Q.フリーランスは労災保険に入れないですよね?
こんにちは。社労士の山口あす香です。
フリーランスやパラレルワーカーになりたい、と思っている会社員からよく聞かれる疑問にお答えする本連載。今回のテーマは「労災」です。
Q. フリーランスは労災保険に入れないですよね?
→基本は入れないけれど、特別加入制度で加入ができる。近年、その範囲が広がり、アーティストやフードデリバリー配達員、ITフリーランスなども加入できるようになった。
会社員なら誰もが入っている保険に「労働者災害補償保険」があります。いわゆる労災保険のことです。労災保険の保険料はあまり意識していない方もいるかもしれませんが、全額会社が負担しています。
なぜなら、原則として 一人でも労働者を使用する会社(事業者)は、業種の規模を問わず、労働者を加入させないといけないからです。なお、労災保険における労働者とは、「職業の種類を問わず、事業に使用される者で、賃金を支払われる者」のこと。 労働者であればアルバイトやパートタイマー等も含まれます。雇用形態は関係ありません。
厚生労働省のホームページに、以下のように解説されているように、労災には、①業務中や通勤中に労働者が病気や怪我をした際の保障、②その後の社会復帰支援、この2つの目的があります。
また、労働者が就業中の業務が原因で負傷、疾病、障害または死亡した場合は、「業務災害」と言い、通勤によって労働者が被った傷病等を「通勤災害」と言います。
労災保険には、多様な「保険給付」が含まれます。具体的には、以下の8つです。
・療養(補償)給付 →医療機関で治療を無料で受けられるもしくは治療にかかった費用が支給されます。
・休業(補償)給付 →療養のため働く事ができず、収入がない場合給付基礎日額の80%が支払われます。
・障害(補償)等給付 →一定の障害が残った場合に年金もしくは一時金が支払われます。
・遺族(補償)等給付 →亡くなられた場合に遺族の方に年金もしくは一時金が支払われます。
・葬祭料(葬祭給付) →亡くなられた方の葬祭を行う場合に支払われます。
・傷病(補償)等年金 →傷病が療養開始後1年6か月を経過した日またはその日以降、①傷病が治っていないこと②傷病による障害の程度が傷病等級に該当すること のいずれにも該当する場合に支払われます。
・介護(補償)等給付 →障害(補償)年金等を受給している方のうち、一定の障害があり介護を受けている場合に支払われます。
・二次健康診断等給付 →職場の定期健康診断等で異常の所見が認められた場合に、脳血管・心臓の状態を把握するための二次健康診断及び 脳・心臓疾患の発症の予防を図るための特定保健指導を1年度内に1回、無料で受診することができます。 ※特別加入者の健康診断の受診は自主性に任されていることから、特別加入者は二次健康診断等給付の対象とはなりません。
ちなみに、細かいですが業務災害と通勤災害では給付の名称が異なります。たとえば、業務災害の場合は「療養補償給付」ですが、通勤災害の場合は「療養給付」になります。
以上の手厚い保険給付内容から、労災は労働者のための制度だということを感じていただけたのではないでしょうか。
労災は労働者のためのもの。だけど、例外もある
前述の通り、基本的に労災保険は労働者のために存在します。
労働者の定義は「職業の種類を問わず、事業に使用される者で、賃金を支払われる者」ですから、労働者以外の方、つまり、個人事業主など「事業に使用されていない者」は保護の対象ではありません。
だた、労災保険には「特別加入」という制度があります。
労働者以外の方であっても、その業務の実情、災害の発生状況などからみて、労働者に準じて保護しようという目的で作られた、特別に任意加入を認められた制度です。
ちなみに、「特別加入」には、以下の3種類があります。
第1種特別加入(中小事業主等)
第2種特別加入(一人親方その他の自営業者、特定作業従事者)
第3種特別加入(海外派遣者)
上記の中で、近年、加入対象が広がっているのが、第2種特別加入です。今まで大工さんなど、一人親方等のみが対象でしたが、兼業・副業の推進やフリーランスの増加など「多様な働き方」への期待の高まりから、労災の対象になる職業が増えています。
近年、「特別加入」の対象になった職業
では、ここからは、具体的にどのような職業が「特別加入」の対象として加わったのか見ていきましょう。
※全国どこからでも加入できる職業もあれば、加入者の所在地や条件により加入できない職業もあります。詳細は特別加入団体に問い合わせをしてください。 特別加入団体は増減する可能性があるので記載はあくまでも一例です。
