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EXCoders(特別な印を持つ者たち) 第8話:隠された本質
前書き
人は「選ばれる」ことで、幸せになれるのだろうか?
才能を持つことは祝福か、それとも呪いなのか?
この物語は、ある一人の少年が**「選ばれた存在」として運命を背負いながらも、その意味を問い直していく物語である。
日本最大の製薬企業「ミネルヴァ・バイオテック」が掲げるスローガンは、「遺伝子は、選ばれた者を求める。」**
しかし、その言葉の裏には、誰もが知りたくない残酷な真実が隠されていた。
「SSP(スペシャル・サポート・プログラム)」――それは、特異な才能を持つ子供たちを集め、能力を開発する極秘計画。
だが、その本当の目的は、「次世代兵器の創出」にあった。
そして、その計画の犠牲になった少年がいる。
彼の名は相馬海斗。
選ばれながらも捨てられ、力を持ちながらも知らされず、戦う理由すら与えられなかった彼は、やがて自分の「真実」に向き合うことになる。
これは、運命に抗い、自分自身を取り戻そうとする少年の戦いの記録である。
――たとえ「選ばれた者」としてではなく、一人の人間として生きるために。
📖 3人の会話の続き——「守る」という本質
夕暮れの屋上。
カイト、迅也、紗月の3人は校庭を見下ろしながら話していた。
「それにしても……」迅也が腕を組みながら呟いた。「エクスコードって、その持ち主の“本質”に関係してるって言ってたよな?」
「ええ。」紗月は軽く頷き、カイトをちらりと見た。「今までのケースを見る限り、エクスコードは持ち主の思考や習慣、あるいは無意識の行動にリンクしてるの。」
「ってことは……」カイトは少し考え込むように視線を落とした。「俺の本質は……“守る”ってことか?」
「確かに、お前はいつも誰かを守ろうとするな。」迅也が言う。「交通事故の時もそうだし、ガルシア戦の時もそうだった。」
「……意識してるわけじゃないんだけどな。」カイトは苦笑した。
「でも、それが自然に出るってことは、おそらくカイトのエクスコードは“防御”に関係してるんじゃないかしら。」紗月は優しく言いながら、カイトの肩をポンと叩いた。
「防御、ね……」カイトは呟きながら、ポケットに手を突っ込んだ。
「でも、防御だけじゃ戦えないよな。」迅也はため息混じりに言う。「何か攻撃手段とか、別の能力が発動する可能性は?」
「まだ未知数ね。」紗月は腕を組んで考え込む。「カイトの本当の力は、彼自身がまだ気づいていない部分にあると思う。」
「気づいていない部分……?」
カイトはポケットの中で、指先に触れたシャーペンを何気なく回した。
(俺の本質……本当に“守る”だけなのか?)
すると、迅也が急にニヤッと笑いながらカイトの肩をポンと叩いた。
「じゃあさ、カイトのエクスコードって、“ボディガード”とか“お助けヒーロー”みたいなもんか?」
「……なんかダサくない?」
カイトは若干引いた顔で迅也を見た。
「いやいや、“守る”のが本質なら、たぶんスーツ着てサングラスかけて“お客様、こちらへ”とか言いながら要人を護衛するタイプのエクスコードなんじゃね?」
「お前、それもうエクスコード関係なく、ただのSPだろ。」
紗月が冷めた目でツッコミを入れる。
「いいじゃん、カイトなら似合うかもよ? ほら、スーツ着てペン回してたら、めっちゃ仕事できそうな感じするし!」
「だから何でペン回しとボディガードがセットになってるんだよ!」
カイトが思わずツッコミを入れたその瞬間、手元のシャーペンがつるっと滑って地面に落ちた。
コロン——
3人は一瞬無言になった後、同時に爆笑する。
「……なんか、それっぽく決めようとしたのに、一気に間抜けになったな。」
「だね。」
「ふふ、まぁ今のところ“守る”が本質なのは間違いなさそうね。」
笑いながら、カイトは落ちたシャーペンを拾い上げた。(シャーペンの中が壊れている......)
