感じることがあって。3倍速でも余裕で理解できるので、もう少しスピーディーに学びたいと思った時に便利です」(エスさん)