誤った願望の当て込み【電子書籍「反対側へのダイアリー」制作日誌】
ふれるま たみ子初めてのエッセイ「反対側へのダイアリー:わたしが見つけた、もうひとつの世界」についての制作背景や想いなどを書き綴っています。
第2章 心に抱えていたもの(2017年10月 前半)
■17 ガラス越しの自分を見て 10月18日(水)
ごった返す山手線。
(ああ、しまったな。帰宅ラッシュとかぶってしまった。この時間の人って、この密度なんだなぁ)
なんて思いつつ、つり革を握ってゆらゆら揺られる。
窓ガラスに映った私の顔。
(うん。んふふ。今日は嬉しそうね)
あの子たちに言わないとなぁってずっと思っていた。退社が決まって、先にブログ、書いちゃったけれど、伝えるなら顔見て伝えたいしなってぐずぐずしてたら今日になってしまった。
神妙な顔つきでテーブルに着く。誰ひとり、目を合わせようとしない。
「辞めんだよね」
って笑って切り出したら、それまで俯いてたスタッフのひとりがハッと顔を上げて私の顔を見た途端、唇がふるふると震え出した。
(ああ、私はこの子たちをひとりで勝手に背負っていたのだな。誰にも頼まれていないのに。そしてこの子たちも知らず知らずのうちに私に背負われていたのかもしれないな)
「心配だけど、心配だと思うことで何か潰しちゃうかもしれないから、ちっとも心配じゃないよ」
そんなことを言って、ふふふと笑い合った。
帰り道の足取りは軽く、どこまでも歩いて行けそうなほど。胸の圧迫感も今日は感じない。満員電車の中、嬉しかったことをひとつひとつ思い浮かべる。
(ああ、早く迎えに行きたいな。今日は、息子と一緒にたっぷり眠ろう。そうしよう)
(本文より)
制作背景:誤った願望の当て込み
会社のスタッフと、家族のような関係性を作りたかったのでしょう。会社での自分の行動を振り返ると、私はスタッフのお母さんのようなことを進んでやっていました。事務手続きや給与の管理のみならず、男女共同のトイレ掃除から、親睦会やランチ会の主催まで、一時は朝のスムージー作りにハマリ、近くの八百屋で食材を買って来ては社内でミキサーを回していました。夢はまかないの出る映像会社を作ること。「アットホームな会社に育てたい」と言いながら希望の家庭像を自分自身の家庭でなく会社に投影していたのだと思います。
姉御肌だと思っていた自分の立ち居地は、会社からすると明らかに場違いなものでした。求めていた存在意義は願望の当て込みを誤ったもので、私は自分の間違った目標の投影により、「この子達をなんとかしなくちゃ」と無くて良かった責任感を沢山負うようになっていました。
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