世界を知り不幸になる【電子書籍「反対側へのダイアリー」制作日誌】
ふれるま たみ子初めてのエッセイ「反対側へのダイアリー:わたしが見つけた、もうひとつの世界」についての制作背景や想いなどを書き綴っています。
第2章 心に抱えていたもの(2017年10月 前半)
19 蘇る記憶 10月20日(金)
しとしとと降り続く雨。雨が続くと体がしんどい。
(今日は首が痛いな。これは頭痛になるやつだ)
首が痛いといつも思い出すんだよね。祖母に押さえつけられて、顔を上げることができなかった。首の後ろが辛くて、こたつの中が息苦しくて、早く顔を上げたかった。
その日も父の罵声やら怒号が鳴り響く。あれが始まると体が硬直してピクリとも動けない。
ガシャーン!
と、聞いたことのない大きな音が鳴り響く。これは動いてよいというサインだ! と思ったんだろう。やっと台所に駆けつけると、どす黒い血がつつつ…と私の足の方まで流れてきた。意識を失った母の足を引っ張りずるずると引きずり出す父。
あれは現実だったんだろうか。
家を駆け出し100メートルほど先の本家に、泣きながら兄と走って、走って向かう。真っ暗な国道に、どこまでも続くテールランプ。
記憶は途切れ、大人たちがドタドタと騒がしい。祖母の膝の上で泣き続けていた私は、もう顔を上げて辺りを確認したかったけれど、祖母は手を緩めてくれなかった。これは大人の話。子供の私は決して聞いてはならない話。母のためとか父のためとか、よくわからない中でただ遠慮してたんだよね。
「お母さんにまた会いたい」って言ってもよかったんだよ。
(本文より)
制作背景:世界を知ると不幸になる
この日の記憶は今も鮮明に覚えています。当時私は5歳くらいだったか、来年、私の息子が5歳になるのを考えると、こんなに小さな子供でも大人になるまで持ち続ける過去の記憶というものがあるのだなと、改めて人の脳みそってすごいなぁと感じさせられます。
父と母の不仲は生まれた時からだったので、いつ罵声や何かの破壊音が聞こえるかもしれぬストレスとは毎日共存していました。「うちが普通のおうちでない」ことに気付き始めたのは、小学校に上がり、お友達のおうちに遊びに行くようになってからだと思います。お友達のおうちのお父さんは、「恐ろしいおとなの人」ではなくて、穏やかで優しい人が沢山いました。恐怖のない一日が過ごせる家庭というものが、普通にあることを知りました。
それを考えると、子供って当たり前ですが本当に「家庭」が世界そのものなんですよね。外を知らなければ、自分を不幸だとは思わないのです。成長に伴い外の世界を知っていくことは、私にとって「自分は可哀想な子なのだ」と自分自身を認識させる現象になっていきました。本当に心から自分を不幸だと思っているかというと、そこはそうでもなかったかもしれない。その本心と、自分のキャラクターを「可哀想な子だと」認識するというところの差に、「悲しみに浸りやすい」といった側面が生まれていったのかもしれません。
【マガジン過去記事はこちら】
■vol.12: 世界を知り不幸になる【電子書籍「反対側へのダイアリー」制作日誌】
■vol.11: 誤った願望の当て込み【電子書籍「反対側へのダイアリー」制作日誌】
■vol.10: 不足感を埋める責任感【電子書籍「反対側へのダイアリー」制作日誌】
■vol.09: 「悲しみに浸る」習性【電子書籍「反対側へのダイアリー」制作日誌】
■vol.08: 記憶へのアクセス【電子書籍「反対側へのダイアリー」制作日誌】
■vol.07: 頑張っている自分への陶酔【電子書籍「反対側へのダイアリー」制作日誌】
■vol.06: プライドの壁【電子書籍「反対側へのダイアリー」制作日誌】
■vol.05: 罪悪感に疲れていた頃【電子書籍「反対側へのダイアリー」制作日誌】
■vol.04: 夫との通わない感情【電子書籍「反対側へのダイアリー」制作日誌】
■vol.03: 働き方へのフラストレーション【電子書籍「反対側へのダイアリー」制作日誌】
■vol.02: ダイアリーの始まり【電子書籍「反対側へのダイアリー」制作日誌】
■vol.01:【反対側へのダイアリー: わたしが見つけた、もうひとつの世界】kindle版電子書籍出版にあたって
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