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「イハナシの魔女」が渡名喜島とコラボするに至った経緯

はじめに

「イハナシの魔女」はラブコメxファンタジーの王道ビジュアルノベルである。
選択肢やゲームパートもなく一本道の話を読み進めるだけのストイックさを売りにしている。
あえてトリッキーな点を挙げるとすれば、沖縄の離島を舞台にした点だろうか。

そんなイハナシの魔女は、リリース当初は聖地のことを意識していなかった。
作中に登場する島は非実在の場所として設定していたし、何より島では伝統と因習によるアレやらコレやらが起こるので、実名で舞台を設定したら、むしろ怒られると思っていた。

「うちの島で因習によるアレやらコレやらをするとは何事だ!」

しかし、いざリリースしてみると事態は思わぬ方向へ転がっていく。
本稿の目的は、その経緯を記すと共に聖地とのコラボのための留意点などクリエイターが押さえておきたい点を記すことだ。


はじまりは一本のメール

リリースから二年ほど経った2024年夏。
一本のメールが来た。

同人サークルFragaria
担当者 さま

初めまして、私、渡名喜村役場経済課のXXXと申します。
観光振興に従事している折、先日渡名喜島に来島された方から
本作品の聖地巡礼をしていることをお聞きして私もswitch版を
ダウンロードして遊ばせていただきましたが…

結論、めちゃくちゃ面白かったです!

ノベルアドベンチャーゲームは初めてでしたが、
物語を進めていいくほど、時間を忘れて夢中になって
プレイしている自分がいました。笑
(略)

なんと渡名喜島村役場より感想メールをいただいた。
大変ありがたい話だ。同時に少し怖かった。

「うちの島で因習によるアレやらコレやらをするとは何事だ!」

と次のメールで言われるかもしれないとヒヤヒヤした。
(そんなことはなかった)

経緯はメールの冒頭に記された通りだ。
イハナシの魔女をプレイしてくださった誰かが、背景グラフィックから現実世界の島を特定し、実際に足を運んだ。
そして、現地で村役場の方と接触し、イハナシの魔女が話題に上った……。

まさに奇跡の始まりだった。


コラボへ

村役場のご担当者とは何度かやり取りを繰り返した。
感想の話にとどまらず、何か一緒にできないかという話題も出た。
手始めに「SNSに掲載して良いか」と尋ねてみたところご了承いただいた。

更に「イハナシの魔女を応援したい」とのお話をいただき、なぜか都合の良い方向ばかりに話が進む。
具体的な施策としてSNSでの連携やノベルティの配布が決まった。

ノベルティの配布

SNS連携

渡名喜島 Facebookトップページ 
※本連携に関してはKEMCO社に協力をいただいている

これらはすべて「イハナシの魔女」サイドとしては願ってもない話である。
「聖地とのコラボがもたらす話題性」は大きく、ゲームをリリースしたわけでもないのにXの閲覧数が増えた。

ゲーム開発者にとって継続的な話題の提供は頭を抱える課題の一つだと思う。
開発が進まなければ発信できる情報は増えないし、一度リリースしたら、もう言うことはないからだ。

企業だと展示会やコラボカフェなど、揺るぎない資金力で様々なイベントを生み出すが、インディーズの場合、よほど強いパブリッシャーが広告費を投入しない限り実現しない。
個人? 無理だ。カネがない。
そう考えると、聖地とのコラボは恵みの雨でしかない。


何がミラクルを生んだのか?

改めて渡名喜島とイハナシの魔女のコラボを振り返ると、運の要素が大部分を占めていた。
冒頭でも触れたが、当初は聖地を意識した制作をしていなかった。
それでも、拾ってもらえたのはコラボする上での最低限の条件を偶然満たしていたからだと思う。
その条件とは、

現地の風景を忠実に再現する

登場する地名は実名であっても架空のものであっても構わない。
ただし、風景は忠実でなければならない。
全く同じ風景がなければ、そこに行く意味がないからだ。

全年齢コンテンツにする

地域とのコラボは当然、公的機関とのお付き合いになる。
公的機関が使いづらい内容(過度な暴力・性的要素)はNGとなる。
ただし、因習によるアレやらコレやらは許される。

適切な場所を選ぶ

「イハナシの魔女」が秩父を舞台にしても聖地コラボは実現しなかっただろう。秩父は有名タイトルの聖地をいくつも抱え、市役所観光課も忙しいに違いないからだ。
渡名喜島は偶然にも舞台として使用した作品がなかった(たぶん)。
「イハナシの魔女」は第一号の栄誉を棚からぼた餅でいただいた格好となる。狙ったわけではないので、ここは本当に運が良かった。

いい話にする

意味がわからない? でも、これが一番重要だと思う。
なぜなら、普通に考えて有名コンテンツでもない作品を公的機関が推すメリットは薄いからだ。
有名だから人が集まるのであり、有名だから予算に対して効果が得られるのだ。
「イハナシの魔女」は残念ながら知名度で大きい遅れを取っている。
にも関わらず、渡名喜島との縁があったのは、少なからず作品の内容に共感いただいたからだと思う。
というか、それ以外に理由は思いつかない。


終わりに

同人ノベルゲームに聖地を作る。
意味ある? と思った奴。気持ちはわかる。そして、大体正しい。
だが、何事にも例外はあり、偉大なる先行事例だってある。

出典:「ひぐらしのなく頃に」と白川郷

これくらいパワーがあると、因習によるアレやらコレやらどころか、殺人やエッチコンテンツが混じっていてもコラボできる。
結局はコンテンツ力(身も蓋もない)。

何にしても夢のある話だし、あわよくば次も……、と思うのは罪深き人のサガだ。
運良くコラボに至った経緯を記したが、要所を押さえることで、やはり再現性は高められることだと思う。
本稿に目を通した皆様の参考になれば幸いである。

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