自作脚本《そういうところだよ》
森川…画家
泉 …画家
泉 「俺モテないんですかね?」
森川「は?」
泉 「やっぱり絵ばっか描いてるからですかね。」
森川「分かってんじゃねえか。」
泉 「あー、やっぱり、そこですか。」
森川「何だよモテたいのか?」
泉 「いや、なんというか、その、お恥ずかしい話、俺人と付き合ったことないんですよ。」
森川「だろうな。」
泉 「あれ?話しました?」
森川「お前が誰かと付き合ってるって聞いたことねえもん。」
泉 「そりゃそうですよね。」
森川「で、モテたいのかよ。」
泉 「モテたいというか、危機感ですかね。この歳で誰とも付き合ったことないって、なかなかじゃないですか?」
森川「まあ……。でも今はそういう奴だって結構いるだろ。」
泉 「そうですかあ?丸井くんなんてあんなにモテてるじゃないですか。」
森川「あいつは人懐っこいからその気にさせるのが上手いだけだろ。それにすぐフラれるじゃねえの。」
泉 「何でですかね?あんな良い子なのに。」
森川「絵しか興味ねえからだよ。」
泉 「まあ丸井くんは絵に取り憑かれてますからね。」
森川「それお前が言う?」
泉 「え?」
森川「え?泉もだろうが。」
泉 「俺もですか?まあ、そうなのかなあ。」
森川「泉から絵を取ったら何が残るんだよ。」
泉 「……何でしょうね。」
森川「何も残んねえんだよ。」
泉 「ひどくないですか?」
森川「無理無理。お前に人を愛するのは無理。絵にどっぷりだもんよ。」
泉 「いやー、それって芸術家としてどうなのかなって。経験?人生の。それで絵にも厚みがでるのかなって。」
森川「絵のために付き合わされる人がかわいそうだね。」
泉 「ちゃんとその時は愛せますよ。」
森川「その発言がアウトだよ。」
泉 「うっそぉ。」
森川「まずは人のことをもう少し知ってからだな。」
泉 「結構友達いますよ。」
森川「全員画家か画廊だろ。」
泉 「そうですね。」
森川「あいつらの好きなもんとか趣味とか知ってるか?例えば古鳥とか。」
泉 「古鳥さんはもちろん知ってますよ。フランツ・マルクが好きで、趣味は青い馬探し。」
森川「あと旅行な。」
泉 「そうなんですか?」
森川「よくヨーロッパ行ってるじゃん。」
泉 「へえ。」
森川「知らねえじゃん。」
泉 「旅行の話しないんで。」
森川「絵の話しかしてないんだろ。」
泉 「そうですね。」
森川「そういうところだよ。」
泉 「良いじゃないですか。絵の話しかすることないんですもん。俺それ以外に話すことないし。」
森川「だから恋人ができねえわけだ。」
泉 「うーん。」
森川「まあ安心しろ。お前は絵と付き合う運命なんだよ。美術と付き合え。」
泉 「それ安藤さんにも言われましたよ。もう絵画と付き合ってるじゃねえかよって。」
森川「あー、言いそう。」
泉 「ひどくないですか?」
森川「安藤と同感だ。」
泉 「そうですか?」
森川「自覚なしかよ。」
泉 「自覚はありますよ。僕には絵しかないですから。」
森川「そういうところだよ。」
泉 「絵ばっか描いてるから、束縛もしませんし、浮気もしません
。」
森川「それ以前に絵以上に愛さないだろ。」
泉 「ああ……。」
森川「ほーら。」
泉 「絵ごと俺を愛してほしいですね。」
森川「でもお前からの愛情はもらえないんだろ?」
泉 「もらえますよ。」
森川「美術の次にだろ。」
泉 「そりゃ、まあ、仕方ないですね。」
森川「そういうところだよ。」