【感想】Until Then(ネタバレ注意)
Until Thenの世界がどのように構築されたか、を考えるメモ。 ネタバレ(explicit spoiler)を遠慮会釈無しに詰め込んだ感想文の羅列です。ネタバレこそが本ゲームの重要な価値であるため、Until Thenを最後までクリアした人以外は、本エントリーを閲覧しないでください。
素晴らしいゲームを開発・販売し、日本語にも対応してくださったPolychroma Games社の利益のためにも、よろしくお願いします。
※一応、他の類似作品に関しては明確には言及していない、つまり他ゲームのネタバレには触れていないことは書いておきます
Until Then 公式Webページ
https://untilthengame.com/
ストーリーの全体構成
※本エントリーでは、ゲーム中に繰り返される世界を、主人公マークとニコールが本来生きている現実世界と区別するため「別世界」と書いています。悪しからずご承知おきください。
本ゲーム「Until Then」は全3部構成。1部は主人公であるマークとニコールが、形而上の存在(恐らくは、天に召された)であるマリアとジェイクによって誘われた世界の始まり、2部でその「別世界」の連続性と変化に彼らが気が付き深堀りを始め、3部で謎を解き明かし、世界が壊れていき、ループを繰り返していた張本人達であるマリアとジェイクが悟り、納得し、見届けたことで役目を終えた「別世界」が消失することで、マークとニコールがそれぞれ、本来の現実世界に帰る。1~3部はそうした、形而上のマリア+ジェイクによって制御された彼らのタイムリープのうち何回かを描写している。
Until Thenの「世界」
「別世界」は、マリア&ジェイクによって作られた、マーク&ニコールのための、本来は存在しえないIfの世界。「リアムソン統合学校(LIS)に通うマークがクラスメートの才女ルイーズに発表レポートの件で詰められる日」である、2014/11/14(金)が繰り返しの開始地点となっていて、終了時点は、マリアやジェイクのさじ加減で任意にリセットされていた。必ずしも学校のプロム(プロムナード=舞踏会)イベント近辺がループ終端とは決まっていない。が、マーク曰くキャシーの死を何回も見たということなので、実質はそこ=キャシーが両親に無理やりプロムから帰され、反発して失踪後、死亡または行方不明……がリセットポイントになっていたのかも知れない。
あらゆる選択肢を検討して繰り返し、枝葉のように都度違う関係性を経て結末に至るという意味では、いわゆるセカイ系と呼ばれるタイプのお話とも言え、繰り返すことでマーク、ニコールが成長し、その代償として世界が壊れ、最後には強く成長し旅立つ(結果として主の願い叶う)という点では、箱庭的なループもののお話と言えるかも知れない
この世界の特徴として、「マリアとジェイクの世界が、ニコールの弾いた曲が縁となり結び付いて出来ている」という点にある。本来なら各々、マリアはマークを、ジェイクはニコールを見守る世界だったのかも知れないが、偶然か必然か、2つの関係が結び付いた、あるいはマークとニコールが強い結び付きを獲得するに至った。だからマークとニコールだけは何度世界がリスタートしても記憶を引き継いだし、お互いの事を覚えていた。ひょっとしたら、マークとニコールはこういう、いつでも2人が出会う仮想世界に”滞在”しなかったら、途中で挫折し、心のダークデーモンの餌食になっていたかも知れない。この2人が手を取り合って「別世界」を駆け抜けていけたのも、お互いにお互いを見通すことで己を振り返り、前に進めるようになったのも、ニコールに曲のアイディアを提供したジェイクと、演奏を覚えていて曲をマークに伝えていたマリアのおかげと言えるだろう
「別世界」では”ルイーズ・レポート・クライシス”の日である2014/11/14(金)から、プロムが開催された2015/03月までがよくフォーカスされるが、実際はその後まで時が進み、場合によってはマーク、ニコール達が大人になるまで進行することもあるようだ。しかし「別世界」はマリア達が管理人である虚構の世界であり、マリア&ジェイクが結末を見届けたあと、最後にはリセットされる
