町山氏への反論・米の山上マンジョーネの少子化対策はズレていない
文春2025年新年特大号は、中居正広氏とフジテレビによる「第2の松本人志問題」とも言える女性をお歳暮のように献上する胸糞悪いスクープで話題だが、ここで文春の人気連載コラム、町山智浩氏の「言霊USA」について言及してみたい。
私はこのコラムの長年のファンで、好きになったきっかけは「アメリカ人の半分はニューヨークの場所を知らない」だった。かなり売れた本だし、私の他にもこの本がきっかけで町山さんを知ったり好きになった人も多いと思う。これは本当に面白い本だった。当時アメリカの政治の裏側をこんなにサブカル的な視点で書いてる人はいなかった。ほとんどがお硬いアメリカの政治や経済の本ばかりだった。しかも週刊文春の読み切りのコラムの総集編なので、一つ一つの話題は短文でまとめられており非常に読みやすい。
アメリカの政治の下世話な裏話ではあるが、そこには本音と本質がよく表れていて、真面目な評論だけでは理解できなかった日本から見ると不思議なアメリカの現象も「そういう事だったのか!」と大いに納得する事が出来た。
しかしそのコラムに今回は敢えて反論しようと思う。
今回町山氏が取り上げたのは日本のニュースでも伝えられた暗殺テロ事件の犯人ルイジ・マンジョーネについてだ。
26歳ゴルフリゾート会社の御曹司で細マッチョのイケメンでペンシルヴァニア大学のコンピューター・サイエンスの修士号持ち。家柄・顔・頭脳・ムキムキのパーフェクトで、町山氏はコラム内で「出木杉くん」と称している。
彼が殺害した相手はアメリカ最大の保険会社ユナイテッド・ヘルスケアのCEOブライアン・トンプソン50歳。ロックフェラーのクリスマスツリーの前で背中を撃たれて殺された。
現場には「Delay(遅延)・Deny(拒否)・Depose(解任)」とそれぞれ書かれた空薬莢が残されていた。
現場近くのスターバックスの防犯カメラの映像からルイジ・マンジョーネが割り出された。
なんとも映画のような事件で、映画好きならあの完璧なシナリオのホラーミステリー映画、「セブン」を思い出さずにはいられない。
さて、ここでFPっぽく保険の解説をしようと思うが、アメリカは日本のように公的な医療保険というものが歴史的にずっとなかった。全て実費負担で、怪我や病気で病院で手術や入院をしたりすると巨額な請求を受けていた。
先進国の中でそのような国は他になく、さすがに近年アメリカでもオバマ大統領あたりから問題視されはじめ、オバマケアの一環として「メディケイド」と呼ばれる公的医療保険制度が導入され始めた。しかしこれも「皆保険」とは程遠く、入れるのは貧困層のみで加入率も現時点で2割程にしか満たない。その他のほとんどの国民は掛け金の高い民間医療保険に加入せざるを得ない。日本やイギリスのような国民医療保険制度とは大きく違っている。
さらに問題なのはそのように高額な掛け金を支払っているのにも関わらず、いざ病気や怪我をして保険会社に請求すると、様々な理由をつけて「不払い」の結果を出すという悪徳な商法が横行してるというのだ。それも大手保険会社によってである。その悪徳大手の一つが今回のユナイテッド・ヘルスケアだったのだ。
殺害されたCEOの年収は1020万ドル(15億円)。インフレで家計が苦しい中、仕方なく高額な保険料を毎月納めているアメリカ国民は保険会社を憎んでいる。当然だろう。アメリカ保険業界は現在公的な福祉も市場の原理も働いていない。ロビー活動によりガッツリ守られた市場とそれに都合がいい福祉があるだけだ。その犠牲になっているのはアメリカ人の命だ。その証拠にGDP世界1位のアメリカの平均寿命はとんでもなく短い。
2023年のアメリカの平均寿命は78歳で世界40位。日本は84歳で世界1位。上の図で分かる通り、アメリカの平均寿命の低さはずーっとで、コロナでも下がったのは確かだがその前から経済大国とは思えない平均寿命だった。
FPが読むような保険のレポートでもずっと指摘されていた原因はやはり保険の不備だった。
さて、そんなアメリカ人の命を喰い物にして利益を上げていた保険会社に、「良くぞ正義の鉄槌を下してくれた」と溜飲を下げた国民が多くいたとしても全く不思議はない。その証拠にコラムで町山氏はユナイテッド・ヘルスケアの追悼の公式フェイスブックに3万5000件の笑い絵文字と2200件の悲しい絵文字が集まった事を記した。
私は殺人やテロを擁護するつもりは全くないが、今回のSNSでのアメリカ人の反応はなんの不思議もないと思う。
山上徹也の件とどうしても比べてしまうが、殺人は許されない行為ではあるが、結果的にこの事件によって政治とカルト宗教の巨大な癒着が暴かれ是正されたのは確かだ。
本来ならジャーナリストや新聞記者、学者や言論人が行わなければならなかった事を、権威も影響力も持たない孤独な男が変わりに実行するにはこれしかなかった。
私は権威や影響力を持つ側の町山氏が今回「出木杉くん」と揶揄し、最後の1行で「ズレてるよ!」などと冷笑する姿勢に、嫌悪感を感じざるを得ない。
お前らがサボるからだろ!
としか思えないのだ。
コラム内で取り上げたマンジョーネ氏による日本への少子化対策への提言も私は完璧だと思う。
「移民に頼るのではなく人間関係と身体的精神的健康を促進し、テンガやAVではなくコミュニケーションを復活させる。メイドカフェのような偏った男女の関係を止めて、日本の伝統文化の神道や空手や温泉を活性化させよう」
素晴らしい。完璧な提言ではないか。
我々日本人は欧米から無理やり輸入した文化により多くのものを失った。精神的健康を奪われ向精神薬に体を蝕まれ、孤独を無料ポルノで癒やしている。
それらを止めて、日本の自然に祈り、身体を鍛錬し、裸で温泉に浸かろう。そうすれば自然と日本人同士の交流と愛から子どもが産まれるよ。
何が間違っているのだろう?どこが「ちょっとズレてるよ!」なのか。
死者を冒涜する事への批判なら町山氏はそれを行う権利は自ら放棄したはずだ。
いや、そのことについては私は批判するつもりはない。「死んだらご破算」があまりに行き過ぎるきらいが日本にはあり、そこを批判する点には私も共感するのだ。
死体蹴りはもちろん良くないが、だからと言って亡くなった瞬間からどんな悪行も無かった事にする以上に「聖人」扱いする日本の論調は事実を歪めるし、被害者がいた場合にそちらの人たちの名誉や人権が毀損されてしまう。
今回の犯人は山上徹也のような持たざる者ではないので、既得権として批判したのかもしれないが、行われた犯行はどう見ても最大既得権を攻撃するものだ。彼自身が持ってるか持ってないかだけで判断して攻撃する行為はただの妬みとなってしまわないか?
しかももう町山氏は十分に成功者でありこのような持てる者を羨む理由もない。
持たざる者の承認を集めるためだけの彼への批判は、町山氏が攻撃するトランプ氏と全く同じ手法だ。
作家にとって承認は本の売り上げでありお金だ。
お金集めになりふり構わず矛盾した文章を垂れ流すなら、それはもうトランプやマスクやユナイテッド・ヘルスケアと同じ「そっち側の人間」だ。