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16歳からの能動経済②

「夢を持つのも大事だけど、どんな分野だって学歴が大事よ?物書きならなおさら。芸人さんでさえ最近は大学出でしょう?」

 そんな事を言ってるママが大学を出て、今何をしてるかって、ただの専業主婦だ。有名大学出たって、夢なんか叶えてない。
 そんな事をもし口に出したら、ママは傷ついて、泣きながらこんなセリフを言うに違いない。
「子どもの為に今まで頑張ってきたのに情けない」

 友達と話す話題はアニメやアイドルの話。深刻な話はタブー。「変なヤツ」のレッテル貼られちゃう。
 でも本当はアニメなんか興味ないから倍速で観てるし、軽薄そうなアイドルにも男としての魅力なんか感じたことはない。
 本当はいつも純文学や思想書を読んで、人生について考えたり、自分なりに小説を書いてみたりしてる。
 友達の前では出せないけど、本当の私は物事を深く考える事が大好きだ。
 将来作家になりたいと、思い切ってママに話したらさっきのセリフが返ってきた。

 私もどうせこのまま無難な大学に行って、無難な男と結婚して、子どもが生まれて忙しいと言ってるうちに中年になって、読むことも書くことも考える事もしなくなってしまうのだろう。今自己主張出来ない私が、大学を出てから急に言いたいことを言える大人になっているわけがない。
 もうきっと、今のうちに考える事なんかやめにして、化粧のやり方でも練習したほうがいいんだわ。 

 学校の帰り道、涙が出たら負けな気がして、私は通り沿いの百貨店に入った。
 化粧品売り場で有名ブランドのテスターの口紅をグイッと口に引いて、それをポケットに入れた。
 店から出た瞬間、店員に手首を後ろから捕まれた。
「一緒に来てください」

 

「ちょっと、ど、どこまで行くの?あなた本当にうちの高校の先生?」
 私はハアハアと息切れをしながら、楠丸とか言う自称教師に思い切って話しかけた。
 デパートを出てからかれこれ30分は歩き続けている。
 ペタンコ靴の私でさえクタクタなのに、このオバサンは5センチはあろうかと思われるピンヒールだ。疲れないのだろうか?不気味に思えてきて恐怖が沸き起こる。まさか、誘拐犯?

「誘拐犯じゃないわよ」
「な、なぜそれを」

 私が震える声で言うと、女はゲラゲラと大声で笑い出した。
「あなた小説の読みすぎ」
 腹を抱えて笑っている。