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フリーランスのお守りとなる1冊を。こだわり抜いたフリーマガジン『pathports』の舞台裏

『pathports(パスポーツ)』は、個人事業主・フリーランスの「自由」をテーマにしたフリーマガジン。2024年7月16日、マガジンのリリースを記念して、制作メンバーとメンバーにゆかりのある人たちが下北沢に集まりました。160ページの分厚い実物を手に、マガジン制作の舞台裏について伺います。
話し手は、pathports編集長である株式会社Huuuuの日向さん、freeeのブランドマネージャーであるSun(すん)さんとAnjiii(あんじー)さん。聞き手はHuuuuの友光だんごさん。
freeeからHuuuuにマガジンの企画を持ちかけたのは1年前の2023年7月。フリーランスとの接点が増える確定申告期に、なにか手渡しできるものを作りたいというのが企画の始まりでした。
本格的な雑誌を作るのは初めてだったという3人。プロジェクトが進むうち、当初20ページ想定の小冊子は、いつしか160ページの大作に。「フリーランスとは」「自由とは」に向き合い続けた制作チームが、長い挑戦の道のりを振り返ります。

20ページの冊子制作から始まった企画

だんご 今回は特大ボリュームのフリーマガジンが実現した裏側を、制作メンバーに聞いていきたいと思います。この企画ですが、最初はfreeeさんからHuuuuにご相談いただいたんですよね

Sun はい。Huuuuさんとは過去、サウナと確定申告を組み合わせた『円宴縁日』という交流イベントを企画したことがありまして。Huuuuさんならではの人脈や自然体のものづくりを信頼していました

だんご 当初の予定は20〜30ページの雑誌だったそうですが……

Sun そうなんです。これについては、マガジンを作ろうとしたきっかけをお話しさせてください。freeeは会計ソフトの会社というイメージが強いですよね。でも、それと同時に『スモールビジネスを、世界の主役に。』という一歩先のミッションも強く持っているんです。

だからこそ、サービスだけのイメージから脱却して、freeeは個人のみなさんを支えるパートナーであると表現できるマガジンを作りたい気持ちがありました

日向 すでにfreeeさんは、起業や開業のサポートを目的とした『起業時代』というマガジンを出していたんですよね。だから今回は、答えを与えるというより、それぞれが考えるきっかけになるようなものにしたいと思っていました。その矢先、1回目の打ち合わせでSunさんの熱い想いを聞いて、20ページじゃ足りないだろうとなったんです

Sun とはいえ、こんなに分厚くなるとは思っていなかったですけどね(笑)

だんご 『pathports』は、freeeと提携している全国のコワーキング拠点(以下、パートナー拠点)でのみ配布していますよね。コワーキングスペースをパートナーとして増やしていく「みんなのfreeeプログラム」とのコラボは、当初から予定していたんですか?

みんなのfreeeプログラムとは?
ひとりで仕事をする環境で孤独・不安を感じやすいフリーランスのみなさんが、対面でも集える場所を全国につくろう!という想いから始めたプログラムのこと。
本マガジンは、freeeと提携している全国のコワーキング拠点(通称パートナー拠点)を中心に、無料で受け取ることができます。
https://go.freee.co.jp/minnano-freee-program.html

Sun 『pathports』のプロジェクトを進める過程で、コラボに至りました。フリーランスの方と日ごろ話す中で、実は孤独だったり、雑談できるような場所がなかったり、という声があったんです。そうした課題を改善するために、各地のオーナーさんと組んで、freeeパートナーとして拠点を増やしています

企業とクリエイターの垣根を越え、正面から向き合った制作チーム

freeeのつながりを加速するマガジン。もともとは20ページの予定が、160ページになるほど、freeeもHuuuuも熱量が高かったのだとか。社内で止められなかったんですかという質問には、「私たちもハイになっていたけれど、ジャーマネ* も背中を押してくれた」とAnjiiiさん。

*ジャーマネとはfreeeにおけるマネージャーのこと。メンバーのパフォーマンスを引き出す芸能界の“ジャーマネ”のような役割であって欲しいという意志をこめて社内で浸透している言葉です。

クライアントと受注者という壁を越えるために日向さんが意識したのはfreeeのお二人との関係づくりでした。

日向 クライアントと制作会社の共同作業では、制作サイドの熱量だけでなく、クライアントの担当者さんの熱量でクリエイティブの良さも左右される気がしていて。

だから、お互いがなにを大切にしているのかとか、フリーランスをどうしたいのかとか、一緒にものづくりをするための価値観の共有は相当な時間をかけました。でも、freeeのお二人は想いをすごく持っていて、面白いことをやりましょうと言ったら想像以上に返ってきましたね

だんご 具体的には、どんなコミュニケーションを?

