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AIがイラストを描く時代、イラストレーターとして生き続けるために学ぶ「英語と医療」~WillとCanの交差点

「やりたいこと」だけでは食べていけない。「できること」だけでは満足できない。フリーランスとして長く働き続けるには、「やりたいこと(Will)」と「できること(Can)」の重なり、いわば「WillとCanの交差点」を見つけ、伸ばしていくことがとても大切です。

本連載では、「WillとCanの交差点」を見つけ、伸ばそうとする人たちを紹介していきます。第一回目に登場するのは、イラストレーターの萩原まおさん。変化の激しい時代に、イラストレーターとして生き残るために萩原さんが取った戦略とは……?


フリーランスとして迎えた2度の転換期

初めまして、イラストレーターの萩原まおと申します。
フリーランスとして開業し、7年目になります。
 
主な仕事として「解説イラスト」というサービス名で、教材などの出版物や、Webサイト、テレビ放送などに掲載するためのイラストレーションを制作しています。
顧客は出版社やデザイン制作会社、印刷会社、放送局など、多岐に渡ります。

現在フリーランスの仕事を続けながら、次のキャリアアップに向けて、英語と医療関連の勉強をしています。
 
私は大学卒業後、13年の会社員生活を経てから、フリーランスとなりました。
そしてフリーランスになってから、これまでに2度、大きな「転換期」を経験しました。
 
どちらも、私のフリーとしての仕事や働き方に、大きな影響を与えました。
そして、そんな転換期を経たことで、新しい分野の勉強を始めるに至りました。
 
今回の記事では、そんな転換期に起きた出来事や、勉強を始めた理由、今後の目標についてご紹介します。
フリーランス、またはこれからフリーランスを目指す皆様の、ご参考になれば幸いです。

好きな仕事なのに体を壊した!1度目の「転換期」

 会社員から独立し、そこから過ごしたフリーランス3年間は、自分にできる仕事は何でも受注していました。
イベントの講師から、総数1,000点を超える挿絵まで、いただけるお仕事は何でも受注しました。
 
そんな状況ですから、勤務時間も、朝から深夜まで仕事で埋め尽くされていました。
少し外出するだけでも「今日の分の仕事、終わるかな…」と不安になる程、頭の中がスケジュール調整でいっぱいでした。
 
その甲斐もあって、売上高は過去最高に!
何と、前々年度の3倍にまで到達しました。

しかし同時に、原因不明の不眠や食欲不振に悩むようになりました。
 
今思えば、原因は「過労」で間違いないのですが、当時は売り上げが伸びた達成感と、「好きなことを仕事にしているのだから、ストレスなどたまるはずがない!」という思い込みにより、自分の心身の不調に寄り添うことができませんでした。
 
ですが3年目の年末、あまりに減っていく食欲と体力に耐えられなくなり、内科を受診したところ、「逆流性胃腸炎」の診断を受けました。
逆流性胃腸炎には様々な原因がありますが、胃カメラなどの精密検査により、私の場合はストレスの可能性が高い、という診断でした。
 
当時は、自分にストレスがかかっている、という自覚はなかったので、自分の身体が「過労」の状態になっていることに、大きな衝撃を受けました。
ですが、独立からここまで、猛ダッシュで駆け抜けてきた自分が、ようやく立ち止まることができた瞬間でもあったのです。
 
そして、立ち止まったことがきっかけで、自分の働き方や仕事を大きく転換することになりました。

働き方や仕事の取り組み方を大きく変更

 受診後、服薬などで胃腸炎の治療をしながら「このままではいけない」と感じ、自分の働き方、仕事内容を見直し始めました。
 
これまでは予定を限界以上に詰め込み、朝から晩まで働いていましたが
 
・イラストレーション以外の仕事は、他業種フリーランスの友人知人に紹介する。
・スケジュールが詰まった時は、同業者を紹介する。
・朝と夜は、自分の勉強や趣味の時間として確保する。
・効率的な制作方法やツールを常に考える。
・スケジュールに、適度なバッファーを持たせる。
 
と、対応を変更しました。

 このように自分の働き方を変えた後は、非常に働きやすくなりました。
売り上げは以前よりも減ったものの、心身を壊すこともなくなり、バランスを保ったフリーランス生活が続きました。

6年目に感じた、2度目の「転換期」 

そして3年ほど経った頃、テクノロジーを活用したイラストレーション制作サービスが、次々と展開されるようになりました。
 
ストック型の素材ダウンロードサービスや、クラウドソーシング型のスキルマーケットなど、新しいサービスが次々と出現。
さらに市場にはフリーランスブームも到来し、若くエネルギッシュな同業者が、どんどん参入していました。
そして近年、著しいテクノロジーの進化により、ついに「AI」によるイラストレーション制作サービスも、市場に参入してきます。
 
