ネガティブをポジティブに変身させたい | デザイナー・落ちもん写真収集家 藤田泰実さん【偏愛マニア #03】
「好き」で続けてきたことがどのように仕事につながってきたのか、「偏愛」を軸に活動をする方々のお話を伺いながら紐解いていく「村田あやこの偏愛マニア探訪記」。
今回ご登場いただくのは、デザイナーの藤田泰実さん。
お笑い芸人・江頭2:50さんのYouTube公式チャンネル『エガちゃんねる』で、立ち上げ時期からチームの一員としてデザインを手掛けるなど、グラフィックデザインを中心に活躍されています。
また、アーティストとしても作品発表を続けるほか、道に落ちているものを写真に収め、妄想の物語を添える「落ちもん写真収集家」でもある藤田さん。
ご縁あり、筆者・村田と8年ほど前に知り合い、「SABOTENS」というユニットにて、街角の風景をテーマにグッズ制作や展示などを行う仲でもあります。
一見、多種多様な活動に見えますが、その根底にあるものは、実は1本の線でつながっていたということが、取材を通して見えてきました。
かわいいものを素直に「かわいい」と言えなかった
ーー小さい頃から、「将来は作る人になりたい」と思い描いていたんですか?
はい。物心ついた頃から、何かを作るのが大好きで、いつも何かを作っては人に見せていました。紐で引っ張ると「はずれ」っていう看板が出る装置や、ガムテープで手にぐるぐる巻き付けたパンチングマシーンなど、本当にしょうもないものを作っていましたね。
ーーじーっと絵を描くというよりは、作ったもので人の反応を楽しんでいたんですね。
そのうちだんだんと恥ずかしくなって、家族にだけ見せるようになるんですが(笑)。
小学校の頃は、学校の授業が全部図工だったらいいのに、と毎日思っていました。
算数や国語は大して得意じゃなかったんですが、作るものに関しては「人に負けたくない」とたぎる思いを抱いていましたね。
ーー周りと同じものに無条件に乗っかるのではなく、独自のものを作る、という。
そうなんです。かわいいものを素直に「かわいい」と言いたくない、ちょっとひねくれた部分があって。中学校の頃、私の世代だとキティちゃんやマイメロディをこぞって集めていたんですが、一人だけ「ドクロ最高じゃん」って、ドクロを集めていた時期もありました。
「目立ちたい」というよりは、「奇をてらいたい」という気持ちだったのかもしれません。今思えば、素直にかわいいものを「かわいい」と言えない劣等感だったようにも思いますね。素直な子って、とてもかわいいじゃないですか。
そう言えば、中学時代に好きだった言葉は「下剋上」でした。劣等感の塊ですよね。
そういう「何くそ」っていう思いが、今でも制作活動の半分くらいを占めています。
つらい時期、道の落とし物に目が留まった
ーー高校卒業後、美術大学のデザイン学科に進学されます。もともとアーティストというよりはデザイナーの道を志していたのでしょうか。
アーティストは、自分のたぎる何かが常にあって、その叫びたいような思いを表現する人たちだと思っています。一方でデザイナーは、自分自身ではなく、誰かの困りごとや要望に応える職業。私自身は、ものを作ることで人をくすっとさせたい、みたいな思いが常にあったので、デザイナーの道を志したのは必然だったのかな、と思います。
ーー大学卒業後、デザイナーとして、どのようにキャリアを積んでいったんですか?
