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街角の鉢植え観察からTVレギュラー出演へ|路上園芸鑑賞家 村田あやこ【偏愛マニア#01】

こんにちは。村田あやこと申します。
4年前からフリーランスとして、ライターを中心にお仕事しています。
実はライターの傍ら、「路上園芸鑑賞家」という、やや謎めいた肩書きを名乗っている私。もともとライフワークとして続けていた街歩きや街の植物鑑賞が、書籍執筆やワークショップ講師といったお仕事として広がってきました。
この連載「村田あやこの偏愛マニア探訪記」では、私を含め、それぞれの「偏愛」を軸に様々な活動をしている方に、「好き」で続けてきたことがどうやってお仕事につながってきたのか、お話を伺いながら紐解いてまいります。
 
第1回は、私・村田あやこについてです。

肩の力が抜けた植物との付き合い方に惹かれた

隙間に根ざしたベゴニアたち。

突然ですが、街を歩いていてこのような風景が目に留まったことがある方はいらっしゃいますか?
写真は、東京某所で撮影した1枚です。ベゴニアという植物が植えられたプランターが、路地の一角に置かれていました。よく見ると、すぐそばの隙間でも、ベゴニアが顔を出しています。おそらくプランターから一味が逃げ出し、隙間に根ざしたのでしょう。

鉢をぐるりと取り囲む。

特に下町と呼ばれるような街の路地を歩いていると、家々の軒先や店先などに鉢植えが並ぶ風景をよく目にします。鉢の周囲を見渡してみると、植物の一味が鉢から周囲へと逃げ出していたり、別のところからやってきた流浪の植物がちゃっかりと鉢に居座っていたり。
植物も植物で、虎視眈々と居場所を開拓しています。

私が愛してやまないのは、こうした街の一角で営まれる園芸や、その隙間で生きる植物たち。「路上園芸」と呼んで愛でています。

「路上園芸」に開眼したきっかけ

プランターに佇む狸。なぜそこに。

「路上園芸」に目覚めたのは、2010年。
当時住んでいた家の近所にあったプランターに、ふと目が留まったことがきっかけでした。
雨風で風化したプランター。その中には、もともといた植物と勝手にやってきたであろう植物が同居し、真ん中には狸の置物が鎮座。
なんだか目が離せなくなってしまったのでした。それ以来、街を歩くたびに、誰かが街角に置いた鉢植えに目が留まるようになりました。
 
当時の私は、20代なかば。
大学院を卒業後、とあるメーカーに就職したのですが、2年弱で退職。自分の興味関心や趣味趣向にフィットする仕事はなんだろうと、遅ればせながらの自分探し期を過ごすなかで、突然舞い降りてきたのが「そうだ、植物だ」という啓示でした。1年間グリーンコーディネーターの専門学校に通って「園芸装飾技能士」の資格を取る傍ら、商業施設の屋内庭園や鉢植えの手入れをするアルバイトをしていました。
ただ、そうした場で主に扱う植物は、周りの環境に応じて計画的に植えられたり、選ばれたりしたもの。

一方で、街角の路上園芸は、暮らしとともにいろんな鉢植えが寄せ集められ、長年かけて自然に作られていくものです。
その過程では、雨風といった計画外の出来事が生じたり、植物自身の生命力によって思いがけない場所からぴょろっとはみ出したり。時々、お鍋や漬物樽が鉢代わりになっていたりもします。
育てたかたの暮らしが垣間見えるような、またその中で生きる植物の姿にも目を見張るような、肩の力が抜けた自然体の緑の風景ってなんだかいいなあと、心惹かれたのです。

SNSを通して手探りで魅力を発信

とはいえ最初は、「街角の園芸風景ってなんかいいな」と思う程度で、まさかこれが仕事につながるなんて、夢にも思っていませんでした。
時々思いついたように周りに写真を見せることもありましたが(当時付き合ってくれた友人知人の皆様に感謝)、当然のことながら、ポカーンとされることも多々。
 
転機になったのは2014年。路上園芸の写真投稿に特化したSNSアカウントを開設したことです。街で「いいな」と思って撮った風景にコメントを添えて、毎日投稿を始めました。
 
