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デザイン史(概論)#06 近代デザインの源流(5)アメリカ・シェーカー派の家具に見られるモダン・デザイン


はじめに(毎度の挨拶)

大学での講義をまとめて不定期に少しずつ記事にしていっています。
専門的になりすぎず、なるべく平素にわかりやすくなるよう、努めていきます。
しかしボリュームがあるため、いつ終わるかわかりません。(汗)
書いているうちに、授業では言えなかかったことも盛り込めることに気づいたので、ゆるゆる進めていきます。
単独でも読めて、小分けにして、読みやすくなるようにしようかなと思います。

前回の記事

こちらの記事は、下の記事の続きになってますが単独で読んでもいただけます。

モダン・デザインの外見的特徴

さて、前回の記事でgoogle検索した結果の上位の写真をモダン・デザインとした場合を例にしてそのデザインの特徴を形容してみると、
シンプルである、すっきりしている、色が抑えられている、装飾が少ない、シャープ、、などの単語が思い浮かびました。
これは確かにモダン・デザインの特徴を捉えたものだと思います。
そしてこれは現代に生み出されたデザインではないと言いました。
西欧で市民階級(市民意識)が台頭してきた社会背景についても少し触れました。

シェーカー派とは何か?

シェーカー派 もしくは シェーカー家具 という名前を聞いたことがありますか。
シェーカー派とはアメリカに18世紀の中頃から生活していたキリスト教の共同体(宗派)です。

ハンコックのシェーカー村 Round Stone Barn, Hancock Shaker Village, Massachusetts, 2004, P.D.

元々はイギリスのマンチェスターで1747年に起こったそうです。
語源は、シェイク(shake)シェイクする、そう、揺らすこと・・・第二のキリストが出現すると信じた人々の祈りの恍惚の中で”揺れや震え”が起こったことから来ているそうです。
この宗派の人々は本国イギリスで迫害され、彼らが第二のキリストと信じたスピリチュアルリーダーである「アン・リー」と8人の信者とともにアメリカへ新境地を求めて旅立ちました。彼らの信条は、独身・共同生活・罪の告白、男女平等、秩序、調和、自然への愛、均一さ・・・など。
それを聞いてどのような生活を想像しますか?

1840年代のシェーカーの踊り P.D.

おそらくそれは非常に質素で禁欲的であったろうと思います。

このような信者らがその共同体の生活で自身で作り出し使っていたのが、シェーカースタイルの生活道具なのです。

もう、どんなスタイルなのか、なんとなく想像できるでしょう。

シェーカー・スタイル

では実際どんな様子だったか、見てみましょう。
アメリカではかつてシェーカー派が暮らしていたところは博物館として今でも見学できるところが多々あるようです。今回の写真はその中から・・

Carl Wycoff/Flickr.com/CC 
https://www.flickr.com/photos/carlwwycoff/4065812497/in/photostream/
環境 https://www.flickr.com/photos/carlwwycoff/4065234608/in/photostream/lightbox/

写真のクレジットがわからないものが多く、たくさん載せられませんでしたが、興味のある方は、ぜひ shaker furniture で画像検索してみてください。どんなデザインコードなのか、視覚的に鍛えてみてください。また、その検索画像には、今現在世界中でこのスタイルの家具が作られ、売られていることがわかると思います。

そして、当時の教団のなんとも、美しい場所でのシンプルな暮らしでしょうか。

共同生活では、持ち物も共同のものでした。そして家具も自分たちで製作していました。共有のものなので、移動しやすく作らねばなりません。ゆえに運ぶという観点からも、必然的に簡素で軽量なものとなりました。簡素とはいえ、細部は気の利いたものになっていて、シンプルさと適度な装飾性はありますね。全体的には細く軽く、優雅な印象さえあり、かなり洗練されたデザインだと言えます。そして、外見と機能が結びついているということも重要な点だと思います。

機能主義理論

シェーカー派の指導原理には、「美」というものが常に意識されていました。
先にあげた信条にある、秩序、規則性、調和は美しい。そして、合理性に基づいたもの、実用価値を含むものは優れた美しさを有すると。

最初にモダン・デザインの特徴を簡単に形容してみたものとかなり似ているのではないでしょうか。しかしシェーカー派がこれらのデザインをデザイン原理を生み出したのは、18世紀中頃でした。

20世紀になり、モダニズムとのちに言われる潮流がはっきりとしてきます。そして、建築では、インターナショナルスタイルと呼ばれる白く四角く装飾のない機能主義建築が出現しました。ここで、20世紀の三大巨匠(および四大巨匠)の一人にも数えられる、フランク・ロイド・ライトの師匠に当たるルイス・サリヴァンの言葉を思い起こしましょう:

