発売2カ月で年間予測を達成 フリーランスエンジニアとのタッグで13年ぶりの新商品開発/ゴトー電機株式会社
フリーランス・パラレルワーカーが参画することで、チーム一丸で大きな成果を上げたプロジェクトにスポットを当て、フリーランスと組織の理想的な関係構築のあり方や共創意義を賞賛する「フリーランスパートナーシップアワード2023」。
本記事は、1次審査を通過したファイナリスト5組のうち、ゴトー電機の事例をご紹介します。
陳腐化した製品を改良したい。とはいえ、優秀な開発設計者を雇い入れる余裕はない――。機械工具メーカーのゴトー電機では、長年抱えていたジレンマを、大手精密機器での開発経験を持つフリーランスエンジニアの登用によって解決につなげました。プロ人材のクリエイティビティを最大限に引き出し、新製品開発につなげたのは“とことん縛らないマネジメント”にあります。
ゴトー電機 専務取締役の後藤陽太郎さんと、フリーランスの山崎晃資さんに、お話を聞きました。
諦めかけていた“開発設計のスーパーマン”がやってきた
――ゴトー電機がフリーランス活用に至った背景について、教えてください。
後藤:ゴトー電機は長野県伊那市で1968年に私の祖父が創業しました。はじめは電子基盤のメーカーでしたが、二代目社長の父が、金属表面のさびや汚れ、塗装を落とす工具を開発。主力商品として製造・販売するようになりました。工具は橋梁や道路などインフラの修繕に用いられています。
父は私が20歳のときに急逝し、今は母が社長を務めています。私は専務として、工場のマネジメントや経営にかかわる雑事全般を引き受けています。2023年9月現在、従業員は業務委託など含めグループ全体で9名です。
父が開発した商品は発売から13年が経ち、価値が陳腐化しつつありました。市場からは「寿命が短い」「単価が高い」といった声が上がっていましたが、唯一の開発・設計者だった父が亡き後、製品の改良になかなか手をつけられずにいました。ニッチな市場なので競合商品はありませんが、他の代替工法との競争も懸念されます。売り上げも頭打ちとなっていました。
開発のできるエンジニアの求人も出していたものの、私たちのような地方の小さな企業では条件に見合う人材を見つけるのも至難の業。自ら開発設計に取り組んだこともありますが、難易度は高く、断念せざるをえませんでした。
――山崎さんとはどのような経緯で出会ったのでしょうか。
後藤:きっかけは、信州大学の実践型リカレント教育プログラム「信州100年企業創出プログラム」です。首都圏などの中核人材を信州大がリサーチ・フェロー(客員研究員)として受け入れ、地域企業の課題解決を通して育成するという内容です。期間は6カ月間で、修了後は地域企業とマッチングし、人材の地域定着を図ります。
このプログラムに当社がスポンサーを務めるJリーグの松本山雅FCが加わっており、お声かけいただきました。ただ、我々が掲げていた人材要件は「機械設計の経験があり、仕入れや生産の設計など量産に向けた環境構築ができる開発エンジニア」。いってみれば“開発設計のスーパーマン”です。そう簡単には見つからないだろうし、見つかったとしても雇用条件が合うはずがない、となかばあきらめモードでした。
――そこで紹介されたのが山崎さんだったのですね。
山崎:私はもともと、長野県上田市生まれなんです。新卒で入社したオリンパスでは顕微鏡の開発に携わってきましたが、8年ほど経ち、「もっとやりたいことにチャレンジしたい、自分の看板でできることはないか」と考えるようになりました。
顕微鏡の開発というと特殊な仕事に聞こえるかもしれませんが、基本スキルはあくまで物理の応用。どの業界の機械設計にも活かせるポータブルスキルです。生産部門に所属していたこともあり、企画、設計、試作、調達、法務、製造と、開発フローは川上から川下まで経験済みでした。
そんなとき、たまたまSNSで信州大学のプロジェクトを知りまして。エントリーを決意し、2020年秋に東京で会社員を続けていた妻を残し、先に娘と二人で長野県に移住しました。今は家族みんなで長野暮らしを楽しんでいます。
後藤:山崎さんにお目にかかり、最初の15分で「この人に決まりだな」と確信しました。ただし、懸念もありました。山崎さんのようなハイスペック人材を、零細企業が雇うには無理があるからです。単一事業ですし、「開発がうまくいかなかった場合、継続雇用できるだろうか」という不安がつきまといます。けれども山崎さんは正社員ではなく、フリーランスとして採用してくれないかと提案してきたのです。