「別世界」のリセットが発動すると、その時のマーク、ニコールの経験に応じてスタート地点である2014/11/14(金)以前の記憶や環境も更新されていく。ゲーム開始時点ではまだ怠惰な反逆生徒だったマークは、3部ではルイーズ並とは言わないが優秀な生徒に変身を遂げ、華麗にショパンの「幻想即興曲」を弾いていた
元々はマリアやジェイクが、マークやニコールがもう、現実世界に送り返しても大丈夫と思えるまで「別世界」をループさせるつもりだったんだと思われるが、いくらループを回してもマークはキャシーを救えず、ニコールはジェイクのことを忘れられず、結局数百回ループが続いた
「別世界」に突入する直前の本来の世界は、各々以下の状況だったことが、マーク&ニコールの抱える後悔と、エピローグの描写から伺われる
マーク:マリアが航空機事故で行方不明になり、同時にキャシーも行方不明になったとリデルに知らされた、2013/10の土砂降りの雨の夜
ニコール:過去に拘泥するあまり、ケイトと分かり合えず見限られた日(昼過ぎか、夕方?日時不明)
「別世界」は現実のように人々がフィリピンの地で営む箱庭であり、その創造主であるマリア&ジェイクは「リセットする」以外の介入は出来なかったものと思われ、毎度の結末をただ見守っていたのだと推測される
1部の概要:2人にまだ、特に何もブレイクスルーのない時に導かれたストーリー。マークは父パオロと同様、母マリアの死を受け入れられず、親友であるキャシー、リデルにも告げられずにいた。LISの転校生としてやってきたニコールと親しくなるが、ニコールの抱える心のわだかまり=過去に固執するあまり未来を見通せない に対処出来ず、自分自身の未練を断腸の思いで断ち切る決断をすることとなる。1部のエンディングとしては、結果が残酷(キャシーがトラックに轢かれて死亡)であるがため、以後、マークが躍起になって親友である彼女を助けようともがくことになった。1部エピローグで、キャシーがCD-Rに残した録音をマークが見つけるシーンがあり、その時点で初めてマークは、キャシーが家庭環境に悩み、抜け出そうともがいていたことを知る
2部の概要:1部の結末をぼんやり覚えているマークが違和感を覚え、その違和感の正体を突き止めようとする回。ループを繰り返すたび、「別世界」に登場する人物の関係性が変わっていき、混沌(カオス)、世界の崩壊に近づいていくことになる。この時点ではルイーズもマーク&ニコールと同様に「世界」の異変に気がついている描写がされているが、ルイーズは超常現象に興味があり研究願望があったというだけで、「別世界」のキャストの1人に過ぎないことが後に明らかにされる。彼女の超常現象に関する知識は、3部におけるマーク&ニコールの行動の助けとなる。マークもニコールも2人で前に進もう、と決意を新たにするが、キャシーの失踪(進行中の「別世界」からのリタイヤ?他の世界への転移?)は止められず、ルイーズは地震に巻き込まれ死亡してしまう。かつてニコールが陥っていた「過去に拘泥し前に進めなくなる」に今度はマークが陥り、ニコールはかつての自分と、母親の諭しの言葉を思い浮かべ、絶望して去っていくのだった(ここで恐らくはマリアによるリセット、3部へ)
3部の概要:「別世界」の時間軸のループの繰り返しによる状況の悪化と混沌が明確に発生し、マークとニコールを混乱させることになる。混沌自体は1部の時点で発生していたが、3部の段階では、ホットスポットでマークとニコールが目を合わせただけで、世界の主であるマリアやジェイクの意思とは無関係に、「別世界」にリセットがかかるようになってしまった。これをホットスポットで実行することを「世界をもとに戻す鍵」と誤解したマーク&ニコールが繰り返してしまったことで、マリア&ジェイクの作り上げた世界は崩壊し、しまいにはマークとニコールの記憶だけが相互に交差する暗黒空間と化してしまった。と同時に、マークとニコールが各々抱えていた後悔と向き合う機会となったことで2人はそれを克服し、元の世界に戻っても大丈夫と判断したマリアとジェイクは、長い長いループを終わらせることを決断した。こうして「別世界」は役目を終え、2人は消失した世界での記憶を失い、元の世界での時間を進め始めた。MCRトリオは改めて絆を確認しあい、ニコールはケイトとの友情を再構築し、それぞれの道を進むこととなった
3部エピローグ
