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20250224の夢/町内水泳大会
町の生活道路が沈み込んで、そこがベネチアの運河のようになる日、町内の水泳大会が開かれる。
ぼくは世話人として運営に携わっていて、サップのボードくらいある大きなビート板にのってコースを巡回し、参加者に危険がないか見てまわる。
「プールサイド」はそのまま住宅に接していて、植木や牛乳の宅配ボックスなんかが置いてあったりするから、倒して流したり沈めたりしないように注意もしなきゃいけない。
つぎの部にきみが出るから、ぼくは気が気じゃない。
きみが危ない目に遭わないか心配なのはもちろんだけど、それ以上に、きみの肌をひとの目に晒すことがいやすぎて、ぼくはこんな大会早く終われと呪う。
ぼくはビート板を漕ぎ、コース全体を見渡すふりをしながら、極力きみのそばを離れないように気をつける。
きみは泳ぎが得意じゃないから、なにかあったらすぐにビート板に引き上げようと思っていた。
でも、大会前に「きつくなったらすぐに言えよ」って言ったら、「ううん、さいごまで泳ぎたいから、ふらんはなにもしないで」と釘を刺された。
そう言われたんじゃ見守るしかないじゃないか……とは、思わない。
きみにだけ過保護なぼくは、なにかあったらすぐにきみの願いを打ち砕いてしまうだろう。
とか思っていると、モーターの唸る音が聞こえてぼくのすぐ脇を水上用原付バイクが突っ走っていく。波が立ち、ビート板が大きく揺られる。
(あっぶねぇな……!!)
すり抜けて行った水上バイクは、近隣の工業高校が自作したポンコツで、それを女子部の生徒が運転している。一人乗りのバイクの後ろにロープでビート板を牽引し、そこにもうひとりが乗るって危なっかしい代物だった。
この日は、うちの町内だけじゃなく、よその学校なども水泳大会を行なうのが慣例だったから、運河は泳ぐひと、監視するひと、待機するひと、ひと、ひと、ひとでごったがえしている。
後方に、さっきのとおんなじタイプの水上原付がもう一台ブンブンいわしてるのが見える。アイツが来たらもっと危ない。
波にもまれてたぼくは、やっと体勢を立て直し、あわててきみの姿をさがす。
視界にはない。
(まずい、見失った)と焦るきもちを抑えながら、コースの先へとビート板を進める。
きみはすでに泳ぎきっていて、運河からあがり、濡れた髪とからだから水を滴らせていた。
まだすぐには上がれないぼくは、きみの名を呼び、うちの前で待ってるように伝える。
ようやく仕事をおえてうちへ戻ると、玄関の前に突っ立っているきみを見つける。きみはパーカーをはおり、バスタオルを頭からかぶってくれていて、ぼくはよかったと思う。それできみの肌がひとに見られずにすむから。
その日ぼくのうちは、ぼくみたいな町内の世話人の詰所になっていたから、中から「悪い」おとなが入れ替り立ち替り出てきては、きみにからむ。
「こういうのすきでしょ」ってゴムのかたまりみたいなでっかく育った爬虫類をもってきて触らせてくるのを、きみは黙って触ってあげる。
つぎに出てきたやつは「いいもんあげる」と言いながら、脚の長い小さな蜘蛛をきみの両手いっぱいに載せてきて、驚いたきみはそれを払いのける。まだ指に引っかかってるのを振り払おうと両手をふりふりさせるきみをみて、みんなが笑う。
でも、きみはほんとうに驚いたりいやがったりしてるわけじゃない。きみを囲んでいる輪のなかに、きみがほのかに思いをよせているおんなのこがいて、そのこをこわがらせないためにそうしてることを、ぼくはわかっている。
きみにすきな異性がいるということはふしぎといやじゃない。同性がきみに近寄ろうとするのはぜったいに許せなかったけれど、異性なら許せたし、なんならふたりが付き合っても構わないと思えた。それなら素直に負けを認められるからかもしれなかった。
ぼくはいまきみに不用意にからまないようにしてようと思い、離れた場所でタバコに火をつける。
フーッと煙を吐いてると、そんなに親しくもない後輩がヘラヘラ笑いながら寄ってきて、「それ○○○入ってます?」ときいてくる。○○○っていうのはよくないクスリの名前だから、ぼくは、「あ? わかってきいてるなら失礼だろ」と睨みをきかす。
それで後輩はちょっと気圧され、「あ、さーせ〜ん……」ってフェードアウトぎみに謝りながら逃げていく。
自販機に備えつけてあるゴミ箱が、空き缶・ペットボトル以外のゴミで溢れかえっている。イベントがあるときはきまってこうなるから、ゴミは持って帰らせたいと考えていたのに伝えるのを忘れていた、と思い出す。
そう思いながらぼくは吸い終わったタバコをひとんちの塀で揉み消し、花壇のブロックの空いた穴に捨てた。
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