時価
聞いたところによると、回らない寿司屋には時価という価格設定があるらしい。私は魚介類が食べられないので寿司屋に行くことはない。だから、これは一種の都市伝説と思っていた。
だが、ある時東日本橋にある問屋街に化粧品の買い付けに行った時、帰りに見かけた中華料理店のサンプルに時価という文字を見かけて本当にあるんだと思った。
例えば私が石油王の妻でいくらでもカネを使える立場だったら時価でも躊躇なく注文できるだろう。しかし、世帯収入が1,000万円程度だったらビビる。10万円くらいかと思って注文したら800万円請求されたらその年は200万円で生活をしないといけない。
そういえば、落語にもあった。題名は忘れたが泥棒が料理屋に入ってカネを盗むのだが、主人は泥棒にとって盗むのは仕事だからといっておとなしくカネを差し出す。多分50両だったと思う。いい気になった泥棒は何か食わせろと言い、鯉を調理して食べさせるが、これは料理人にとっては仕事なのでタダで食べさせるわけにはいかないと50両を請求する。随分高いじゃないかと言うと、この時期の鯉は滅多に市場に出ないので時価だと言う。
泥棒も石川五右衛門の子分の石川四右衛門とか、ねずみ小僧の子分、いたち小僧といった小物ではなく大物だったので黙って50両を置いて帰るという噺だったと思う。
私もいつかは時価の物を買える身分になりたい。しかしその道は遠い。