概要:
マーク目線の2013/10の、元の世界の再開部分から。母とキャシーが同時に行方不明になり絶望していたマークだが、「別世界」で自身の後悔と向き合った結果、何が何でもキャシーを失うまいと駆け回り、本来失ったであろうキャシーを見つけ、親友の絆を新たにすることに成功した。(失敗パターンは2部と3部に部分的に描写されている)マークとニコールは知り合う機会も縁もなく各々の道を進み、大人になりそれぞれ他で知り合った異性といざ交際せん、とデートに出かけた、その目的地は偶然、”運命のカフェ”という名前の喫茶店で、お互い面識のないまま同じ場所の隣のテーブルに居合わせることになった。(Tadhana=タガログ語で、「運命」を意味する)
《以下、プレイ中1度のみ描写》
マークは後日、母マリアの墓地に父と向かい、父はマリアの墓標に「凄い出会いがあった」と報告したのであった(タイトル画面が墓標に変わり、ゲーム終了)
結局マークはニコールと再会し、カップリングを愛するプレイヤーにとってのハッピーエンドを迎えられたのか?:
不明。パオロの「凄い出会い」という表現、また、墓地にその、マークの彼女が姿を見せていない(誰なのか未確定)ことから、”運命のカフェ”で何があったか描写されていない以上は、マークとニコールがどうなったか、また2人が「別世界」の記憶の何かを共有することがあったのか、は読者の判断に委ねられている
「別世界」でマークとニコールが色々克服しなかったら結局どうなったのか?:
マークについては、「別世界」2部5章で、ぼんやりと結末が描かれている。キャシーが見つかったかどうかは描写されていないが、いずれの結果だったにせよ、少なくともリデルとの関係には亀裂が入り、お互いに心を開けなくなったであろうMCRトリオは終了したものと推測する。マークは母とキャシー、リデルを思いながらずっと後悔を重ね、反発していた手前、今更母さんが恋しいとも言えず失意の日々を怠惰に過ごしたものと思われる。ニコールは、ケイトの忠告をもとにするなら、ずっと過去に囚われ続け、ジェイクの行方を追って人間関係、特にケイトが何を思いやっていたかを理解出来ずに、ピアノを弾くこともなく、自分自身の時間を進められず、何か困難にぶち当たる度に逃避し、割と孤独に過ごすことにはなったろうと思われる。
「裁定」(The Ruling)
「裁定」とは、恐らくキリスト教の用語で……筆者は宗教に疎いので詳しくはないが、恐らく”神のお導き”くらいの意味合いで使われているのではなかろうか。
このゲームの「別世界」において、”全世界的に同時多発した大規模災害”と称した、「裁定」という事象が起きているが、これが現実世界、つまり戻った先の世界でも起きていたのか? 自分の解釈では、答えはNo。「裁定」を、マルチバースの衝突によって生じた、ルイーズが言うところの”波動津波”と仮定するなら、それはおとぎ話がポンポン生まれる「別世界」側の話であって、現実世界では地震や津波こそあれど、世界規模の超大規模災害なんて起こり得ない、と考えるのがスムーズなんではなかろうか
本来交わることのなかったマークとニコールの世界(あるいは、マリアとジェイクの形而上の世界)が、ニコールの演奏した曲によって結びついた、あるいは衝突したことで世界が重なり、「裁定」となって「別世界」を襲ったというトンデモ理論をぶち上げることも一応可能。そうした場合は、随分と物騒な結びつき(ルイーズの言うところの、もつれ)だなぁという感想になる
「別世界」で起きたという「裁定」は、「別世界」のマリアの乗ったP-111航空機の行方不明が発覚した2014/02/11の直後の02/12に起きている。「別世界」のこの日付でマルチバース同士の衝突が起こったと解釈できるが、航空機事故発生の日時が現実世界と不一致になっている理由は不明のままで、ゲーム中にヒントとなる描写は筆者には見付けられていない
現実世界で「裁定」は無かったとした場合、ニコールもケイトも地元パグアーサから、マーク達の住むボニファシオに引っ越すことは無かったであろう。乗り物で何時間も先の遠方在住のマーク達と知り合う機会は、そもそも無かったということになる
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