投稿を続けていると、同じように街の植物に興味がある方や、路地の風景が好きな方、街の他の対象物に興味がある方など、様々な視点をお持ちの方との交流が生まれました。
「#urbanplants」「#streetgardening」といったハッシュタグをつけて写真を投稿すると、そのタグを辿った海外の方から、写真にコメントをいただくこともありました。

そうやって出会った方の中には、似たような趣味趣向に思えても、植物観察が好きな方から写真家、アーティスト、文筆家の方など、様々なバックグラウンドの方がいらっしゃいます。

実際にお会いして一緒にお散歩し、その後にお互い撮った写真を見せ合うと、同じ風景を見たはずなのに、視点や切り取りかたの違いが如実に!
例えばアーティストの方だと、画角がばっちり整っているといった技術面は当然のことながら、言葉をつけずとも写真1枚で美しさや哀愁、人間味といった機微まで表現してしまうことに衝撃を受けました。

また魅力的だと感じたものを発信しようとする時、自分ですぐに思いつくような「写真」「文章」「話す」以外にも、いま世にない方法を含め、幅広い表現方法があるのだということを学びました。
目からウロコの連続です。
 
手探りの連続ではありましたが、そうやって新たに出会った方々から教えていただいたことを自分自身にフィードバックし、アウトプットを繰り返していく過程で、「路上園芸」という対象物を見て、そこから感じ取るものの解像度が上がり、深化していったように思います。

書籍やグッズ……幅広い発信へ波及

そうこうしているうちに、SNSの投稿を見てくださったことがきっかけで、初めて「路上園芸」をテーマに、書籍へのコラム寄稿のお仕事をいただきました。
デイリーポータルZというウェブマガジンで長年ライターをされている三土たつおさんがまとめた、『街角図鑑』(実業之日本社)という書籍。パイロンやマンホールといった、街で日々見かける様々なものを図解した本です。

出版後は寄稿した著者同士で街歩きをしたり、出版記念イベントのゲストとして呼んでいただいたりと、楽しい出来事が色々ありました。
このおかげで、街角の様々な対象物を愛でる素敵な方々との交流がさらに生まれたばかりでなく、メディア出演やイベント出演、ライターとしての記事執筆といった、他の仕事にも派生していきました。

はんこを自由に組み合わせて、路上園芸を再現できる「家ンゲイはんこ」。

同時期に、友人を介して知り合ったのが、デザイナーの藤田泰実さんです。
藤田さんはデザイナーとして活躍する傍ら、道に落ちているものを「落ちもん」と呼んで写真に撮り、そこに妄想の物語を添える「落ちもん写真収集家」としても活動しているかたです。
お互い「道から生えているもの」「道に落ちているもの」が好きで、しかも同い年ということで意気投合し、2016年に「SABOTENS」というユニットを組んで活動をはじめました。
SABOTENSでは、藤田さんと一緒に、組み合わせると街の園芸風景が作れる「家ンゲイはんこ」というグッズを制作。室外機や漬物樽、アロエといった、街の園芸風景を彩るアイテムがパーツごとにはんこになっており、組み合わせて押すと、紙の上で路上園芸を再現できるというグッズです。

ポップアップショップでも販売。

はんこになったことで、言葉でなく感覚的に「あー、こういう風景ってあるよね!」と、街の園芸風景の面白さを年齢や国籍に関係なく共有できるようになりました。
また雑貨や文具系のイベント出展や、商業施設でのポップアップショップ開催といった活動にもつながっていきました。

プロのデザイナーである藤田さんの力をお借りして、誰もが気軽に楽しめる方法で「路上園芸」というニッチな視点を幅広い層に届けることができるようになったのは、大きなターニングポイントです。

コロナ禍と同時にフリーランスに

一つの発信から次の発信へ、一つの出会いから次の出会いへ……と数珠つなぎに少しずつ活動を続けていくうちに、振り返ってみたらお仕事としても、少しずつ幅が広がっていきました。

それと並行して、2017年末に夫の実家がある逗子に引っ越し。当時勤めていた都内の会社への片道2時間の通勤が徐々にきつくなり、「フリーランスとして家で仕事できたらいいなあ」という思いが日に日に強くなりました。

