《自作詩》欲しかったもの
《欲しかったもの》
作 小西里
失った後に気づくとは
なんと愚かなことだろう
「元気になったら奢ってください」
「元気になったら買って欲しいものがあります」
「元気になったら」
「元気になったら」
友に会い真実を知った
求めたものは金で買えた
ねだったものを偶然見つけた
たらればは人が扱えない凶器だった
ずっと手紙を出し続けた
今も便箋は残っている
ポストカードは今日も買った
最期は手紙を読める状態ではなかったと
気付いていたが書くのを止めなかった
止められなかった
どうしても伝えたいことがある
それでも会いに行くことは出来ず
否
会いに行こうとしなかったのだ
手紙を書く手が止まると思ったから
全てが終わってしまうと思ったから
失う前にも気づいていた
愚かな振りをし続けた
おちゃらけた手紙は一体何の役に立ったのだろう
読まれなくなった手紙は何の意味があったのだろう
それでも書くことは止めなかった
言葉は武器だ
研ぎ澄まされ
洗練され
美しくも残虐な武器
何人傷つけたかなど分からない
私は詩人だ
言葉で人を殺さなければならない
だが一方でどうしようもなく
言葉は薬にもなるのだと今でも信じている
薬になりたかった
「元気になったら」
ゲンキニナッタラ?
人を追い詰める言葉を振るい続けていたと気づいた
薬ではなく毒を盛っていた
失った後に気づくのだ
なんと愚かな!
本を手にする
ねだったもの
ずっと欲しかった
そして語りたかった
あなたとこの本について
失った後に本を手にする
語らう相手は誰もいない
一人ライブラリーに佇む
ああ涙が出る
本棚を涙の海で沈めようか
やっと泣けた
やっと気付いた
失ったんだと
あなたはもういないのだと
こんなに哀しいなら
愚かなままでよかったのに