自作脚本『万人のための芸術なんぞ』
作曲家「絵とか文章なら良かったのかなあ。」
小説家「あ?」
作曲家「この間オンゲでさあ、オンラインゲームやってんだけど、それでフレンドってか、たまに一緒に遊んでくれるプレイヤーがいるんだよ。」
画家「オンラインゲーム?怖くないですか?」
作曲家「まあたまにやばい奴いるけど、たまにね。そういう奴は一緒に遊ばないようにしてるし、もしもマッチングしてもブロックしてる。」
画家「へえー。」
作曲家「でさあ、その、よく遊んでくれるプレイヤーはすごく優しくて、チャットしかしたことないけど。現実で会うどころか声も知らないけどさ。それでもたまにするチャットが楽しくて、なんならそのためにゲームしてるまである。」
小説家「ふうん。」
作曲家「でもこの間、その子と遊んでるときに僕が、このエリアのBGM良いですよねって言ったの。曲のことも語っちゃってさ。」
画家「あはは。想像できますね。」
作曲家「そしたらその子、耳が聞こえないんだと。」
小説家「おお。」
作曲家「ゲーム終わった後にDMが来てさ。すごく謝られて。でも悪いことじゃないから、こっちこそごめんなさいって謝って。」
画家「誰も悪く無いですからねえ。」
作曲家「それでさ、顔も知らんやつにプライベートなこと教えてくれたから、こっちも嘘はつかない方がいいなって思って、音楽関連の仕事してますって言ったんだよ。」
画家「ええ?いいんですか?」
作曲家「フレンドにも言われた。いいんですか?って。すげえ驚かれたさ。その後また謝られたけど、謝らなくていいって。どうにかやり過ごしたよ。」
小説家「ほう。やり過ごせたのか。」
作曲家「でもさー、その時思っちゃったんだよねー。まあそのゲームはグラフィック綺麗だし世界観も良いから、音楽が無くても楽しめるのよ。じゃあさ、それでも音楽がある理由はなんだろう。」
画家「それは、難しいですね。貴方がこの中では一番詳しいのでは?」
作曲家「知識だけだったらねー!」
小説家「音楽がないと寂しいからだろ。」
作曲家「耳の聞こえない人は寂しい?」
小説家「んな訳あるか。ちげえよ。どんな音が流れているか想像するだけでもいいもんさ。」
作曲家「想像ねえ。確かにねえ。そのフレンドの頭の中で美しい曲が流れてるのを願ってる。」
画家「素敵ですね。」
作曲家「でもなー!」
小説家「なんだよ、だる絡み。」
作曲家「絵だったらさあ、その人見えるわけじゃん?」
画家「んー、でも、俺らも、目が見えない人たちにどう観てもらうか考えるので。」
作曲家「そうなると小説が有利。目が見えなくても耳が聞こえなくても、朗読も点字もあるし。」
小説家「朗読は読み手、語り手によって小説の印象が変わるから、本のイメージよりも朗読のイメージになることがある。あと点字の本はすくねえよ。最近増えたけど。俺の本は1冊も点字じゃない。」
画家「難しいですよね。見る人を選んでいるわけじゃないけど、気づいたら切り捨ててしまっていることがあります。」
作曲家「でも見る人はいて、それが必要な人はいるじゃん。」
小説家「そりゃあな。」
作曲家「てことはつまり、芸術は誰のためにあるんだろう。」
画家「大きく出ましたね。」
小説家「答えの無い疑問だな。」
作曲家「いやいや、答えは一つだけあるよ。」
小説家「ほおー。」
作曲家「全ての人が絵も音楽も小説も見るのは無理!そんで全ての人が褒めてくれるのもあり得ない!それだけは決まってるんだ。」
小説家「簡単なことだが真理だな。」