もともと当社は人材登用について、かなり柔軟な方針を持っていました。フルタイムの従業員は少なく、職業を2、3つ掛け持ちしている人もいれば、自分の会社を経営している人もいる、といった具合です。製品の性質上、国や自治体への入札に対する専門知識が必要になるので、営業もスペシャリストに業務委託していました。
言ってみれば会社全体が1人部署の集まりで、自分でやることを決めて動けるメンバーばかり。だから山崎さんをフリーランスとして受け入れることには、まったく違和感がなかったですね。
フリーランスの知見とアイディアが13年間の空白を埋めた
――はじめから、設計や開発を委託するつもりだったのですか。
山崎:実はそこが当初の想定と大きく変わったところなんです。もともと、信州大学のプログラムでゴトー電機の経営戦略を立案する中で、まず取り組むべきテーマとしていたのは、ゴトー電機における「調達体制の脆弱性の改善」でした。ですが、あれこれ試行錯誤するうち、「いっそ全く別の方式で設計をすれば、性能も大幅にアップするし、そもそもの調達の課題も解消されるのでは」と思いつきまして。
スコープを大転換するわけですから、さすがに難色を示すかと思いきや、「いいじゃん! いこうぜ」と。何を提案しても否定することのなかった後藤さんですが、このときも大乗り気でOKしてくれました。
後藤:抱えている課題が解決できるのであれば、方法やプロセスにこだわる必要はない、というのが自分の方針。長らくやりたくてもできていなかった、商材のテコ入れにメスを入れられるのですから、願ったり叶ったりですよね。
ですので、新製品についても仕様を定義したりはせず、「こういうものを作ってほしい」という大まかなイメージだけを伝えました。プロセスも自由だし、発注も稟議にかけたりせず、上限を超えたときだけ相談してもらうようにしています。納期も特に定めませんでした。
――開発となると、特許や権利などが問題になりそうです。
後藤:私は根底に「実さえとれればいい」という考えがあるんです。一般的には従業員に職務発明(職務において行った発明)させ特許出願したものは、社内規則などに基づいて本人から特許権そのものを譲り受ける企業がほとんどでしょう。
ただ今回は、会社が出願者・権利者ではありますが、山崎さんにも発明者としての権利を持ち続けることを認め、相互的・対等なステータスにしています。会社は山崎さんと個別契約する形で、発明者からの特許実施権を得ています。
山崎さんとの契約は「技術顧問契約」と「製品開発の業務委託契約」の二階建てにして、技術顧問契約の報酬に特許使用料を含んでいます。週3日ほど出勤していただいていますので、どちらの契約も業務の遂行に対価を払う「準委任契約」にあたります。
実際の働き方は、スーパーフレックスに近いかもしれません。会社には彼専用のラボを設け、いつでも使えるようにしました。同じ部屋にいると私が話しかけてしまって、彼が仕事に集中できないので(笑)。また専用部屋なこともあり、月に1~2日ほど、お子さんと一緒に出社していますよ。
――懐の深いマネジメントで驚きます。新製品開発となると、予算だけでなくスケジュールの変更も余儀なくされましたよね。
後藤:ゼロから新しいものを作るとなればそれなりの時間がかかりますし、何事もやってみなければわからない。期間を区切ること自体、ナンセンスに思えたのです。ただ、調達先の契約更新を控えているので、「それまでに形になればいいな」という期待はありました。
とはいえ名古屋にいる社長は「いつ完成するの」と、気を揉んでいましたね。伊那と名古屋では距離もありますし、動きも見えないですから。事ある度に「どうなってるの?」と聞かれましたが、私が「大丈夫、大丈夫。心配いらないから」と間に入っていました。
山崎:開発にかけた期間は1年半ほどでしょうか。基本的な構想を立ててからラフを設計し、検証実験して、また設計をやり直す、というタームを何度か繰り返しています。そのうえで本設計し、外注業者と打ち合わせしながら量産方法を検証しました。
最初の機構の開発にあたっては、ちょっと試行錯誤しましたね。3、4回失敗を繰り返しましたが、後藤さんは決して「やめよう」とは言わなかった。そこでストップをかけずにいてくれたから、抜本的なリニューアルにつながりました。
後藤:すぐ隣の部屋にいますので、何か問題があればすぐ対応できる。自分自身、開発にトライしたことがあるので、行き詰まりというレベルでないことは、見ればわかりました。
山崎さんにお任せすることについては、不思議なほど不安がなかったですね。信州大学の半年間のプログラムで、スキルも人柄も申し分のない人だということはわかっていましたし。業者の選定から、量産体制の打ち合わせまですべて彼に任せ、私は後をついて回っていただけでした。