卒業後は、大手の代理店の仕事を直属で請け負うプロダクションに入社しました。ようやく胸を張ってキラキラしたものやかわいいもの、かっこいいものを作れると希望を持って入社したものの、漆黒のブラック企業で……。まず入社式から3日間、家に帰れなかったんです。その後も3日、4日連続の徹夜は当たり前。化粧の上に化粧を塗る毎日で、会社の行き帰りしかプライベートな時間はありませんでした。
次第に、キラキラしたポスターや、合成で作られたCDジャケットのような世界観が魅力的に見えてなくなってきて……。表層に過ぎないもののように感じるようになってしまったんです。学生時代と同じような「キラキラしたものなんて……」という反発心が生まれてしまいました。
ーーキラキラした世界は、過酷な労働で成り立っていたのですね……。
反対に、魅力的に映るようになったのが、石ころや変な看板、なんでもない落とし物みたいな、「そこには存在するけれど、気づかれないもの」。その頃から、何気ない風景を写真に撮るようになりました。
キラキラした世界に入ったはいいものの、毎日怒られるわ徹夜で寝られないわで、一向に芽が出ない。今この歳になって思うと、注目されないものたちの切なさを、自分の劣等感と重ね合わせていたんでしょうね。このつらい時期が、落とし物への視点にも色濃く反映していると感じています。
落としちゃったり捨てちゃったりする行為って、決してポジティブなものではないですよね。でも「人間って、そういうところもあるよね」と、落とし物から醸し出される何かにすごく惹かれていったんです。
大学には2浪して入ったんですが、もし現役で入学して、第一線でバリバリ活躍して賞を取ってしまうようなデザイナーだったら、落とし物には目もくれていなかったでしょうね。
ーーデザイナーとしての辛い修行の時期が、落とし物に目を向ける原点だったんですね。
結局、最初のブラック企業は1年程で退職し、キャラクター制作の会社に入社しました。キャラクターってパッと見でかわいらしいし、癒やされる仕事かと思いきや、意外にもレギュレーションが厳しくて。ゼロイチのものづくりが好きだったので、向いていないかもしれないと思い、再び退職。
その後、別のプロダクションに転職しました。交通広告や冊子もの、ポスターといった広告媒体のデザインを手掛けながら5年ほど正社員として働いていたんですが、母親が病気になり、看病のために退職しました。
1年ほどの看病ののちに母は亡くなったのですが、母が亡くなった2014年頃、落とし物の写真を本格的に撮るようになったんです。今思うと、「自分を見つめたい」という時に、心の拠り所のように落とし物を撮っていたのかもしれません。
「また正社員として過酷な仕事をするのは、なんだか違うなあ」と考えていた矢先、知り合いがデザイン事務所を立ち上げることになり、予定が空いていたのでお手伝いし始めました。それがご縁で、「藤田さん、空いているんだね」と、少しずつ仕事が入ってくるようになり、気づいたらフリーランスを続けていましたね。
憧れは、シンデレラに登場する魔法使い
ーーその後、「落ちもん写真収集家」としての活動も広がっていきますよね。
撮影した落とし物を「落ちもん」と呼んで、タイトルと妄想のストーリーを添えてSNSで発信していたところ、少しずつメディアに取り上げていただくようになりました。
2018年、『オータケ・サンタマリアの100まで生きるつもりです』という番組に出演したんですが、その時にロケを担当していただいたのが、現在エガちゃんねるのディレクターを務める、藤野義明さんです。
取材の際に藤野さんに好きなTV番組を尋ねられて、『トゥルルさまぁ〜ず』を挙げて。「本当に笑える、くだらない番組で、大好きなんです」とさんざん説明した後、なんと藤野さんが作った番組だと明かされました。
そこで意気投合して、ロケだけでなくスタジオ収録にも呼んでいただいて。デザイナーとしてのポートフォリオをお見せしたところ、その後、藤野さんが携わるTV番組のロゴ制作をいくつか担当させていただきました。
そして藤野さんが江頭2:50さんと一緒に『エガちゃんねる』を立ち上げる際、「一緒にやらない?」と声を掛けてくれたんです。
当時の江頭2:50さんは、TVのコンプライアンスが厳しくなる中で過激な芸風が徐々に敬遠されるようになり、それこそ「落ちもん」のように、仕事でずっと日の目を見ていませんでした。でも、ときは2020年のコロナ禍。鬱屈した空気に包まれて悶々としている時、「そんなの関係ない」とぶっ壊してくれる誰かを世の中が求めている気がしていて。地位や名誉がある人ではなく、どん底から這い上がってくる人が、江頭さん。
『エガちゃんねる』が始まった時、「行け〜!」という世の中の空気を感じましたね。
ーーチャンネル開設からわずか9日で登録者数が100万人を突破したのは、まさに「伝説の始まり」でしたね。
すごく感動的でした。現在は登録者数400万人、多くの人が楽しみにしてくれるコンテンツに成長しています。
先日、藤野さんとトークイベントをご一緒した際、「最初は企画書だけ作ってもらおうと軽く声を掛けたんだけど、『これはおもしろい』と思うセンスが一緒だったので、この人なら大丈夫だと思って、デザイナーとして入ってもらった」という話をしてくださって。
小学校の時に周りがかわいいと思うものになびかなかったことや、落とし物を撮ってきたこと。これまでやってきたことはバラバラに思えましたが、『エガちゃんねる』に一本の線でつながっていたんだ、と思えました。
ーー藤野さんの本『エガちゃんねる革命』には、最初に藤田さんが企画書の表紙を作った際、素敵なビジュアルだけでなく、藤田さん自身のアイデアで「さあ、はじまりだ」という一言を添えてくれたことがすごく良かったと書いてあります。
私自身活動をご一緒する中で、藤田さんのデザインには、思いを形にしてくれるというベースのスキルはさることながら、想像を超えて気持ちを高揚させてくれる、「魔法をかけてくれる」ような魅力があるな、と感じています。
デザインの力で周りを楽しさの渦に巻き込んでいく上で、どういったことを大事にしていますか?
