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世界の中心で死骸を見て叫ぶ【オンガク猫団コラムvol.10】

去年の10月のある日、中学時代の同級生の女性が離婚した。以下便宜上、彼女のことを「ベテラン女性」と呼ぶことにしよう。一体何がベテランなのか?と、不思議な気もするけれど、恐らく何かがベテランなんだ、ということにしておきましょうか。

離婚する以前の「ベテラン女性(やはり長いので以下:ベテ女とします)」は、ちょっとしたイベントがある度、その様子をデジカメで撮っては、SNSで披露していた。人によってはそういうのをリア充と呼んで、少々ウザい写真という扱いで煙たがられるヤツですね。やれ梨もぎだ、メロン狩りだ、花火大会だ、海外旅行だ、という一見カラフルに見受けられるスナップ写真を、1ヶ月に一度くらいのペースでアップしていた。

ベテ女は、私生活も仕事も滞りなくこなし、順風満帆な日々を過ごしているんだ。オイラはそのように把握していた。それだけに、突然の離婚の報告は、かなりのインパクトがあったのだ。オイラは挙措を失い、面食らってしまった。経営状態良好な大企業が、巨額の負債をかかえて倒産するニュースを聞いた時のような衝撃に近い。さらに驚きだったのは、その離婚の報告を思い出のアルバムのような、例のSNSでしていたことだ。

ベテ女の「愚痴を訊いてくれよ~」という呼びかけに、オイラも含め同級生4人が反応し、年明け早々5人という小規模なユニットで、同窓会をやることになった。場所は、言い出しっぺのベテ女宅である。離婚を機に奮発して、マンションを買ったらしい。

こういった飲み会の常だが、初めはぎこちないが、アルコールがじわじわ効いてくるにつれ座が賑やかになる。話の接ぎ穂が失われそうになると、自ずと中学時代の話になる。

当時を振り返ると、苦い思い出ばかりだ。最近になってようやく色んなことがわかってきたんだが、どうやらオイラは、中学時代は軽度のADHDだったと確信している。それ故、中学時代のエキセントリックな奇行についての話に及ぶと、記憶が揮発していて、オイラは返答に窮してしまうことがあるのだ。

ただし、ひとつだけ例外的に強烈に憶えていることがある。それは「セミ事件」だ。ベテ女は、大のセミ嫌いで、夏頃になるとやたらとセミ嫌いをアピールしていた。あまりにもセミセミセミと喧しかったので、ひと泡吹かせてやろう、とオイラは何かいい方法がないかと、一計を案じていたのだ。そんなある日、セミとほぼ実物大の印刷物を発見する。

オイラは、その印刷物からハサミで正確にセミを切り抜き、ベテ女が油断した隙に、彼女の弁当箱の上にそっとそのセミを置いたのだ。案の定、昼食の時間になって、ベテ女は火がついたようにキャーキャー泣き叫び、大騒ぎになった。単なる悪ふざけだったのだが、さすがにこれはやり過ぎた、ということでオイラは猛省した、というのがセミ事件の真相だ。

確か二年前に同様のメンバーで同窓会をやったときにも、俎上に挙がったが、こないだの同窓会でもセミ事件の話題が出て、被告人であるオイラは責められた。それは仕方がないことだが、事件の一部が経年変化で改竄されてしまっているのだ。何故か、弁当箱の上に載せたのは、本物のセミの死骸ということになっている!

オイラは、あれは切り抜きの印刷物だった、と強く主張しても4対1で頑として受け付けない。要するに「あんときのアンタなら、絶対やってるでしょ」というのが心無い陪審員の見解である。

嫌がらせをしたことはホントに申し訳ないが、さすがに弁当箱にセミの死骸は置いたりはしないっすよ。それに何より、印刷物を切った記憶がとても鮮明にある。

単なるイタズラだったとしても、濡れ衣というのは、非常に気分が悪い。あっ、そういえば、セミは英語では「シッケイダ」と発音するんだった。確かに失敬な話だな。

オンガク猫団(挿絵:髙田 ナッツ)

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