アイスクリームと店長
今日、美容院に行った。
個人経営で、知らない人からしたら普通のお家。
髪の毛を切ってもらっている間に流れていたAMのラジオで、アイスクリームの話をしていた。
アイスを食べよう。
さっぱりした髪で、クーラーの効いた部屋で、私もアイスを食べよう。
大好きなチョコミントを買おう。
家に着く前に溶けないように、一番近くのコンビニに寄った。
レジには、店長が立っていた。
*
私は、高校生の頃から、そのコンビニを使っている。
バイトをしていたわけではない。
ただのお客さんだ。
駅で降りて、コンビニに寄って、家に帰る。
毎日じゃないけど、時たまそんなルートだった。
店長に初めて話しかけられたのがいつだったのか、私は覚えていない。
高校生だったか、大学生だったか。
それから、私の後ろに誰も並んでいない時だけ、話しかけられるようになった。
いろんな話をした。
天気の話。おすすめ商品の話。コンビニの話。
大学の話。専攻の話。進路の話。
店長の話。店長のお子さんの話。
いつも話すのは、長くてせいぜい1分か2分。
私も毎日コンビニに行くわけではないし、
だから話しても話しても、なかなか話は進まないし、絶対に深い話にはならない。
いつも最後は、
「ありがとうございました、またお願いします」
「ありがとうございます」
今考えれば、赤の他人に何を話してるんだと思うけど。
そんな関係が私は好きだった。
社会人になって電車を使わなくなり、私はそのコンビニに滅多に行かなくなった。
たまに行くことがあっても、違う人がレジに立っていたり、お客さんが多かったりして話すことはもうずっとなかった。
私の外見だって、少しずつ変わった。
1日にコンビニに来るお客さんの数は知らない。
けど、私が想像する以上なんだろうな。
所詮その中の1人だ。
もう、覚えてるはずがない。
*
「〇〇円になります…まだ〇〇(職場)で働いてるんですか?」
覚えてた。
すごくすごく嬉しかった。
別に大事な人でも、恋をしてる人でも何でもないのに。笑顔が素敵なだけの、白髪混じりのおじさんなのに。
今日、気づいた。
高校生から今まで、私の人生に何気なく店長はいて、私はあのコンビニで、店長と数分間、話をするのがすごく好きだったんだと。
コロナの後は、経営が厳しくなったのか、いつも店長がレジに立っていた。
黒髪だったはずの髪の毛にどんどん白髪が混じり出した。
私はあのコンビニに行けば、いつも無意識に店長を見ていた。
「覚えててくれたんですね」
「覚えてますよ」
嬉しくてつい長々と話しそうになる心を抑えて、いつも通り会話を終えてコンビニを出た。
家でアイスを食べながら思った。
久々に話したんだから、
どうせならもう少し話せばよかった。
また次も店長と話せるかな。
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