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私たちはなぜ生まれてきたのだろう

1. 生成AIは私たちに取って代わるのか

1.3 脳は常に発達を続けている

発達を続ける神経ネットワーク

脳神経の発達はおおむね5歳から10歳までの間に終わりますが、脳はシナプスという神経細胞間の空間を利用して死ぬまで高度に発達し続けます。この空間では、神経伝達物質という化合物が神経細胞間の情報伝達を担います。

たとえば、水泳の練習をするとき、手足や身体全体が水圧や温度(場合によっては水に含まれる化学物質)を感じ取ります。その感覚を受け取った神経細胞はそれを電気信号に変えて、脳の価値観や意思を司る部分(大脳皮質)に伝えます。

大脳皮質のニューロンはその情報に応じた反応をするように、運動を司る別のニューロン(小脳)に指示を出し、小脳のニューロンは具体的な行動の指示を手足の筋肉細胞に伝えます。

大脳皮質には「希望」という情報を持つニューロンがあります。練習を続けると、類似の情報が集まって「上手くなりたい」という希望のニューロンネットワークが「上手くなる」という意思のニューロンネットワークに切り替わっていきます。

「希望」のニューロンに流れていた情報を、「意思」のニューロンへシナプスが送り先を変えたのです。

これによって小脳でのニューロンの組み換えも始まります。小脳では、それまで筋肉細胞を動かしていたニューロンネットワークから、もっと効率的に筋肉細胞を動かせるニューロンネットワークへシナプスが情報の送り先を変えます。つまり、各駅停車から急行の路線に切り替わったのです。

身体を動かすことでも、脳で考えることでも同じです。使えば使うほど、シナプスは目的に合った効率的なニューロンのネットワークへと組み替えていきます。

ヒトは新生児から幼児期までに多くの刺激と愛情を受けてニューロンのネットワークを発達させます。幼児期を過ぎてからは多くの失敗と成功を重ねることで、シナプスが情報を流すニューロンを頻繁に切り替え、思考や運動能力が高度に効率化されていきます。

生成AIは、人間が作ったプログラミング言語で動作しています。プログラムの効率化はそれを組み上げる人しだいです。算数の例で言うと、「足し算」を「掛け算」に置き換えられるかどうかということになります。

「1+1+1+1+1+1+1+1+1+1=」と計算するより、「1×10=」の方がずっと速く答えが出ます。このような短縮化されたプログラミングでコンピュータは高速化・効率化できます。

もし、コンピュータ自身がこのようなプログラミングの効率化をできるよう自身を書き換えるようになれば、人間との差はさらに縮まっていくでしょう。そして、その兆しはすでに現れています。

1.2 ヒトの脳の発達

シナプスの構造イメージ

シナプスは特別な「空間」です。線路の連結部分に例えましたが、物理的には接続されていません。「完全な空間」なのです。

外部からの刺激(匂いを嗅ぐなど)で発生した電気(電子)がニューロンの中を脳に向かって突進します。しかし、ニューロンの末端は途切れているので、そこで電子は止まってしまいます。

ニューロン末端は樹状突起と呼ばれ、木の根のようにあちこちに広がっています。樹状突起で停止した電子は、その末端に溜まっている物質(神経伝達物質)を外に弾き飛ばします。

その放出された物質は「空間(シナプス)」を漂って、隣のニューロンの神経末端(樹状突起)の専用入り口から侵入します。隣の樹状突起に侵入した神経伝達物質は、それに応じた電位の電気を発生させて、再び電子がニューロンの中を走ります。

この電子の流れとそれに対応する神経伝達物質は常にペアであり、同じ電位の電子の流れと神経伝達物質の流れが何度も発生すると、それを受け取った特定のニューロン同士が結びつきます。それが脳の中で起こると「価値観」や「記憶」として保存されます。

なぜこのようなややこしい仕組みになっているのでしょうか。例えば、皮膚を触られた信号が皮膚細胞から電気信号で脳まで神経細胞で直接送られていれば、反応も速くて伝達も確実です。実際、イカなどは体表の感覚部分から脳まで長い神経でつながっています。

