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ご縁の無かった腕時計。
昔、近所の建物が建て直しになることがあって、もともとあった建物が無くなった後、少しの間、そこでフリーマーケットのようなものが行われていました。
夕方、食材の買い出しに行くついでに、ちょっと覗いてみるのが楽しかったのを覚えています。
簡易で作られたテントのような作りで、そこには、洋服から小物から食器や置物など何でもアリという感じで、その雑多な感じがまたちょっとした宝探しみたいな気持ちにさせてくれてワクワクしたりもしていました。
そんな中、ある時、ある腕時計が目に入り見ていると、店員さんが話しかけてきて、その腕時計について話をしてきてくれました。
その時計は男性用で、ドイツかスイスあたりのものだったと思うのですがシンプルでしっかりした作りのものでした。ベルトが本革で良い味も出していたんですね。
私はシンプルなものがもともと好きで、自分好みだったというのもあったのと、お値段がかなり安くて(確か1万しなかった記憶が……)それならと購入しました。
そこから仕事で使うのにちょうど良いと思い、出張などでも使っていたのですが……。
ある時、撮影のための出張があり、あるお宿の温泉を撮影するという時に、腕時計が湿気でやられてはいけないと思い脱衣所に置いて撮影をしていたのですが。。。
撮影が終わり、帰りの車の中で、自分がその腕時計をしていないことに気づいたのです。急いで戻ったのですが、もう腕時計はどこにもなく。
多分、買ってから1ケ月も経たないうちの出来事で、なんというか、夢のような感覚になっていました。
本当にあの腕時計は自分の手元にあったのだろうか……?
そうして思ったのは、
私とはご縁が無かったんだな……。
というもの。
不思議なもので、物って、どんなに自分が好きでも、手に付かない物ってあったりするんですよね。
そういう時はいつもこの腕時計のことを思い出して、
「あぁ、そうか、自分と縁が無いものもあるんだな。」
と、なんというか寂しい気持ちというよりは、どこか清々しい気持ちになったりします。
それでも、一度出会って、腕時計をつけた自分を楽しみ、あの本革の感触を肌で感じて、そんな時間だけは忘れない想い出になっている気もしています。
……ふと思い出したので書いてみました。
物との出会いは、時に人との出会いと同じくらい不思議なことってあるのかも知れないですね。