見出し画像

16歳からの能動経済

「〇〇高校の教員の楠丸(クスマル)です。万引きした生徒を引き取りに来ました」
「え?早いですね、今オタクの高校に電話かけようとしてたところですよ?」
「最近教員が交代で生徒が万引きしないかパトロールしてるんです。うちの生徒が見えたのでついてきました」

 厚化粧の店員と、地味な中年女教師がデパートのバックヤードの狭い一角で立ち話してる。私が座ってるのはギシギシとやたらうるさいパイプ椅子。
 灰色の壁にはまるでカルト宗教のように汚い紙に「笑顔で接客」などの注意書きが貼られ、その注意書きもほとんど見えなくなってしまうほど沢山の段ボールが雑然と積まれている。
 これが神々しいまでに煌びやかなデパートの中身か。私は思わずせせら笑った。
「何を笑ってるんだ!クソガキが!店員さんに謝らないか!薄らボケナスが!お前みたいな性悪が将来頂き女子になるんだ!」
「先生、あまり過激な叱り方をすると虐待だと言われてしまいます。もういいんで連れて帰って下さいよ。」
「この子が盗った品物の代金は?」
「まあ、それはいいです。テスターの口紅だったんで。忙しいんでもうさっさと連れてって下さい」
 口の悪い中年女教師は私の腕を掴むと店員に深々と頭を下げた。
 早足の女教師に連れられて、デパートの出口へと歩きながら、私は心の中でこう思っていた。
「うちの高校にこんな先生いたっけ?」