「会社が個人に合わせる」がフリーランス活用の鉄則
――そして2023年6月に、新商品「Blastriker(ブラストライカー)」の発売に至ります。
後藤:従来品に対して耐久性10倍、作業スピード2倍の性能アップを実現できました。耐久性やスピードなどを考慮すると、コストパフォーマンスは従来品の2倍です。
もう1つ大きく変わったのは、最初に山崎さんに検討していただいた調達システムです。これまで輸入部品に頼っていて広範で煩雑となっていたところを、国内手配に切り替えました。おかげで手配日数や手間が減っただけでなく、コストも大きく削減できました。
「わざわざ輸入しなくても、国内の業者で十分調達できますよ」と、はじめに山崎さんから提案されたときは、目からうろこが落ちる思いでした。業界の商習慣にとらわれない、彼ならではの発想だったと思います。
――売れ行きや反響はいかがでしたか。
後藤:軌道に乗るまで1年はかかるだろうと思っていたのですが、なんと発売して2カ月で年間予測を達成してしまいました。初回ロットは売り切れ、生産が追いつかない状態に。代理店や販売店さんにも大好評で、ある代理店の会議では、満場一致で入荷が決まったと聞いています。
ずっとやきもきしていた社長も、「お客様から感動のお電話がかかってくる」と大喜び。今はてのひらを返したようにブラストライカーを絶賛しています(笑)。
山崎:大手企業で働いていた頃は、お客様の声を知る機会はほとんどありませんでした。でも今は、ダイレクトに反響が伝わってくる。一般的に初年度はなかなか売れないと聞いていただけに、嬉しい驚きです。
――おふたりの様子から、後藤さんと山崎さんの良好な関係性がうかがえます。
山崎:等身大の自分を見せることが肝心ではないでしょうか。今回も早い段階でお互いにフラットな立場で、腹を割ってコミュニケーションしたことが信頼関係につながったのでは。もちろん、運や相性もあるでしょうけれど。
後藤:最初に面接したとき、「この人は縛れば縛るほど逃げる人だ」と直感しました(笑)。だから、リードをつけるような管理は避けて、できるだけ自由に動いてもらえるように心がけました。
個人が会社に合わせるのでなく、会社が個人に合わせる姿勢がフリーランスの活用のカギかもしれませんね。相手の希望は可能な限り受け入れ、よけいな口出しはしない。「これだけは実現したい」という最上位の目標を握り合えたら、あとは目をつぶるくらいがちょうどいいのではと思います。
過度なマネジメントをしないほかにも、彼の実力があってこそですが、特許権を含めた名声、予算、報酬等で、最大限に気前よく対応をすることを私自身は心がけています。
――今回のプロジェクトを機に、これからチャレンジしていきたいことはありますか。
後藤:今はまず、海外展開が間近に控えています。他にも山崎さんに開発してもらった機構をスリム化し、応用したいと考えています。ロボット開発も検討中です。いずれにしても組織としては、お客様の求めるものを何でも用意できるエンジニア集団を結成したい。
そのためには人手も必要なので、フリーランスエンジニアの仲間を増やして、新たなプロジェクトに挑戦していきたいですね。改めて考えてみれば、山崎さんのおかげで、そういう夢を見ることができるようになりました。
山崎:オリンパス時代は、顕微鏡というメカとしては完成に近い製品の開発だったため、「これから先、何をすればいいんだ」というくらい、のびしろが見えなくなっていました。
ところがゴトー電機さんのようなインフラのメンテナンス業界に飛び込んでみたら、10年以上前の技術がいまだに活用されていたりする。「中小企業がニッチトップになるような業界には、まだまだ可能性が埋もれている」と気づかされました。
フリーランスと中小企業が手を携えて技術革新を進めれば、日本ももっと元気になるのでは。先端分野で経験を積んだエンジニアが入ることで、ポンと化ける業界はいっぱいあるはずです。どんどんフリーランスとして活躍してほしいですね。
――調達の見直しからスタートし、新商品開発へ。フリーランスの登用が成長の起爆剤となったストーリーは、特にこの先労働者不足が懸念される小規模事業者に向けたグッドケースといえます。本日は素敵なお話をありがとうございました。
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▽その他のファイナリスト一覧
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