「形態は機能に従う」

この言葉はあまりにも有名です。
このような機能主義理論は、モダニズムの典型的な一面として語られます。しかしシェーカー派はそれに100年ほども先駆けてこの原理とデザインを彼らの生活の中に、実際に適用しました。

ここで重要なのは、シェーカー派の場合、産業革命という産業構造の一大変化から生じた、つまり機械による大量生産のための経済性・合理性から生じた装飾の排除 という面からではなく、政治的・宗教的な倫理的面からこのような考え方と美の原理(デザイン)が生じたということです。

そのことが、今日のデザインにも引き継がれている、ということです。

シェーカー派のデザインは、特に、アメリカの芸術・デザイン分野においてかなり重要な位置を占めています。

ちょっと宗教的・芸術的背景を。

少し美術史的な視点に寄って、宗教的背景を知ると、もっと理解が深まるので、少し触れておきますね。ご興味ある人は。

そもそもなぜ、反カトリックが市民的なものであったか、そして、結果として反装飾的、であったか。それはプロテスタントの誕生について知る必要があります。

北ヨーロッパのキリスト教では、16世紀にマルティン・ルターやジャン・カルヴァン(カルヴァン派)によってローマ・カトリックへの反発から宗教改革が行われました。この勢力を、”抗議、反体制” などを意味する protest からプロテスタントと呼ばれます。同時期、イギリスでも反カトリックの独自の宗派が現れ、イギリス国教会と呼ばれます。どちらも反カトリックという意味では同じなのですが、後者の動機が政治的なものだったために、結局カトリックと同じような運営形態を持つことになり、それに対して不満を持つ人々がいました。そのような人々は、大陸のプロテスタントの在り方に共感していました。このような人々を、清教徒(ピューリタン)と呼びます。(中学生くらいで習う?)
シェーカー派は、このピューリタン的精神を多分に持っているグループです。

ヨーロッパ世界では、古代ローマの終わり頃から中世を通じてキリスト教(カトリック)は絶大な権力を持って時代の中心を担ってきました。その時代、全ての芸術がカトリックの名の下にあったことを思えば、芸術は宗教と切っても切れない関係だとわかります。建築も然りです。
教会制度は人々の暮らしの全てに浸透していました。出生届、結婚、死亡まで。今の市役所のような役割でもあったわけです。そのような社会ではキリスト教からの破門や離脱は、社会的な死を意味していました。
その頂点であるローマ・カトリック(今のバチカン市国ですね)はその隆盛を極め、政治も腐敗していきます。市民の立場として、その腐敗した政治に意を唱えたのが、ルターだと言っていいと思います。

それまで聖書はラテン語で書かれていたので、一般庶民は読むことができませんでした。しかしルターはそれをドイツ語に訳し出版しました。これにより、一般庶民も中身を知ることができるようになります。そして、聖書に書いてあることにより忠実に原点へ戻ろう!という反カトリック=プロテスタントが生まれるわけです。
実は、ユダヤ教、イスラム教、キリスト教は兄弟の宗教で、共通して、基本的には、「偶像禁止」なのです。その代わりに神聖幾何学などがあるわけですが、キリスト教では原則として、キリスト等の聖人の像(これらをイコンと言います)を直接描いてはいけない。
しかし、文盲の人にとっては、文字ではわからない。そこでカトリックではステンドグラスや壁画、モザイクなどを通じて、物語を絵にして伝えていた。
しかし、これは長い間、枝分かれしたビザンツとの対立要因にもなっていました。
この時代、プロテスタントでは聖書の原点に戻るということで、同様にイコンを禁止しているわけです。
この宗教改革により、信者をたくさん失い収入が激減したカトリックは、信者を増やすため、世界中に使者を出し布教活動を行います。(これが日本では戦国時代、来たのがザビエルだったのですね。)
そして、カトリックは作戦会議を重ねた結果、芸術を用いるという逆の戦略に出ます。別の手段として、「芸術」を活用すること。もともと芸術はローマ・カトリックの領分です。ますます感覚に訴え、ドラマティックなストーリーを表現した芸術作品を通して、キリストの物語を伝える ということ。それがバロック芸術だったわけです。バロックがあのような感性に訴える表現であるのは、ひとつには、そういった背景もあったのです。

このようなローマ・カトリックの性質とその芸術のあり方を踏まえて、プロテスタントを見てみてください。そこにはどのような芸術が生まれるのか、具体的にいうとどのような人々がどのような形態を支持するか。

なるほど、と思いませんか。

小出しのつもりが、今日はちょっと最後は長くぐだぐだ書きましたが、お許しを。


参考:https://hancockshakervillage.org/shakers/history/


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