カブトガニの分類体系を再構築した2020年に発表された論文2本

 現生種(現在生きている)のカブトガニは,4種類で,いずれも系統学的に近く,とくに現生カブトガニ類の分類が問題になることは,ほとんどありません.
 しかしながら,カブトガニという分類群は,化石種では,非常に多様で,複雑な様々な種を包括しており,長い間,カブトガニ類の分類体系は混乱していたようです.(少し前の節口綱の概念も今とは全く違うらしいのですが,また,別の話で).
さて,カブトガニ類の混乱した分類体系を一気に解決した論文が2020年に出版されました.
Bicknell RDC and Pates S (2020) Pictorial Atlas of Fossil and Extant Horseshoe Crabs, With Focus on Xiphosurida. Front. Earth Sci. 8:98. doi: 10.3389/feart.2020.00098
伝統的な体系を用いながら,膨大な試料を出現年代ごとに,かつ,形態を丁寧に観察して.まとめ上げたのです.(中村彰宏さんご指摘の Frontiers ですね).
 ここでは,担当editorが,この分野の大御所,Paul Antony Selden,査読者として,James LamsdellとJason Dunlopの名前が,明確に挙げられています.
 発表には,Received: 22 January 2019 Accepted: 20 March 2020 Published: 09 July 2020と書かれています.
2020年7月の話です.
 このBicknell RDC and Pates S (2020)によって,良くわからなかった化石カブトガニの体系が一気に片付いた,2020年とはそう言う年であると,思われたのですが,.......
 この後,2020年12月に,Lamsdell JC. 2020. The phylogeny and systematics of Xiphosura. PeerJ 8:e10431 http://doi.org/10.7717/peerj.10431 の論文が出版されました.
 PeerJのこの論文は,形態情報に基づいて,分岐分析をおこない,全く新しく,かつシンプルにカブトガニの分類体系を構築しました.論文の構成や,figureも,センスが素晴らしく.とてもわかりやすくなっています.
 仮に私が,教科書に書くとすれば,古典的で複雑なBicknell and Pates (2020)よりも,革新的でわかりやすい Lamsdell (2020)を採用するでしょう.
 こちらの論文は.Submitted 10 September 2020 Accepted 4November2020 Published 4 December 2020 となっています.
 2020年9月に投稿されて,2020年12月に公開されています.PeerJを選んでいるところも,「良い感じ」でしょうかね.
 査読者であった Lamsdellは,査読後に自分のデータを解析したのかどうか.わかりません.
 しかしながら,Frontiers の 査読者公開によって,このようなエキサイティングなやりとりを確認する事ができるのは,より公平感や,科学の進歩に貢献している感じがあります.
 このようなエキサイティングなやりとりを,読むことができることが,2020年の同時代に生きているおもしろさである,ともいえるような,カブトガニ研究の攻防戦,面白く読みました.

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