ですから、イカは素早く動き回ることができます。しかしヒトのように神経が所々で切れて、切れ目(シナプス)を水中に漏れ出た化学物質でつなぐのでは、電子の流れに比べたら何百分の一の速度も出ません。ですから、水中でどんなに頑張ってもイカを素手で捕まえることはできません。

確かに、身体を敏捷に動かすならイカのように長い神経細胞で脳と手足を直結する方が良いでしょう。しかし、脳神経となると話は異なります。短く切れた神経細胞の方が有利なのです。

脳内では脳神経(ニューロン)が網目状にぎっしり詰まっています。しかし、どのニューロンも独立していて隣同士が直接つながることはありません。

ニューロンには無数の木の根のような樹状突起が形成されていて、脳内の無数のニューロンがお互いにその樹状突起でシナプスを介して無限と言えるほどの組み合わせでつながっています。全体で微細な構造をした精巧な編み目構造になっています。

この精緻な編み目構造はいきなり形成されるわけではありません。生まれた瞬間から脳神経は発達し始めます。刺激を受けるほどその編み目構造は複雑になっていきます。

新生児の時から話しかけられたり、触れられたり、嗅いだり、味わったり、色々な物を見るほど脳神経は活発に発達します。そして、幼稚園に入るくらいの時期から脳神経の発達は止まります。しかし、脳神経の発達が終了した後も脳全体の発達は続きます。

その発達はシナプスによってもたらされます。

1.1 私たちと生成AIの違い

ニューロンの構造イメージ

生成AIとして代表されるChatGPTは、昨年から急速に注目を集めています。人間らしい曖昧な質問(プロンプト)に対して、返答が返ってくるという、斬新な未来感が話題となりました。私たちの子供の頃に夢見た人工知能の未来がついに実現したように感じたのです。

しかし、その返答内容が倫理的に問題があったり、間違っていたりすることが報告されるようになり、使い道に疑問が生じています。また、ある意図のもとに生成AIの返答を削除したり、無効にしたりする試みもあり、純粋な技術的進歩にも不安があります。

生成AIは私たちの知性と比較されます。しかし、生成AIと私たちの知性には決定的な違いがあります。

私たちの脳はニューロンと呼ばれる特殊な神経細胞が複雑につながって、外部からの情報を蓄積し整理し、蓄積した情報を整理し直して新しい「知恵(知性)」として発信します。ニューロンは常に変化と発達を繰り返しています。

新しい情報を入手すると、古い情報と照らし合わせて「正しい」と判断されると古い情報と入れ替わります。

「正しい」かどうかは自身が育んできた「価値感」で判断します。言い換えれば「基準」です。「価値感」はあるニューロンの集合です。生まれた時から受けた外界からの刺激で一つのニューロンは他のニューロンと接続しようとします。

それは神経と神経が融合して一つになるのではなく、「シナプス」と呼ばれる特殊な「空間」でつながります。ニューロン一つ一つは完全に独立した存在ですが、シナプスによって密接に関係しています。

このシナプスは鉄道に例えれば線路の連結部分に似ています。それまでつながっていたニューロンから別のニューロンとシナプスを介して新たな接続が作られるのです。同じ情報が繰り返しニューロンとシナプスを流れると信号の流れる方向が一定になり、他のニューロンに情報が渡されなくなります。

例えば、東京行きの列車が走る線路とその方向を決める連結部分は変わることがないのと同じです。札幌に行きたければ別の線路と連結を使わなければなりません。

このニューロンの集合が「価値観」として脳の神経全体の中で小さな塊となります。この「価値観」としてつながったニューロンの集合は強固で、その人の「アイデンティティ(自分を自分として認識する意識)」となります。

生成AIの場合、すべての判断は「プログラミング」によって決まります。人が組み立てたプログラム言語によって決まっているので、「シナプス」のように新たなプログラム同士の切り替えがなされることはありません。判断を変えたければ別のプログラミングを行います。

つまり人の脳と違って発達するのではなく、新たにプログラムが構築されます。



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