見出し画像

調達力・購買力の基礎を身につける4

(1)-1 新規サプライヤーの発掘<基礎知識>

新規サプライヤーを発掘する状況としては下記のような場合です。

(1) 既存のサプライヤーだけでは、将来安定した調達が困難になる場合

(2) 既存のサプライヤーからは調達できない仕様・製品を必要とする場合

(3) 戦略上、新規のサプライヤーが必要になった場合

まずは自社が将来的に必要とする仕様を察知し、理解することが必要です。

そして、競合他社の調達構造を調べます。これは難しいことではなく、サプライヤーに聞いてもよいですし、自動車産業など業界によっては各社の調達構造について記された書籍も毎年出版されています。

加えて、関連技術の進化や世界市場の動向に関する情報を日々入手します。

このようにして挙がってきた有望サプライヤーにコンタクトし、必要に応じて面談し、取引の可能性を探ってゆきます。

日々の業務では新規サプライヤーを探すことは多くないかもしれません。既存のサプライヤーと付き合うことが多いでしょうし、新規で参入させるにしても売込みのあったサプライヤーが想像以上に安かった場合もあるでしょう。知り合いからの紹介もあるかもしれません。しかし、そのような場合は「発掘」ではなく受動的です。

これまで、バイヤーは売り込みや紹介によってサプライヤーを知ることがほとんどでした。しかし、これからは(1)~(3)のような状況によって、自らが積極的にサプライヤーを発掘することが必要になってきます。

つまり、サプライヤーが訪問してくるのを待ち、提示される見積りをただ交渉するだけではいけません。こちらから取引をしてくれるように口説く、という能動的な態度こそが必要となってくるのです。

(1)-2 新規サプライヤーの発掘「私の経験」

「中国から買ってこい!!」

このセリフが口癖になっていた上司を持ったことがあります。

コストの報告会の際、「この製品はいくらになりそうです」と言った瞬間に、「なんでそんなに高いんだ」と必ず指摘されるのです。

そして、おそらくどこかの新聞で読んだと思われる有名企業の中国調達の記事を思い出しては「中国からの調達を加速させよ」と繰り返すのです。

もちろん、ほとんど思いつきのレベルでした。

類似製品が本当に中国から買えるのか?もし買えたとしても品質は安定しているのか?そもそも安いのか?

などといった当然の疑問さえも受け入れる気すらなく、「中国から買ってこい」と叫ぶばかりでした。

「それはひどい」と思われた方が多くおられるでしょうが、私は別の感想を持っていました。この上司がひどいのではなく、「中国から買えば安い」という幻想のようなものが皆に浸透しているのだな、と。この上司は、その幻想の縮図ではないか、とも。

もちろん、中国から買ったら安いものはたくさんあると思います。しかし、「中国から買ったら何でも安くなる」という考えは間違いであり、その当時(そして現在でも)中国に新規サプライヤーを求めるバイヤーがたくさんいましたが、そのほとんどは上手くいかず、失敗を繰り返していました。

無料で最強の調達・購買教材を提供していますのでご覧ください

(1)-3 新規サプライヤーの発掘「新規サプライヤーを探すべきか」

私は最初に、新規サプライヤーを発掘する場合について述べました。

(1) 既存のサプライヤーだけでは、将来安定した調達が困難になる場合

(2) 既存のサプライヤーからは調達できない仕様・製品を必要とする場合

(3) 戦略上、新規のサプライヤーが必要になった場合

おそらく、単純に目の前のものを安くしたいだけで中国の新規サプライヤーを活用する、という場合は上記にあてはまっていません。

短期的なコスト低減の視点のみで新規サプライヤーを発掘しようとしても、中長期的には上手くいかないはずです。

その場しのぎで活用されようとしてもサプライヤーが本気になるはずもありません。やはり、長期的な戦略を前提にこちらの想いを伝えるというプロセスが必要になってきます。

ですから、「どうやって探すか」の前に、まずは本当に新規サプライヤーと付き合う必要・覚悟があるかを自らに問わねばなりません。

加えて、なぜいきなり中国にいってしまうのか。

他社のバイヤーで、中国にサプライヤーを探しに行く出張を経験した人たちと話をしたことがありますが、そのほとんどは日本国内にある他の企業をほとんど調査したことがないようでした。

