幸福日和 #058「はじめの一杯」
「はじめの一杯」と言っても
お酒のことではありません。笑
確かに僕は、
時に朝日を迎えながら夕日を見届けながら、
この浜辺で贅沢にもワインをいただく機会は多いのですが、、、。
その一日のはじめに
はじめて体内に入ってゆく「はじめの一杯」
そうしたものを大切にしたいというお話。
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僕には毎朝の習慣があるんです。
それは一日が始まる時、
一杯の冷たい水をいただくこと。
朝目覚めると、
必ずその一杯が恋しくなるんです。
海に囲まれた場所にいるのに、
水が恋しくなるなんて
おかしな話に聞こえるかもしれませんが、
暑い時に温かいものや辛いものを
求めることに似たような感覚なのか、、、。
理由はよく分かりませんが、
毎朝、透き通った一杯が恋しくなる。
とはいっても、
毎朝、僕が口にしているのは
ただの水ではありません。
薪で火を起こして丁寧にお湯を沸かし、
さらに、それ以上の時間をかけて冷やした、
とてつもなく手間をかけた水。
朝起きると、
グラスボトルに入ったその水を
透き通ったグラスの中に注いでいく。
その様子を眺めているのも好きなんです。
そのグラスの中で踊る水の細やかな表情を眺めながら、
ゆっくりと、なみなみと注いでゆく。
水の細やかな表情も眺めていたいから
保存しているボトルも、
それを受けるグラスも
透明すぎるほどに透き通っていないと
僕の気持ちは落ち着かない。
その水を、最初は一口だけ。
少し間をおいて、多めに二口目。
そして少しずつ体の中に染み渡ってゆくのを感じながら、
その一杯をゆっくりと味わい飲みほしていく。
唇から口へ喉へと、
やがて胃に広がって体内に染み渡り、
手先の毛細血管まで「ふわっ」と軽い心地よさを感じる。
そうして、ようやくはじめて、
安心して今日を迎えられるという
気持ちになれるんです。
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思えば、いつでも何処に居ても、
その日の「はじめの一杯」というものを
大切にしてきました。
日本で多忙極めていた頃、
都会的なその生活の中で迎える「はじめの一杯」は、
濃いめのブレンドコーヒーでした。
あのベートーヴェンが
毎朝決められた数のコーヒー豆を数え
自ら一杯のコーヒーを入れて一日を迎えていた。
そんな彼の習慣に憧れて、
僕も焙煎された一粒一粒のコーヒー豆をミルにかけ、
その深みある香りを楽しみながら、
時間をかけて味わう一杯が楽しみでした。
また、朝ではないけれど、
自分にとって「大切な場所」に行った時も
「はじめの一杯」は僕を迎えてくれたものです。
故郷に帰った折、
実家にたどり着いたら、僕がまず足を運ぶのは、
家族の居る母屋ではなく、祖父の居る離れにある茶室。
そこで祖父が点てる一服の抹茶が、
故郷に帰ってきた際の挨拶のようなものだった。
その味わい深く想いの込められた一服をいただきながら、
亭主の祖父に自分の都会生活を報告し、
背負ってきたものを降ろしていった。
そんなふうに、
いつでも、その場その場での
「はじめの一杯」というものがありました。
みなさんにとっての
はじめの一杯は何でしょう。
そんな一杯の中には、
その人にとって大切なものも
同時に満たされているのではないか。
今日もこうして一杯を口にしながら
そんなことに思い巡らせ一日を迎えています。