日向 特別なことではないんですが、まずは会議室を出て、一緒にご飯を食べましょうと声をかけるところからでした。それから、早い段階から制作チームとして編集者やデザイナーを巻き込み、編集会議を重ねていきました

Anjiii 『クライアントだから』と線を引くことなく、最初から私たちも制作チームのSlackに入れてくださったのが印象的でした。『この時期ってこんなに忙しいんだ』『ここが議論している部分なんだ』とわかると、私たちも気合い入れなきゃ、受け止めないとって思って

日向 僕が今回、意識していたことの一つが、いかに発注者と受注者という関係を超えられるかでした。お金を出す方が偉いという単純なヒエラルキー構造は、時にお互いの熱量を下げうることがあります。だからこそビジネス的な駆け引きではなく、正直ベースで話せるようにコミュニケーションの取り方も工夫しました

だんご 3人とも雑誌づくりが初めてだったからこその熱量もありましたよね。例えるなら、バンドのファーストアルバムのような

Sun 私とAnjiiiは、個人事業主・フリーランスのユーザーさんとコミュニケーションを深め、新しいつながりを作る『ファンベースマーケティングチーム』の立ち上げメンバーです。マガジンの企画は、私がマネージャーになってはじめての大きなプロジェクトだったこともあり、もっとこんな世界を作りたいという想いにあふれている時でした。業界の常識のようなものを、いい意味であまり知らなかったからこそ、あの熱量で突っ走れたんだと思います

「かろやかに生きるには」にテーマが決まるまで

だんご 今回のテーマが決まるまでのお話も聞かせてください

日向 雑誌づくりの一歩目は、そもそもターゲット読者である『フリーランス』がどんな人なのかを考えることでした。世間一般的に言われている『フリーランス=自由』というイメージを、本当にそうなんだっけ?と疑うことから始めたんです

Anjiii 印象的だったのは、フリーランスという言葉がコロナ禍でひとり歩きしているんじゃないかという議論です。『自由で、縛られない働き方』のようなイメージもあるけれど、締め切りに追われていたり、組織に属さない孤独だったり、見えない部分では泥臭く頑張っているような面もあると

日向 僕は普段、取材で全国各地のフリーランスに会う機会も多くて。彼らと話していると、たしかに一見すごく自由を謳歌しているようにも思える。でもその裏で、孤独や理不尽と向き合いながら、軽やかに生きようと抗っている人が大多数でした。雑誌のコンセプトを考えるにあたって、彼ら彼女らのようなフリーランスにとってのお守りのような1冊にしたいという話をしましたね

Sun 自由をテーマにする一方で、裏テーマはフリーランスが抱えるリアルな不自由さでした。最初の仮コピーは『WHO AM I?』と『不自由探究』でしたね

日向 会社員なら『会社』がその人のアイデンティティの一つになるけれど、フリーランスには、そういうわかりやすい看板がない人が多いと思ったんですよね。だからこそ、自分で自分が何者かを紹介しないといけない。雑誌を通して自問自答してもらうみたいなコンセプトを考えましたが、今思うと、ちょっとストイックすぎたなと(笑)

Sun 『WHO AM I?』も『不自由探究』も、字面からして圧がすごかったんですよね(笑)。freeeのブランド指針には『解放』『自然体』『ちょっとした楽しさ』など『かろやかさ』を感じるワードがあるので、少しギャップがあるかなって。テーマの表現については、かなり濃密に議論しました

Sun 私とAnjiiiで、制作チームの皆さんへ時間をかけて何度もfreeeらしさの説明をしましたね。たとえば、かろやかさを表現するために漢字を使いすぎない、一見ネガティブな印象を覚える『不〇〇』のような表現は使わない、ビジュアル化したときの表現方法などですね

だんご 言葉やデザインの表現一つひとつにこだわり、意見を交わしながらすり合わせをしましたね

日向 freeeらしさについて議論を重ねたうえで、大事な部分を残しつつ、掛け算をしてどうやって超えていくかを考えていました。オーダー通りの90点くらいで返すのは当たり前な気がして、120点くらいの、お二人が見たこともない景色に一緒に行こうという気持ちでした