そんな、時代の目まぐるしい変化で感じたことは、
「世の中が大きく変化しているのに、自分はこのまま、これまでと同じ仕事をしていていいのだろうか?」
「これまでの経験を活かして、もっと難易度が高く、専門性の高い仕事にシフトしていくべきではないか?」
ということでした。
 
これまでの6年間の経験で、お客様との信頼関係を築き、効率的に仕事ができるようになりました。
収入も安定しましたし、上手く生活のバランスが取れるようになりました。
 
ですが世の中は、前述のように大きく変化しています。
 
これまでの仕事内容を見直し、世の中の動向を見極め、新しい分野の勉強やチャレンジをすべきではないか。
自分は、今新たな「転換期」に立っており、そしてチャレンジができるのは、金銭的にも体力的にも余裕がある「今」しかないのではないか、ということを、肌で感じたのです。

「好奇心」が刺激される分野はどこ?

とはいえ、これから何にチャレンジするかを決めることは、簡単ではありませんでした。
動画を作ってみたり、ストック型ビジネスをやってみたり、あらゆることを試してみましたが、どうもしっくりきません。

独学するためのサービスは多々あるものの、差別化につながる分野や、自分の「好奇心」が刺激される専門分野は、なかなか見つかりませんでした。
そんな中SNSで、とある同業者の方が専門としていた「メディカルイラストレーション」というワードに、目が止まりました。

このワードを見たとき、会社員時代に勉強していたことを思い出しました。

私は独立する前の13年間、会社員としてメーカー商品開発室に勤務していました。
そのうちの1社は、履物や健康器具を作る会社でしたので、より良い商品開発のために、大学から教授を招いて、定期的に運動学や生理学の授業を受講していました。
 
学び始めたばかりの頃は、あまりの畑違いの勉強内容に、四苦八苦していました。
ですが学びが深まるにつれ、人体の面白さに惹かれ、人体の仕組みを理解することで、身体に起きている問題を解決する、というプロセスの面白さに魅了されました。
 
そんな勉強時間の最中、「メディカルイラストレーション」と初めて出合いました。
 
「メディカルイラストレーション」とは、医学・医療関連の論文や教科書、資料などに使用され、写真では伝えにくい身体的な仕組みや動きなどを、分かりやすく伝えるためのイラストレーションです。

この「メディカルイラストレーション」との出合いで、私は「イラストって、こうやって問題解決に貢献できるものなんだ!」ということに感動しました。
 
というのも、これまでのイラストレーションのイメージといえば、広告や出版、パッケージなど華々しい場で活躍し、個性豊かなものばかりである、という印象が強かったのです。
 
ですがメディカルイラストレーションは、確かな医学的見地から描かれ、誰が見ても理解しやすいように、分かりやすく伝えることを目的として描かれていたのです。
 
この出合いにより、私はイラストレーションの新たな価値と側面を知ることができました。
それは、後々イラストレーターとして独立するきっかけにもなりました。

イラストレーターとしての「リスキリング」

そんな会社員時代の経験から、「メディカルイラストレーション」を勉強したい!という目的が決まりました。
 
とはいえ、これまでの人生では、まったくの畑違いの分野を学んできました。
大学は美術やデザイン、教育学の専攻生でしたし、バリバリの文系人間です。
自分にとって、医療(メディカル)の入り口に立つことは、容易ではありませんでした。
 
また「メディカルイラストレーション」を体系的に学ぶことができる学校は、国内にはほぼ存在せず、海外の大学院に留学するしかありません。
さらに仕事のボリュームも、国内は非常に少なく、主に海外で需要がある分野です。
 
ということは、まず医療分野の勉強をすること、さらに海外大学院へ留学をすることと、最終的には、海外で仕事を獲得することが必要です。
 
つまり今後私が勉強しなければならないことは、留学と仕事に必要な「英語」と、「医療関連の学問」の2つでした。

1.英語力

留学条件となる英語力の判定には、主にTOEFL、IELTSなどの検定があります。
 
私が留学したい大学院は主に欧州でしたので、欧州で採用されている「IELTS」という英語技能検定で、留学のための英語スコアを獲得することに決めました。
そして、実際にスコアを獲得された方に話をお聞きし、インターネット上の情報を読み漁って、情報収集しました。
 