自分が付き合っている50km圏内のサプライヤーしか知らないのに、いきなり中国とは飛躍しすぎです。

「中国のサプライヤーから10%も安い金額が届いた」と驚いても、ちゃんと調べればそれよりも安いサプライヤーが日本国内に存在することはありえます。

そして、大声ではいえませんが、バイヤーたちはかつて中国サプライヤーから見積りをとっては、それを既存のサプライヤーに見せて「これよりも安くしろ」という交渉を繰り返していました。新規サプライヤーを真剣に探す気など最初からなかったわけです。それなら、中国サプライヤーの見積りを偽造した方がずっといい、と思います。

資料セミナー (1)

(1)-4 新規サプライヤーの発掘「新規サプライヤーを探すとき」

必要に迫られて新規サプライヤーを探すときは、一般的に日本企業では厳格すぎるほどのプロセスを経ます。

企業経営体質から、製品ラインナップ、開発力、生産キャパ、品質保証体系、サンプル品検査、価格。これらを各部門で点数付けし、基準点を超しているかがチェックされます。

バイヤーとしては全てに目を光らせる必要があります。

ただ、実務上で特に重要となってくるのは

① 初回見積りが「名刺コスト」でないか

② 納期対応は優れているか

になります。①に関しては、できるだけ初回に詳細見積りを提出してもらうことです。そして、これ以降も必ずこのレベルでの見積りを提出することを約束させることです(議事録に残してもよいはずです)。初回ですから、サプライヤー側もこちらの要求を受け入れてくれることが多いはずです。

例えば、成型品でしたら、「○○という材料はKgあたりいくら。加工費は○○tプレスあたりいくら。利益率は○○%を加算する」という詳細内容を把握しておくのです。

そして、同時に「これは特別価格ではなく、通常レベルだ」ということを両社で確認しておくのです。

そうすれば、次回以降に利益率が初回以上になることは抑えられます。

②に関しては、何よりも現場を見に行くことだと思います。生産効率がどうか、5Sがきちんとできているか。

標準的なリードタイムを確認し、それが自社の通常発注リードタイムと合致しているかも確認せねばなりません。

バイヤーはどうしても見た目の安さだけに注目しがちですが、当然のことながら要求納期に全く合わないような生産形態しか持たないサプライヤーを選択することはできません。

そして、重要なことは、新規サプライヤーを参入させるときも、させないときもその理由を明確化してサプライヤーに伝えることです。

こういう点が特に優れていた。こういう点はやや劣る。こういうことを期待している。メッセージを受けた営業マンはバイヤー企業から求められていることがはっきりしますし、社内に伝達してもらったときにサプライヤー全体にこちらのメッセージを浸透させることができます。

逆も然りです。参入させられないときは、その理由を明確化すべきです。その理由も社内に伝達してもらうことで、改善につながりますし、将来よりよい姿を見ることができるはずです。

そして、まさにそれこそが、自らサプライヤーを選択してゆくという能動的な態度ということができます。

無料で最強の調達・購買教材を提供していますのでご覧ください

(1)-5 新規サプライヤーの発掘「雑感」

若干新規サプライヤーを探すこと自体を批判的に書いてきました。しかし、価格の下降硬直性がある場合は、新規サプライヤーの参入が既存サプライヤーに対しては脅威になります。

その場合も、「本当に新規サプライヤーから購入する気があるのだ」という態度を表明せねばなりません。

新規サプライヤーがせっかく安い価格を提示しても、既存のサプライヤーに発注を続けていればどうなるでしょうか。新規サプライヤーは(口に出さないにせよ)信頼してくれなくなるでしょうし、既存サプライヤーも安心してしまい逆効果にしかなりません。

ちなみに、私の知り合いのバイヤーは中国の企業に見積り依頼をしたときに「本気で発注する気があるかどうか教えてくれ。日本企業は要求ばかり多くて、結局は発注してくれないから」と言われたそうです。笑えません。

無料で最強の調達・購買教材を提供していますのでご覧ください

(2)-1 RFxの提示<基礎知識>

RFI(情報提供依頼)、RFP(提案依頼)、RFQ(見積り依頼)の三つを指してRFxと呼びます。

RFI(Request for information)とは、サプライヤー選定に先立って、各社の基本情報や取引条件、生産可能仕様、製品の開発状況、などの情報を提供してもらうための要請書です。

RFP(Request for proposal)とは、調達品の要件をサプライヤーに過不足なく伝え、それを元に合致する仕様・製品を提供してもらうための要請書です。

RFQ(Request for quotation)とは、各種取引条件を明記し、それに対応する見積りを提出してもらうための要請書です。価格の交渉も含まれます。

かつては電話やFAX、書面交付にて行われてきたRFxも、近年は電子メールやweb上で実施されることが多くなってきました。調達部門がカバーする分野が多くなってきた昨今、いかにスピーディーかつ正確にRFxを行えるかが重要となってきています。