30代後半。新たなキャリアに挑戦するにしてもいい歳です。
最後のチャンスとばかりにえいや!と、37歳にしてフリーランスになりました。
ライフワークとして趣味で続けていた活動を通し、フリーランスとして活動する方やご自身で会社やお店を経営する方など、会社員という形以外のキャリアを歩む方々との交流も生まれ、「フリーになるなら仕事を振るよ」と言ってもらえたりと、会社に所属せずに仕事するイメージができたことも大きかったなと思います。
 
フリーランスになったのは、コロナ禍突入と同時期の2020年2月。契約書まで交わしていたのに、先方の会社の状況が変わって一切仕事を回していただけない、人との接触を避けるため取材自体できない、みたいなことも経験し、どうなることやらと思いましたが、なんとかかんとか人のご縁に支えられ、4年が経ちました。
 
2020年には『たのしい路上園芸観察』(グラフィック社)、2022年には『はみだす緑 黄昏の路上園芸』(雷鳥社)という自著を出版でき、2021年からフジテレビでいとうせいこうさんと『ボタニカルを愛でたい』という番組をご一緒しています。
書籍という形で自分の視点がパッケージ化されたことで、さらに他媒体への執筆・メディア出演・講演といった仕事へ広がったと感じています。
コロナ禍によって、遠くへの旅ではなく近場の散歩がちょっとしたブームになったことも、もしかしたら後押しになったのかもしれません。
 
10年以上前に知り合った人から「最近頑張っているね」と久しぶりにご連絡いただいて一緒にお仕事したり、前職の会社で社員向けに講演の機会をいただいたりと、嬉しい出来事もありました。

世間の評価なんて関係ない「好き」を軸に

このたくましさ! ポールとの絶妙な関係性!

いつものスーパーや最寄り駅へ向かう道すがらで。
初めて訪れる街で、旅先で。

「暮らすことが楽しい!」というのが全力でにじみ出ているような園芸風景や、限られた空間をくまなく駆使した立体庭園、隙間から威勢よくはみだす植物たちを見ていると、無性に元気をもらえます。
舗装のひび割れから顔を出し、思いもよらぬデザインを生み出す植物を見ると、周りの目をはばからず、思わずしゃがみこんで写真を撮ってしまいます。
 
世の中の潮流や周りの評価がどうであれ、自分自身が充足感を得られるもの。それをポツポツと、自分以外の人が見ても楽しいと思えるよう工夫しながら発信していると、時々「私も周りの物事を見る視点を変えたい」「住んでいる街をもっと楽しんでみたい」と、自分の好きなことが、他の人の必要とするものと重なることがあります。
また、コロナ禍による近場の散歩ブームみたいな形で、自分の意図とは関係なく、ひょんなきっかけから世の中の潮流と合致することもあります。
 
自分自身の経験を振り返ってみると、そうやって「自分の興味・関心」「他の人が必要とすること」「世の中の潮流」が重なった時に、「偏愛」から仕事が生まれてきたように思います。
マーケティング的に「偏愛」を作るのではなく、世のニーズに関係なく自分自身が「いいな!」と思えることが核にあると、自分の内面と仕事としての発信が地続きとなって、無理なく仕事を通して幸福感を得られる頻度も高いな、と実感しています。
 
「身近にあるなんてことない風景を、視点を変えて面白がることで、日常を豊かにする」。
それが、私自身が日々大切にしていることであり、この世界にそういう方が一人でも増えると良いなと願っていることでもあります。
 
この連載では、私がこれまでの活動を通して出会った中で、「何かを面白がる天才だ」と思える方、それを実際のお仕事として広げている方に、お話を伺っていきます。
連載を通して、これをお読みの方の日常が、少しでも楽しく、豊かになりますように!

写真・文/村田あやこ
路上園芸鑑賞家・ライター。街角の植物や路上にはみだす園芸に心惹かれ、その魅力をSNSやWeb、書籍などで発信中。2016年よりデザイナーの藤田泰実氏と路上観察ユニット「SABOTENS」を結成し、作品展示やグッズ制作なども行う。著書に『たのしい路上園芸観察』(グラフィック社)、『はみだす緑 黄昏の路上園芸』(雷鳥社)など。2021年よりフジテレビ『ボタニカルを愛でたい』に出演中。
instagram/@botaworks


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