Sun その気持ちはすごく感じていました。やっぱりできあがってくる原稿や誌面を見ると、クリエイターさんの思いが伝わってくるんです。みなさんのクリエイティビティは壊したくないけれど、企業として目指したい世界、守らないといけないラインもあって、そのギャップをどう埋めるか。どうやってクリエイターさんのモチベーションを壊さないようにフィードバックするか、本当に悩みました 

Sunさんが「1年でいちばん悩んでいた時期」と表現していたほど、コミュニケーションに妥協せずに作られたことが伝わってきました。

「届けたい人のため」にいつも立ちかえる

Anjiii 原稿へのフィードバックも、すごく考えましたね。原稿を読んでいて、馴染みのない表現があったときは、他の社員にも聞いて意見をもらったり

日向 ライターさんへのフィードバックは編集者も慎重になる部分なんですが、freeeのお二人は僕たちと同じように悩みながらフィードバックしてくれてることがすごく伝わってきました。それに、今回のマガジンで伝えたいターゲット像をお互いに共有できていたことも大きかったなと

Sun マーケティング施策って、熱量があればあるほど、途中で迷走して違う方向に行ってしまうことも多くて。だから、表現でもデザインでも迷走し始めたら、毎回『誰に届けたいんだっけ?』と原点に立ち帰ることを徹底的に意識しました。いちばん大事なのは私たちの思いじゃなく、届けたい人がどう思うかだよね、と

誌面に登場する幅広い取材相手の皆さんも、フリーランスや個人事業主など、まさにマガジンを届けたいターゲットの方々が中心。どのように選んだのか、Anjiiiさんから質問が。

日向 制作チームのメンバーそれぞれがイメージする、『自由と向き合っている人』を最初に出し合いましたね。偏りを作らない人選を意識しながら、身内だけでなく、いろんな方々を巻き込みました

pathports編集部。freee・Huuuuメンバーのほか、左からデザイナーの小林誠太さん、編集者の肥髙茉実さん、和田拓也さん

イベント後半では、取材の裏話も。北海道上川町にあるパートナー拠点「PORTO」の取材を行ったのは、確定申告のある3月、freeeは超がつく繁忙期。

だんご freeeのお二人は相当、忙しそうなのが伝わってきました(笑)。でも、北海道の小さな町まで二人が足を運んでいる光景が、めちゃくちゃいいなと思ったんです。

東京の大きな会社で、提供してるのもオンラインのサービスとなると、地方の方からすれば遠い存在になりかねない。でも、実際に現地へ足を運んでコミュニケーションをとることで、お互いに見えてきたり、生まれたりするものってあると思うんです

日向 SunさんもAnjiiiさんも、取材へのモチベーションが高かったですね。クライアント側の人も現場へ行って、自分たちの言葉で伝えるようなコンテンツはマストだと思っていました

取材後に上川町の層雲峡温泉 氷瀑まつりへ 撮影:原田啓介

Anjiii 企業の広告ページはどうしても固くなりがちなところを、Huuuuさんが他の企画とトーンを合わせながら、やわらかく仕上げてくれました

だんご 僕たちは地方取材にもよく行くんですが、やっぱり現場が面白いんです。せっかくHuuuuに依頼してもらったからには、その面白さを当事者としてお二人にも味わって欲しい気持ちもありました

Sun 作り終わってみて、現場に自分で足を運んだからこそ、思い入れの深さも全然違う感じますね。コワーキングの方とも、直接お会いしていると、次に何か新しいことを一緒にやる際もきっとスムーズなはず。オンラインの時代だからこそ、オフラインでしか作れない世界ってありますね

マガジンはゴールではなく、届けるツールとして広げていくのが本来の目的だと、Sunさん。生まれたばかりの『pathports』が人から人へ、つながりを生んでいきます。イベント当日も、参加者同士が手に取ったマガジンから会話のきっかけを見つけ、いくつもの輪が広がっていく様子が見られました。

現在のパートナー拠点は55ヶ所(2024年7月時点)。最初の目標は、47都道府県のすべてに拠点を増やすことだそうです。

マガジンをきっかけにパートナーとなった新規の拠点もあるといい、今後広がっていく輪に期待が高まります。まだ手にとっていない方は、ぜひ拠点まで足を伸ばしてみてはいかがでしょうか。

執筆=mayu 撮影=荒田もも


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