【香水メモ】Cacharel EDEN
「エデン」という言葉は、それだけで多くの人の興味を惹きつけ、想像を掻き立てる。その証拠に、創作のタイトルやモチーフとして古今東西数えきれないほど登場してきた。CacharelのEDENもその内の1つだろう。エデン、つまり楽園の香り…気にならないわけがない。
EDENをプッシュしたならば、文字通り1日中その香りと付き合うことになる。それほど強く拡散する、濃厚な香りだと思う。
トップ:ピーチ、ベルガモット、マンダリンオレンジ、レモン
ミドル:ミモザ、ウォーターリリー、チュベローズ、メロン、ロータス、パイナップル、ジャスミン、リリーオブザバレー、ローズ
ベース:パチョリ、サンダルウッド、ブラックロカスト、シダー、トンカビーン
※Fragranticaより
ムエットで試してみると、続くミドルやベースに比べて明るい幕開けだったことにちょっと驚き。たくさんのフルーツが実っている。糖度の高いオレンジやとろっとしたピーチ、レモンやベルガモットの柑橘類。ベースの痺れるような苦さのパチョリが効いているおかげでクラシックな印象だ。しかしすぐに、いずれのフルーツも収穫期を少し過ぎたような熟れた濃厚さに変わり、フレッシュさよりも翳りを感じさせる。ピーチなどはもうじき、べしゃっと地面に落ちてしまうかもしれない。とても不思議なのだが、このあたりから香りが言いようのない哀しさを帯びてくる。
20~30分もたつと、花々が咲き乱れる。チュベローズの白い花の主張と、甘酸っぱいパイナップルを特に感じる。最初からいるパチョリはじっとその場を動かない。よく実った果実と一面に広がる草花、ノートだけに注目すればまさしく陽光の射す楽園に思えるが、なぜかじめっとしている。私はこのミドルノートを、いつも「雨だ」と思う。空は分厚く憂鬱な曇天だ。メロンやロータスなどのアクアティックな要素がそう思わせるのだろうか。でもはっきりとしたことは言えない。人間に管理されることを知らない草木は恵みの雨により生い茂り、渾然一体となって香りの判別がつかなくなっていく。そんな自然の移ろいを横目に、私は疎外感を味わう。香りが、涙を堪えている時のようなツーンと差す感覚を誘発する。哀しみが1日中離れてくれない。EDENを纏うと、そんな気持ちで過ごすことになる。
CacharelのEDENは、楽園を表した香りだが哀しみが全体を覆っている。私は、楽園は楽園でも「楽園追放」の香りだと解釈した。マザッチオの名画「楽園追放」の、今にも泣き声が聞こえてきそうなエヴァの表情を想起させる。切ない気分になるので、誰かと会う時にこの香りをつけたことはない。家族の前でも使わないようにしている。一方で、1人の時に自分と向き合ったり、孤独を味わうのには向いているかもしれない。でも、使うのはたまにでいい。哀しみを意識し続けて生きていくのはしんどいから。常にそこにあるとしても。