「相手の気付かない良さを引き出せるまで、覚悟を持って取り組む」ということですね。また、「自分はこうしたい」「格好つけたい」という自我は出さず、デザインの対象となる人、ものの一番いいところを最優先に表現するということです。江頭さんだったら、自分が思う江頭さんの一番かっこいいところ、おもしろいところ、すてきなところを前面に!
水のように相手に潜り込んで、相手色に染まって、それが形になったら最高ですね。
「魔法をかけてくれる」と言ってくれましたが、まさに私の理想はシンデレラに登場する魔法使いのおばさん。限られた予算とアイデアで、かぼちゃを馬車にしたり、ガラスの靴を用意したり。決して主役ではないけれど、縁の下の力持ちとして相手の人生を180度変えてしまうところが、最高にクールですよね。
ーーシンデレラを見て、脇役の魔法使いのいい仕事ぶりに注目できるところが、落とし物など、普通の人は見過ごしてしまうものの面白さをキャッチできる視野の広さにもつながっているんですね。
魅力的なのに埋もれているものを世に出したい
ーー最近は、アーティストとしても定期的に展示を開催して、ご自身の作品を発表されています。
ご縁あってデザイナーとして忙しく仕事を続けてきましたが、人に頼まれて作るものばかりになってくると、少しずつ自分が見えなくなってしまうようになって。頼まれたものだけではなく、自分の作りたいものも作っていこうと、少しずつ個展を始めるようになりました。
ただ、自分が作るものも、かわいい女の子やかっこいい男の子ではなく、「はげたおじさん」や「ボテッとした体型のおばさん」が主人公のものが多くて。その人らしい歴史がにじみ出ている、哀愁や切なさがあるものが、結局のところは好きなんでしょうね。
ーーみんながかわいいというものよりは、人生がどっしりと乗っかったような、リアルな生き様に惹かれるんでしょうか。ただ、おじさんをモチーフにしたイラストも色使いがビビッドで、かっこいいですよね。
みんなが知らない美しさを発見した時に、心躍るんです。おじさんをモチーフにしたイラストも、切なさや哀愁、プライドといった人間味をポップな色を使って表現したいと思っています。
落とし物も、ただのゴミのようなものだったのが、トリミング次第でかっこいい写真になったり、急にストーリー性が出てくることがあります。
そうやって、ネガティブなイメージのものをポジティブに変身させたい、という思いが根底にあるんでしょうね。
ーーデザイナーとアーティスト、落ちもん写真収集家。表向きには様々な顔がありますが、根っこでは一本の線でつながっているんですね。これから取り組んでいきたいことはありますか?
魅力的だけど埋もれているものや人が、世の中にはまだまだいっぱいあると思うので、デザイナーとして、そういう人たちをバズらせたいですね。
例えば以前、沖縄の大宜味村で作られた、シークワサージュースのロゴを作ったんですが、現在そのCMを制作しています。おばあちゃんがグラスを掲げたロゴなんですが、CMもおばぁとおじぃと孫が登場して、3人で乾杯しています。
いいものなんだけど、あまり注目されていない地域やもの、人が、世の中に出ていくための力になれたらいいですね。
偏愛マニア探訪後記
「変なやつおるから今度紹介させて。」
互いに共通の友だちに誘われ、一緒に向島の路地をお散歩したのが、藤田さんとの最初の出会いでした。
それぞれ道に落ちているものと道から生えているものに、目が留まってしまう二人。偶然にも同い年。そして学生時代のこじらせていた時期に通った「黒歴史」もなんだか似ている。
不思議と共通点の多い藤田さんと、一気に距離を縮めたのでした。
出会って8年ほどの間、クライアントワークだけでなくご自身起点での活躍の場もますます広げる様子を、眩しく見守っています。
人からないがしろにされるようなものだって、演出次第でキラキラしたものに変身させることができる。
先入観にとらわれず、視点を行き来させながら本質を見つめ、覚悟を持ってゼロイチのものづくりに取り組む姿に、「藤田さんと仕事がしたい」という信頼が集まっているのだろうなと感じました。
魔法使い・藤田さんに、私自身これからも楽しく巻き込まれていきたいです。