【令和3年4月~】
芸能関係作業従事者
→俳優、歌手や作詞、作曲家などの音楽家、日本舞踏、ダンサー等の舞踏家、落語家、スタントマン等、実演をする方。また、監督や照明、衣装、メイク、マネージャー等、製作作業に従事する方。
アニメーション制作作業従事者
→作画、絵コンテ、監督、演出家、脚本家、編集等に携わる方。
※声優は芸能関係作業従事者として加入可能。
柔道整復師
→柔道整復師法に基づく「柔道整復師」の資格をお持ちの方。
創業支援等措置に基づき事業を行う方
→65歳から70歳までの就業確保措置のうち、雇用によらない措置(業務委託契約等)に基づき事業を行う高齢者の方。
【令和3年9月~】
自転車を使用して貨物運送事業を行う者
→今までは、自動車及び原動機付自転車の方のみ「特別加入」の対象だったが、自転車を使用して貨物運送事業を行う方(フードデリバリー配達員等)も対象に。
ITフリーランス
ITコンサルタント、プロジェクトマネージャー、プログラマ、ネットワークエンジニア、社内SE、Webデザイナー等の作業をされる方。
【令和4年4月~】
あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師
→あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律に基づく「あん摩マッサージ指圧師」、「はり師」、「きゅう師」の資格をお持ちの方。
【令和4年7月~】
歯科技工士
→歯科技工士法に基づく「歯科技工士」の資格をお持ちの方。
「特別加入」にどう加入するの?
では、具体的にどのように加入の申し込みをするのか説明しましょう。
大きな流れは、以下の3つです。
①加入希望者が特別加入団体へ申込み
②特別加入団体が所轄の労働基準監督署へ申込書を提出
③都道府県労働局長が受理し、承認
「アニメーション制作作業従事者の方」の資料には、以下のような解説図が掲載しています。申込み方法は、他の団体も同じですので、各職業に置き換えてご参考ください。
上記の通り、特別加入の手続きの窓口は「特別加入団体」です。
特別加入団体とは、都道府県労働局長の承認を受けた団体です。
たとえば、ITフリーランスの方の場合は「ITフリーランス支援機構全国労災保険センター」、運送業や配達員の方の場合は「一人親方労災保険組合配達員特別加入部会」という特別加入団体があります。
フリーランスの労災の掛金は自己負担
労災の「特別加入」は、あくまで「特別」です。
ですから、通常の労働者が加入する労災とは違って、本人が掛金を支払う必要があります。
特別加入の掛金がいくらになるのか、ITフリーランス支援機構全国労災保険センターの例を参考に見てみましょう。
更新の場合は会費等が若干変わるため、約20,000円の費用になります。
次に運送業や配達員の方が加入する一人親方労災保険組合配達員特別加入部会の掛金も見てみましょう。
更新の場合は会費等が若干変わりますが、約50,000円の費用になります。
補足ですが、フリーランス協会でも、2020年5月よりUberと提携し、Uber Eats配達員の方々に対して傷害補償付きベネフィットプランのOEMを提供しています。
業種によって保険料率は決まっており、ケガや事故に遭う確率が高い業種の保険料が高くなる仕組みになっています。
詳しくは、厚生労働省 特別加入保険料率表(令和4年7月1日施行)をご参照ください。
https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/roudouhokenpoint/dl/tokubetsukanyuuhokenryouritsu_R0407.pdf
ちなみに、先ほどの掛金の説明でもでてきた給付基礎日額とは、休業した場合や障害が残った場合、亡くなったときに遺族の方への給付の基礎となる金額です。
ITフリーランス支援機構全国労災保険センター、一人親方労災保険組合配達員特別加入部会とも3,500円~25,000円までの16段階用意されています。
以上、安心して業務を継続するためのセーフティネットの一つとして、労災の特別加入を紹介しました。
労災の特別加入ができない業種の方は、所得補償保険や就業不能保険もありますので、 もしもの時に備えて加入を検討されても良いかもしれませんね。
フリーランス協会でも、会員特典として任意加入できる「所得補償保険」を用意していますので、参考にしてしてみてください。