孤島の窓辺から #014「憧れのままに」
僕は田舎で育った経験があるからか
森や山に対する特別な思いが昔からあります。
故郷の家には裏山があって、
生活の中には常に様々な木々や花々
それを包み込む深い森がありました。
身近にある場所にも関わらず、
どこか遠い憧れの場所のような、
同時に人間ごときが容易に立ち入ってはいけない
独特の雰囲気を感じたものです。
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ドイツに滞在していた時のこと。
彼らの森に対する思いにも
同じようなものを感じました。
例えば、ドイツのグリム童話には、
「白雪姫」や「ヘンゼルとグレーテル」のように
「森の中を舞台」にした物語が多いですよね。
ドイツの森林は日本のそれとはどこか違い、
深く鬱蒼として、一度入ったら
二度と戻ってこれないような世界観。
そこには妖精たちが潜んでいて、
どこかに魔女が住んでいそうな、
童話の世界が現実にありえるのではないか、
そんな気配すらありました。
そんなドイツの友人と
深い森の中をハイキングしながら、
そんなドイツ人の森との(適度な距離感を持った)
関わり方を感じたものです。
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森林は様々な生き物たちの
複雑な繋がりによって成り立っています。
そこには人間の想像も及ばない
生態系が溢れ広がっている。
人間の想像をも超える「何か」がそこにはあると
探求したのは、あの博物学者・南方熊楠さんでしたが、
いつの時代も、そのように、
人は森林や山を信仰の対象にもしてました。
日本では、
最近ではそんな憧れの山を丸ごと買い取って、
そこでセルフキャンプをしたり、
仕事の拠点にしようと考えてる人が多いと聞きます。
僕は田舎生まれで、
山に対する思い入れは深く、
その中で人間が生きていくことの厳しさを
身を以て感じてもいます。
昔は、祈りやお参りをした後に
その山に入っていくことだってありましたからね。
きちんと考えた上でならばいいけれど、
なぜ、人々が古来からその場所を敬ってきたのかを
きちんと理解することも必要なのかとも。
一時の娯楽と、現代の価値観だけで、
大切なものを侵してしまわないように。
知らなければよかった、
こんなはずではなかった。
軽い憧れだけで、
一時代の価値観だけで、
心の逃げ場所だった憧れの場所を
自らの手で潰してしまわないように。