📖 長内との帰宅後の会話——「新たな監視」
放課後、カイトはいつも通り家に帰ると、養父である長内がリビングでコーヒーを飲んでいた。
「おかえり。」
「ただいま。」カイトは靴を脱ぎながら答え、リビングへ向かった。
「今日は遅かったな。何かあったのか?」
「ちょっと屋上で話してた。」カイトはソファに腰を下ろし、カバンから宿題を取り出す。「紗月と迅也と。」
「……そうか。」
長内はカイトの様子をじっと見た。
「それで、何を話していた?」
「エクスコードの話。」カイトは数学のノートを開きながら答える。「エクスコードって持ち主の性質とリンクしてるらしいんだけど……俺のは“守る”ことに関係してるんじゃないかって。」
「ほう。」
長内はコーヒーを飲みながら、興味深げにカイトの言葉を待つ。
「交通事故の時も、ガルシア戦の時も……結局、俺は誰かを守るために動いてた。」
「それは悪いことじゃないだろう?」
「いや、そうなんだけど……それが俺の“エクスコード”と関係してるのかなって。」
カイトは思わず、ペンを手に取り、自然に回し始めた。
カチ、カチ……指の間を滑らかに回るシャーペン。
長内は、それをちらりと見たが何も言わなかった。
「ま、人間の能力ってのは、その人間の生き方や考え方に影響されるものだ。ましてや、お前みたいな“特別”なやつならなおさらな。」
「……そうかもな。」
カイトはゆっくりとペン回しを止め、指先で挟んだまま考え込んだ。
(俺のエクスコード……“守る”だけじゃなく、何か別のものがあるのか?)
「それより。」長内は、何気ない口調で言った。「明日から担任が変わるみたいだ。」
「へぇ、誰に?」
「俺だ。」
「……は?」
カイトは思わずペンを落とした。
「なんで!?」
「上からの指示だよ。」
長内は肩をすくめる。
「まぁ、何かとお前の周りが騒がしくなってきてるからな。俺としても、学校での様子を直に見られるのは都合がいい。」
「……なんか、監視されてる気がするんだけど。」
「気のせいだ。」
長内は笑いながらコーヒーを飲む。
「さて、俺は明日から担任として、お前の学校生活を見守ることになる。何か問題があればすぐ報告しろよ。」
「……なんかやりづらいな。」
カイトはため息をつきながら、再びペンを手に取り、無意識に回し始めた。
(まぁ……いつものことか。)
カチ、カチ……
ペンの回転が、まるでカイトの思考を象徴するかのように、滑らかに回り続けていた——。
📄 長内の極秘報告書 —— SSP本部送信ログ
📍 報告者:長内 大輔(調査員ID: X-022)
📍 対象者:長内 海斗(T-47 被験者)
📍 日時:XXXX年XX月XX日 22:37
📍 機密レベル:極秘
📌 状況報告
本日、対象者 長内海斗 に関する社会適応能力および行動分析を実施。
学内での彼の立ち位置に変化が見られる。
“ガルシア戦”以降、クラスメイトの間で警戒心が芽生え、一部は敬遠、一部は観察対象と化している。
計画通り、彼は“孤立”へと向かいつつある。
対象者の精神状態に大きな乱れは見られず、今のところ“回避”を選択し続けている。
彼は本能的に「守る」ことを最優先とし、自ら攻撃に転じる兆候は一切ない。
しかし、このままの状態が続けば、今後の試験において“彼の真の適性”を引き出すのは難しいかもしれない
「…………」
(……このままじゃ、海斗は詰む。)
“回避”だけでは、いつか守れないものが出てくる。
それを奴らはよく分かっている。
「SSPが求めるのは“戦える兵器”。
だが、俺が守りたいのは“戦わなくても生きていける未来”だ…..」
✅次回予告:「避けるだけでは、守れない!?」
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