環境分析フレームワーク「5つの力分析」の本質
はじめまして、中小企業診断士の粟国隆と申します。企業内診断士ですが、FW研究会の皆さまと一緒に日々診断士としてのレベルアップに努めています。今回はフレームワークを活用した環境分析について、お話させていただきます。
1.環境分析
企業は、環境変化に対応するため、経営戦略を立案し、成長を志向しますが、その経営戦略を立案する際にまず最初に行うのが、環境分析です。
環境分析は、外部環境分析をまず先に行い、その後、それに対応していくための内部環境分析を行います。
経営戦略立案の大きな目的の一つは、環境変化をいち早く察知し、それに対処していくことですから、その変化を捉えるための外部環境分析がより重視されます。
外部環境は、原則として一企業ではコントロールできませんので、それにどう対応するかを考える必要があります。その対応策を内部環境分析を踏まえて具体的戦略として落とし込んでいくのです。
外部環境は、マクロ環境とミクロ環境に分かれます。マクロ環境とは全ての業種の企業が影響を受けるであろう外部環境のことです。
そしてミクロ環境とは、その企業が属する業界の環境分析となります。その代表的な分析手法として、「5つの力分析(5Forces分析)」があります。今回は、この「5つの力分析」について、その考え方をお伝えしたいと思います。
2.「5つの力分析」とは
【5つの力分析(5Forces分析)】のフレームワーク
業界分析の際に用いる代表的な「5つの力分析」は、その本質があまり理解されていない分析フレームワークの一つだと思います。
「5つの力分析」は、マイケル・ポーター教授の著書『競争の戦略』で広く学会やビジネス界に知れ渡ったものです。
「5つの力分析」は業界分析ですから、まず、その業界をどう定義するかが、重要となります。いわゆる「事業ドメイン」の定義です。それによって、5つの力のプレイヤーの捉え方が変わるからです。アメリカの鉄道会社が自社のドメインを「鉄道事業」と定義していたために、同じ鉄道会社しかライバルと認識できず、航空輸送やトラック輸送に「輸送」ニーズを奪われ、衰退したというのは有名な話です。
「5の力分析」は、その業界に関係する5つの力が自社に与える影響の大きさを検討し、その業界の魅力度を測るものですが、基本的にその魅力度は、「利益」で測ります。つまり、「5つの力分析」とは、それぞれの5つの力のプレイヤーによる「利益のぶん取り合戦」の分析ということになります。
横軸の「供給業者(売り手)」はコスト(原材料費など)に関係し、「買い手」は、売上に関係します。そして、「既存企業」は、競争によりパイ(利益)を奪い合う相手となります。
縦軸の「新規参入」と「代替品」も、競争によりパイ(利益)を奪い合う相手です。
そして、この「5つの力分析」では、自社の「利益」をより圧迫する方向に働くものを「力が強い」と考えます。つまり、それぞれのプレイヤーの力が強ければ、「利益」獲得の難易度が上がり、業界の魅力度が下がることになります。
横軸は当該業界の人が比較的コントロールできますが、縦軸は原則としてコントロールが難しい領域です。
「5つの力分析」を行うにあたっては、5つの力のプレイヤー毎に、ファクトを整理し、そのランク付け(力の強さを大、中、小などで表す)を行います。
その際のポイントは、時間軸を明確にすることです。いつの時点(過去・現在・未来のどの時点か)の力関係の分析かを明確にして、それがどう変化したのか、どう変化するのかを考えることが重要です。
そして、それぞれのプレイヤーの力を把握した上で、自社としてどうすべきかを考えることがこの分析の価値を決めます。つまり、この力関係をどう変化させるか、それぞれのプレイヤーの力をどう弱めていくかを考えるのです。
自社に「差別化」要素がないと、価格競争に陥り、「利益」を圧迫する方向に力が強く働いてしまいます。これがまさに、この「5つの力分析」の根本理論となります。自社の力関係が弱い場合、多くは、「差別化」できていないのが原因となります。
3.「5つの力分析」のポイント
「5つの力分析」のポイントをまとめると以下のとおりです。
4.「5つの力分析」の本質
なぜポーターはこの「5つの力分析」を考えたのでしょうか。それは、完全競争状態では、いずれ企業の利益は失われてしまうという問題意識にあります。
ポーターは、「独占状態」が最も儲かると考えました。そのような状況をどう作るかということが、ポーターの競争戦略の基本的テーマとなっています。
ポーターは、独占状態を作るには、差別化が必要だと考えていました。そして、それを考えるための基本的フレームワークとして、「5つ力の分析」を思い付いたのです。
ポーターの競争戦略論の基本は「差別化」にあります。したがって、「5つ力分析」が、業界の魅力度を「利益」の獲得のしやすさによって測るフレームワークという認識はその通りですが、この分析の本来の目的は、これらのプレイヤーを相手に、自社で差別化を図り、独占状態を作れるか、ということの検討にあり、そこにこの「5つの力分析」の本質があります。
自社の経営資源を踏まえ、差別化が図れるのであれば、それは自社にとって魅力的な業界ですし、それが難しく、競争に巻き込まれることが想定されるのであれば、それは自社にとって魅力的でない業界となります。
フレームワークの活用で陥りがちな落とし穴は、そのフレームの穴埋めで終わってしまうことです。そのフレームワークの本質を理解し、そこからどのような示唆を得て、どう対応するかが重要になります。「5つの力分析」においては「差別化」というキーワードをしっかり押さえる必要があります。