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2021ロステレコム杯と友野一希

男子ショートプログラムは1日目冒頭に始まった。競技開始前の6分間練習をぼんやり観ていた。そのなかでひとり、明るい足捌きでリンクを推進していく白いジャージが目を引いた。友野一希である。

現在23歳であり、フィギュアスケーターとしての試練も越えてきたのだろう。だが、葛藤の末の決意という悲壮なものではなく、何だか吹っ切れていてワクワクしている感じが少し見て取れた。

ショートプログラム「ニューシネマパラダイス」

イタリア杯以上に素晴らしかった。繊細なピアノから始まり、情感溢れるヴァイオリンが描くメロディに機敏にかつ柔らかく反応しながら楽曲とスケーティングが響き合い、アリーナを包む感動の度合いが深まっていった。得点は95.81で、第1位の座についた。

フリースケーティング「ラ・ラ・ランド」

洗練されたメドレーがアップダウンの表情を変えるのに応じて、緩急自在にこだまする滑りに見入ってしまう。機敏なナンバーが始まったとたんに観客もすかさず手拍子をし、最後はキラキラと演技を弾けさせた。得点は168.38であった。

そして表彰台に乗った。技術面での取りこぼしが残念だった合計得点264.19の第3位であった。

エキシビジョン「Bills」

初っ端から笑わせにくる。世界を股にかけるはずの商社マンが、黒縁メガネを直しながら不思議そうにロシアの地に降り立った。競技で見せた緻密な表現力が突き抜けコメディに化けた。しかもトリプルアクセルまで跳ぶ。遊びすぎくらいがちょうどいい。

表彰台は嬉しくても順位には悔しさを滲ませた。それはもう彼なりの目的と目標が明確であることの現れであろう。

その目的とは「技術面と芸術面の両方でバラエティ豊かに観客を最高に楽しませること」で、そのために何をすべきか具体的な目標に落とし込み、日々鍛錬しているに違いない。