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ラストシーン
人生のラストシーンが目前に迫ってきた。
そうなると、若い頃を思い出す。アメリカで私は大人になった。
決して楽しいことばかりではなかったアメリカでの一人暮らし。
でも、間違いなく輝いていた。
あの時、すべてを捨てて日本を離れなければ今の私はなかった。
1985年の8月、六本木交差点で青信号になるのを待っているときに友達が何気なく言った「海外で一人暮らしができたら自信になるだろうね」はまさに真実だった。
病気との闘いであった80年代だが、バブルの頂点に向かって経済が伸びていて社会は元気で明るかった。私自身はバブルの恩恵は受けられなかったが、それでも楽しい時代だった。
そして迎えるバブル崩壊。日本はすべてを失い、2020年の現在に至ってもほぼ回復していない。
高卒で社会に出て辛酸を舐めた私は38歳で大学に入り42歳で大卒資格を得た。人生が変わった。
40代は一旦は寛解(全快ではないが日常生活は送れる状態)した病気が再発して布団が親友になった。
ネコとの二人暮らしを始めたのは50代になってから。
長男はチャーニング・チャーニャという茶トラ。でも、彼とは長く暮らせなかった。
次男はライカ。私の子供になって3年になる。この広い世界で私にだけ心を開いてくれる。
夢が叶ってタワーマンションでの生活が始まったのが今年の3月。いいことばかりではない巨大集合住宅での生活。
今は病気と闘いながら細々と作品を作る日々。いつまで続けられるかわからない。
いろいろあった人生だが、そこそこ楽しかった気がする。人間は辛かった記憶を消去する機能がある。それに救われている。
人生のラストシーンはどんな舞台が用意されているのだろう? おそらく、たぶん、きっと私は死んで人生という物語を終えるような気がする。痛いだろうか? 苦しいだろうか? 出来れば楽に幕を下ろしたい。