東京競馬場 一般乗馬会

私が初めて馬に乗ったのは、23歳ころだ。
東京から特急に乗って2時間近くかかる高級乗馬クラブで厩務員として働き始めた。
そのクラブは世界的な映画監督や有名な司会者など、雲の上の存在がメンバーに名を連ねていた。

私の仕事は朝の5時に起きて騎乗訓練。その後馬房の掃除80頭分。飼い付け、水飼い、馬装整備、顧客のご機嫌取りなどだ。これが夜の10時まで続く。日給は3,500円。3食が提供され先輩インストラクターと同じ部屋で暮らすことになった。

騎乗訓練は1日3回。私は職業として馬に乗った。騎乗技術は特に習ったわけではない。乗っているうちに習得した。
しかし、夕方の騎乗訓練の時、大きな落馬事故を起こし、馬乗りとしての生活の道が絶たれた。クラブからは何の補償もなく追い出され、東京に戻った。

その頃、人づてに東京競馬場の乗馬センターでメンバーを募集していることを知る。本来は地元住民のために行われているサービスだったが、ちょうど定員に満たなかったので入会させてもらった。
東京競馬場の乗馬センターは4コーナーの近くにある。通称日吉ヶ丘。ここでは誘導馬や練習用の元競走馬、展示用の小型の馬などが繋養されている。
厩舎の右端には、ここのボスであるメジロファントムがいた。彼は気高く、人を寄せ付けない。私は何度も蹴られそうになったし、噛まれたことがある。

一般乗馬会の会費は月に800円だったと思う。厩舎作業をして、騎乗する。だから、普通のサラリーマンはここでは乗ることが出来ない。自由業か自営業、そして主婦が多かった。
指導は軍隊式のスパルタだった。JRAの職員から怒鳴られて馬に乗った。また、全馬競走上がりの馬で去勢されていないので気性が荒い。乗るには苦労した。
騎乗技術は一から徹底的に直された。今まで、いかに自己流で乗っていたかがよくわかった。そして独学で騎乗技術を身につけた私より、正式に習った全くの初心者の方が上達が早かった。私は独自に身につけた癖を矯正するのにかなりの時間がかかった。やはり、独学は害である。

馬乗りは性格が悪い。ここにも、そんな人がたくさんいた。いじめや人の足を引っ張る人が多かった。特にご婦人方。カースト制度があった。馬乗りが性格が悪いことはよく知っていたが、ここは特にひどかった。そういえば、千葉県にあるウエスタン専門の乗馬クラブはオーナーが差別主義者で、ここで何度か騎乗経験がある私はひどく幻滅した。

この乗馬センターで一通りの騎乗技術を身につけたあと、自由を求めてセンターを辞めた。ここで訓練を受けたおかげで少々のことでは落馬しないバランス感覚が身についた。
これ以降は九十九里での海岸を疾走したり、富士山の麓の林道を走り回る馬乗りになった。

今では体重の増加で馬に乗ることが出来ない。うつ病の薬の影響だ。でも、また馬に乗って野山や海岸を走り回りたいという欲求を持っている。

そういえば、私を補償もなく追い出した乗馬クラブはその後たくさんの訴訟を抱え倒産した。驕れる者はなんとやら。

※このようなJRAが運営している乗馬施設は各競馬場、美浦トレーニングセンター、栗東トレーニングセンター、馬事公苑などにある。会員募集はJRAホームページに掲載される。
小学5年生から高校3年生のためには乗馬スポーツ少年団がある。これは主に土曜日に午後と日曜日に活動している。この中から有名な騎手も多く生まれている。興味のある方はJRAのホームページを定期的にチェックして欲しい。ただし、現在は新型病原菌で活動を休止しているとのこと。

JRAホームページ
http://www.jra.go.jp

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