私の現在の英語力をIELTSに換算し、ざっくり必要な勉強時間を計算して見たところ、何と最低900時間以上!
とはいえIELTSのスコアメイクは、英語が得意な方ですら数年かかるそうですので、まったく勉強していない私には、妥当な勉強時間であるといえます。

2.医療関連の学問

医療系の学習内容に関しては、学生時代にはまったく学ばなかった分野です。
 
とはいえ、このような医療系の学問に関しては、独学では限界があります。
また志望校のいくつかは、実際に単位を取得しているかが問われます。
 
そのため、母校の系列にある大学に、科目履修生として出願しました。
科目履修生とは、学部生や修士生などとは別で、特定の科目のみを履修することができる制度です。
この制度を利用し、今春から通学して、必要単位を獲得する予定です。

 学びと仕事のバランスの取り方

勉強することは明確になりましたが、目標達成までには、膨大な勉強時間が必要です。
 
前述のように、私に必要な勉強時間は、英語だけでも900時間あります。
 
学生時代であれば、朝から晩まで勉強することが可能ですが、現在私はフリーランスです。
働きながらの勉強は、綿密な戦略を立てる必要があると感じました。
 
そこでまず、勉強時間を朝、隙間時間、夜に分けて、それぞれに適した勉強習慣を身につける計画をたてました。
例えば、朝は一番頭が冴えているゴールデンタイムなので、問題集やオンラインレッスンなど、難易度の高い課題に取り組む。
夜はゆっくり時間がとれるので、問題の復習や英語の本を読むようにする。
加えて、隙間時間5分〜10分を活用して、英単語や英語ニュースを視聴する。
 
このように1日最低2時間以上は勉強し、2年後には、留学の入学条件である英語スコア「IELTS6.5(OA)」を獲得することを目指しています。


現在、継続8カ月目に入ったところですが、時々仕事のスケジュールに押されながらも、何とか続けることができています。
最近は、問題集や時事ニューズ、英語本を、以前よりもスムーズに読むことができるようになりました。
また英語を活用し、グローバルなポートフォリオサイト経由で、初の海外案件を得て無事に納品できたことも、大きな励みになりました。
 
言語学習はすぐに結果が出るものではありませんが、このような結果を出すことで、少しずつ前へ進んでいる実感を得ています。

時代の転換期には、自分の学びが大きな力になる

このように2度の転換期を経た後、現在もフリーランスとして生計を立てながら、日々勉強を続けています。
 
今の時代、教育のチャンスは大きく広がりました。
無料の動画や情報があれば、独学でいくらでも勉強できます。
そしてAIなどのテクノロジーの進化により、「誰でも絵が描ける」「誰でも多言語が話せる」という時代になろうとする過渡期の今、「勉強はなぜ必要なの?」ということが、問われる時代でもあります。
 
ですが、こうやって新しい何かを学び続ける学習力、新しいことにチャレンジする勇気、集中して腰を据えて学ぶ胆力は、これからの時代で、ますます必要なことになることは、ほぼ間違いありません。
 
なぜなら、誰でも学べる時代ゆえに、簡単に勉強できて、獲得できることの価値は下がるからです。
私自身が、こんな時代にわざわざ多言語を学び、海外に出ようと決意した理由は、ここにあります。
 
留学や生活にかかる膨大な費用、文化が大きく異なる圏内での生活、何年にも渡る長期的な学びの継続は、誰でもできることではありません。
それは、実行すること、投資へのリスクや、継続することの難易度が、著しく高いからです。
 
激変していく時代を乗り越えるためには、自分の学習や挑戦の経験が、大きな力となってくれると確信しています。
 
そして何よりも、新しい学びは「楽しい」「ワクワクする」気持ちが溢れることでもあります。
勉強をしていると、あまりの自分の無力さ、学習レベルの低さに、毎日のように落ち込みます。
ですがそれを経た後、自分の成長を実感できた時の嬉しさ、新しいことを理解できた時の喜びは、何事にも変えがたいものです!
 
これからもフリーランス生活の中で、楽しく勉強を続けていきたいと思います。
 
私の経験や計画が、フリーランスやフリーランスをこれから目指す皆様の、ご参考になれば幸いです。

文・バナーデザイン/萩原まお

萩原まお
静岡在住・フリーランスイラストレーター。
静岡大学教育学部美術・デザイン専攻科卒。13年間のメーカー商品開発室勤務を経て、2017年に独立。書籍、教材、Webサイトなどのイラストレーションを制作。
個人サイト / facebook / Behance / Instagram

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