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【連載】10倍成長物語⑪
11. 共感の力:クライアントとの深い繋がり
車椅子の少女、彩花は明るい笑顔で大志に話しかけてきた。「おじさん、私の絵本読んでくれる?」
大志は微笑んで答えた。「もちろん、喜んで」
絵本を読み聞かせる中で、大志は彩花の純粋な喜びと、彼女が抱える困難さの両方を感じ取った。読み終えた後、彩花は大志に言った。
「おじさん、ありがとう。私ね、大きくなったら絵本作家になりたいの。車椅子の子どもたちが主人公の絵本を作りたいんだ」
その言葉に、大志の心の奥底から何かが湧き上がってきた。誰かのために自分の力を最大限に発揮することの大切さを、彼は思い出したのだ。
その夜、大志はセージに相談した。
「セージ、彩花ちゃんのおかげで、俺は大切なことを思い出したんだ。誰かのために全力を尽くすこと、それが本当の成長につながるんだって」
セージは温かく答えた。「その通りだ、大志。他者のために自分の能力を活かすこと、それこそが10倍成長の本質だ」
その日から、大志は寝る間も惜しんで彩花のためのアプリ開発に没頭した。彼は自分の持てる知識とスキルを最大限に発揮し、目の前の仕事だけに集中できる環境を作り上げた。
しかし、彩花との交流を深める中で、大志は衝撃的な事実を知ることになる。
彩花の母親から、彩花には生命にかかわる病気があり、つい先日、医師から余命半年を宣告されていたのだ。
この事実を知った大志は、これまでの彩花との出会いを振り返った。そして、彩花が生きている間にアプリの開発を何としてもやり遂げると決意した。
本来なら何年もかかる不可能と言われるゴールだった。周りからは「絶対にできない」「無謀だ」と批判されたが、大志はそれらの声に耳も貸さず、絶対にやり遂げることを誓った。
しかし、自分一人ではとてもではないがやりきれないことを、大志がいちばんよく分かっていた。
セージは大志に提案した。「大志、これまでのように一人で何でもやろうとするのは止めよう。より多くのことをするのではなく、質を高め、他の誰かと協力して創り上げることが大切だ」
そう決意してから数日が経ち、大志は意外なところから、優秀なスタッフを見つけ出した。それは、プロジェクトで一緒に働いていた祐介だった。5歳年下の内気なプログラマーで、以前の大志と同じように人間関係が苦手だった祐介は、健太にろくでもない雑用ばかりを押し付けられていた。
大志は祐介のプログラミング能力を思い出した。彼が作成したプログラムは非常に画期的で、独創的な方法で作られていた。周りのスタッフからは使いづらいと非難されて作り直されたが、大志はすでに一目置いていたのだ。
「あの独創的なインターフェイスと、プログラマーとしての腕があれば間に合うかもしれない」大志は思った。
大志は祐介に連絡を取り、自分のプロジェクトへの参加を持ちかけた。
「祐介、君の力が必要なんだ。一緒に、彩花ちゃんのために絵本作成アプリを作らないか?」
祐介は驚いた様子で答えた。「大志さん...でも、僕には無理です。僕のプログラムは誰にも理解されないんです」
大志は真剣な表情で言った。「違う、祐介。君のプログラムは素晴らしい。ただ、誰も本当の価値に気づいていなかっただけだ。僕は君の能力を誰よりも信じている。そして、このプロジェクトには君の独創性が絶対に必要なんだ」
祐介の目に、小さな希望の光が宿った。「本当ですか?」
大志はうなずいた。「ああ、本当だ。一緒に、彩花ちゃんの夢を叶えよう」
こうして、大志と祐介の新たな挑戦が始まった。二人は互いの強みを活かし、昼夜を問わず開発に取り組んだ。大志のビジョンと祐介の技術力が融合し、アプリは驚くべき速さで形になっていった。
そして、彼らの努力は少しずつ実を結び始めた。アプリの試作版を使った彩花の目は、かつてないほどに輝いていた。
「おじさん、すごい!私、本当に絵本作家になれるかも!」
彩花の笑顔を見て、大志と祐介は心の底から喜びを分かち合った。
そして、彼は改めて気づいたのだ。10倍成長とは、単に自分の能力を高めることではない。誰かの人生を変える力を持つこと、そしてそのために全力を尽くすこと。それこそが、真の成長なのだと。
大志と祐介の挑戦は続く。彼らの前には、まだ多くの困難が待ち受けているだろう。しかし、彩花の笑顔と、互いの信頼関係が、彼らを支え続けるはずだ。
この新たな旅路で、大志は本当の意味での10倍成長を実現しようとしていた。それは、数字や成果だけでなく、人々の人生に真の変化をもたらす成長。大志の挑戦は、まだ始まったばかりだった。