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#15 工房は、コロナと共に

2020年1月、鳴門のフレンチモンスター瀬戸内フードアートは、工房部分の工事が完了し、あとは客席の仕上げを残すだけとなった。

徳島のお取引先への「卸」と、東京中心の「催事」に向けての製造がメインだから、十分だろう。客席が入る部分の仕上げ工事の進捗マネジメントもしながら、お菓子を作るというミッションを抱え、2020年1月30日に杉山ご夫妻が、2月1日に上原パティシエが、鳴門に着任した。

杉ちゃんは、ギリギリまで我が家に寝泊まりして、お菓子の出荷までの仕事を覚えてくれた。杉ちゃんのすごいところは、じっとわたしの仕事を黙って見ている。そしてそれを、ほぼ100%でトレースをする。「守破離」の「守」を徹底的に自分の中に叩きこむ杉ちゃんが、本当に頼もしかった。

最終日は、わたしと息子でしゃぶしゃぶパーティーをして送り出した。

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上原くんを西麻布で見送った時は、ちょっとグッときたな。お菓子専用のオーブン、お菓子専用の工房が、やっとできた。

どんな気持ちで上原くん、新しいオーブンを使うんだろう。

頑張って!行ってらっしゃい!よろしく頼んだ!

積めるだけの荷物を上原くんの車に積んで、フェリー乗り場に向かう上原くんを手を振って見送った。

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いよいよ、鳴門のお菓子工房の操業がスタートした。

お菓子の製造環境が整うことを見越して、2月中旬頃から、東京の催事の予定をたくさん入れていた。

渋谷駅をまさに「スクランブル」で繋ぐ話題のニュースポット「渋谷スクランブルスクエア」を皮切りに、日本の百貨店ナンバーワンの売り上げを誇る「池袋西武」、そして、常連のお客様も多い「渋谷ヒカリエ」

4月までスケジュールを埋めていた。

しかし、2月3日、横浜に帰港したダイヤモンドプリンセス号で、日本で初めて、コロナウイルス感染が確認された。学校の卒業式、入学式がどうなるのか!と大騒ぎになり、その後、緊急事態宣言で、全国の学校の登校もできなくなった。会社員は自宅でのリモートワークを余儀なくされ、インバウンド消費に湧いていた街から観光客がいなくなった。

今でも覚えている。「渋谷スクランブルスクエア」は、インバウンドの観光客も多い売り場。アジア、ヨーロッパ、アメリカなど、多様なお客様が訪れる。
ところが会期後半から、パタリとインバウンド観光客のお客様の姿を見なくなり、催事では必ずお願いされていた「試食をお勧めする」営業行為がNGに。店頭に立つときにはマスク着用が必須となり・・・日を追うごとに深刻さが増してきた。

4月にお伺いした「池袋西武」では、思うような成果をあげることが難しかった。お菓子はやはり、コミュニケーションツールの一つであり、差し上げる先様があって初めて、数が売れる。袋入りの日持ちが短いお菓子の売り場に立ち寄る人は少なかった。でも、この売り場にお邪魔するのは初めてだったので、これが、コロナのせいなのか、それとも、わたしの売り方が悪いのか。私たちのお菓子がこのエリアではウケが悪いということなのか。どの筋をどうしたら良いのか、まるでわからないということが一番辛かった。

せっかくいただいた機会を、売り上げでお返しすることができない申し訳なさ。毎日、針のむしろに立っているような苦しさ。

そして閉店時間が早まり、あと数日の会期を残し、百貨店が臨時休業に。同時に、渋谷ヒカリエから、催事中止の連絡が入った。

夢にまで見た「鳴門のお菓子工房」の仲間に、「売り場にまだ商品があるので、明日の出荷は止めてください」「1週間後のイベント、中止になりました」と連絡を入れる時の無念な気持ち・・・本当に情けなくて悲しかった。

こんなことってあるんだ。よりによって、これからが始まり、というときに。

東京だけでなく全国的にも相当ナーバスな状況になっていたため、大きな声で「フレンチモンスター、鳴門にオープン」って徳島の皆さんにお伝えすることもできなかった。なんて不義理をしてしまっているんだろう。あんなに大勢にお世話になってやっとオープンをしたのに、どうして・・・

「故郷・徳島を世界へ」

勢いよく発信していきたいと思って勝負にでたのに。

なんてこと・・・

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