手紙が来た
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この小説は、1000文字程度の短編物語です。
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その日の朝も郵便ポストを開けた。
おじいちゃんのために、時代遅れの新聞を取りに行くのが僕の仕事だ。
中学生初めての夏休みは1週間も雨が続いていて、アジサイは今日も汗をかいている。
「夏休みのお小遣いには困らないで済むぞ」
僕の魂胆を見透かしているかのように、おじいちゃんからのお小遣いは空振りを続けている。
ポストを覗き込んで新聞をだし食卓に届ける。毎日がその繰り返しだと思っていたある日。1通の手紙を見つけた。
「ゆうたへ」と書かれている。
僕は折り目をつけて手を動かした。
***
○○市△△アベニール201
目的の住所につくと、古めかしい建物が目の前に現れた。
ひんやりとした手摺りを左手に感じながら一歩一歩踏み出してみる。
上りきった最初のドアの前に着くと、恐る恐るドアノブに手を伸ばした。
部屋は玄関からも見通せる程狭く、サッパリとした部屋に男が一人座り込んでいた。
「おじさん誰なの?僕になにか用?」
「俺はな、20年後のお前だ。少し話さないか?」
腹を決めて部屋に入ると、棚に写真が一枚飾られているのが目に入った。
近寄ってみると、幼い顔立ちの女性が赤ちゃんを抱えて幸せそうに笑っている。
「なぁ。人生ってのは自分の描いたようにはいかないもんだ。だから俺が大切なことを教えてやる。」
「うん」
「思い描いてる未来はあるか?」
「うーん。先生に聞かれるけど正直わからないや」
「そうだろうな。」
男は続けた。
「俺はな、いやお前なんだけど。これから何度もツライ目に遭うだろう。」
「うん。」
「社会からの風当たりに友人の裏切り、大好きな人との別れ・・・・・・でもな。少しだけ覚えておけ」
「なに?」
男は指をたてた。
「諦めないことだ。謙虚さを忘れるな。誰に対しても平等に接しろ」
「今の俺のようになりたくなければな」
最後は自虐的な笑みを浮かべた。
「諦めない。謙虚で平等?僕には少し難しいな。いつかわかる時がくるのかな?」
男は遠い目をしていた。
沈黙が部屋を覆った。
雨音は止んでおらず暗がりに包まれている。
「それだけだ。じいさんを大切にな」
「ねぇ。おじさんはもう諦めちゃったの?」
***
僕は部屋をでて歩を進めた。
おじいちゃんが心配をしているに違いない。
***
俺は壁にたててある写真立てを手に取った。
「諦めちゃったの?・・・言うじゃねぇか」
「もうおしまいだと決めつけていた。でも恥ずかしくない俺にならないとな」
男の目には精気が蘇っていた
(994文字)
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