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2021ロステレコム杯と田中刑事

一世代上の異性からこのような言葉で評されるのは失礼に当たるのかもしれないが言わずにはいられない。田中刑事はグラマラスであると。

素材と裁断ともに隙のない衣装でもなお浮かび上がる艶を前にしては「セクシー」という甘さが残る形容はもろくも崩れ去る。

それでいて公私ともに認める映画とアニメオタクだという。

一見すると対極なグラマラスとオタク。しかしそこに共通するのは己の愛する対象に貪欲であることではないだろうか。

ショートプログラム:映画『シン・エヴァンゲリオン劇場版』より paris

彼は言う。「僕がファンです。作品を表現するには2分半では足りない。あの曲調をどう表現するかを目標に滑っています」

私もオタクではあるがゲームに特化しているためアニメには疎い。「エヴァンゲリオン」も名前と世間の評判くらいしか知らない。ただ、壮大で混み入った物語という認識はしている。

2分半、よくまとめ上げたと思う。複雑に爆ぜるリズムと孤独なギターのリフレインが織りなす楽曲はブレードが広くリンクに軌道を描くのが難しいようだが、彼は巧みに両者の重なりを縫うようにして音の流れに呼応していった。

自らの趣味に正直な曲へ乗せられた解放感は、観ているこちらの精神も伸び伸びとさせてくれる。純粋に楽しい。エヴァにも興味が湧いてきた。

フリースケーティング:映画『セッション』より
Whiplash、Caravan

また彼は言う。「フリーはジャズの曲なので、自分がしっかりその曲に溶け込めるように、音楽とセッションできるようにフリーは滑っています」

私の第一印象はこのプログラムだった。

リンクに飛び立つ前が写った。白いサスペンダーが目に入り、若い成人男性で様になる人がいたのかと度肝を抜かれた。そこに接続されているくびれがわかるハイウエストのパンツで田中刑事という個体識別が完了した。あとはjazzyな演技に目を凝らすばかりだった。

高らかに流れるトランペットと小刻みなドラムが滑りの緩急を煽ってゆく。その中でジャンプだけでなくアドリブのような仕草やしなりを入れている余裕に驚く。

クライマックスはまさにフィギュアスケートの域を超えた「セッション」のステップとスピン。もしライブ会場であったなら最前列で揺れながら聴いて我を忘れたい。

同時に、大人による芸術はいくら観客を熱狂させても我に返ったあとが清々しくて良い。また安心してその非日常を待ち遠しくさせる。

田中刑事のプログラムを観るにつけ、自分のアニメと映画のサウンドトラックに関する見聞も広がるので、今後もますます己の道を爆進していっていただきたいと思う。

オタクならまだいくらでも蓄えはあるはずである。