各プロセスに名前がついているものの、実務では切り離して行うものではありません。また、英語だと難しく感じますが、「こういう仕様の製品が欲しい。いくらになるか」と日常繰り返している会話は、まさにRFxにほかなりません。

バイヤー業務の基本ですが、意外におろそかにしている人が少なくなく、RFxをちゃんと実施できるだけでも一人前のバイヤーと呼ぶことができます。

サプライヤーとのトラブルはほとんどの場合、このRFxのプロセスに不備があるときだと言っても過言ではありません。

(2)-2 RFxの提示「私の経験」

「そんなこと聞いていませんよ!!」

私は目の前の営業マンにこう叫んだことがあります。

ある製品を発注したときのことでした。一個2万円ほどの電源装置の注文書を発行したあとに、サプライヤーから電話がかかってきたのです。
「一個じゃ、2万円ではお売りできませんよ」とその営業マンは平然と言うのです。「とにかく来てください」と私は言って交渉が始まりました。

私はサプライヤーからの見積り書を再度見てみましたが、やはり「\20,000-」と記載されています。急な仕様変更が生じたわけでもありませんでした。

交渉が始まり、その営業マンが言うには「見積り条件は年間2,000個の受注が条件と書いてあったでしょう。大体一回の発注は100個くらいだろうと思って見積りしていますよ。少ないロットで発注されると、こちらも経費が大変ですから一個でも同じ値段というわけにはいかないでしょう」と。

私は交渉を数回実施し、なんとか元の金額で発注することができました。初めて扱う製品だったこともあり、非常に印象に残っています。

この話を聞いて笑ってしまう人がどれだけいるでしょうか?

もちろん、「そんな基本的なことは当然だろう」というバイヤーもいるでしょうが、多くのバイヤーはこの話を聞いて思い当たるところがあるはずです。

無料で最強の調達・購買教材を提供していますのでご覧ください

(2)-3 RFxの提示「RFxの重要性とは?」

バイヤーに必要な能力として、「交渉力」が強調されることがあります。もちろん、私も必要だとは思いますが、これまではその必要性があまりに注目されすぎていたのではないでしょうか。

極端に言ってしまえば、交渉が必要な場合とはバイヤーがRFxをおろそかにしていたときではないか。

正確な情報をつかみ、正しい取引条件を提示し、それに合意したサプライヤーが見積りを提出し、その金額で発注書を発行する。このプロセスが正しく行われていれば、何も相手に無理を要求することはありません。

「そんなこと聞いてない」「そんなつもりじゃなかった」「当初の話と違う」。このような発言をバイヤー・サプライヤー双方から聞くことがありますが、ほとんどの場合RFxが不完全か曖昧なまま両社が進めてきた結果であることがほとんどです。

もちろん、要件の調整で交渉は必要でしょうし、発注決定前に目標コストに達しない場合も交渉が必要となるでしょう。しかし、それらの場合、交渉は比較的安易であるはずです。

ですから、私は「交渉力」という章を設けていません。RFxをしっかりする方がはるかに大切です。

RFxの内容については、担当する領域に応じて多岐に渡るため、一般化することは困難です。ただし、よくバイヤーがはまる落とし穴があります。下記については明確化する必要がありまし、サプライヤーからも明確化してもらう必要があります。

(1) どのくらいの発注数を見込んでいるか。そして、一回の発注単位はどれくらいか。もし、その発注数以上・以下になったら価格は変化するか(させるか)。

(2) 見積りの価格以外に発生する費用はないか。保守が必要になった場合、多額の請求をすることはないか。

(3) 製品が突如生産中止になることはないか。あるいは、市場環境変化(商品ライフサイクルの終了、為替変動、材料高騰)時に価格はどう変化するか(させるか)。

(4) 目標価格はいくらか。また、こちらの提示条件に満たせないところはないか。

などなど。これらは通常「触れたくない」話題の一つですが、そういうことこそ曖昧にしてはいけません。

また、自分で経験していないことも周囲のバイヤーに失敗例を聞いて回れば、ノウハウ集ができあがるはずです。これまで多くのバイヤーがRFxで失敗していますから、各製品領域に固有のノウハウがたくさん挙がると思います。

無料で最強の調達・購買教材を提供していますのでご覧ください

(2)-4 RFxの提示「RFxのあとに」

たまに笑ってしまうようなことが起きます。

「RFxはちゃんとしていたはずなのに」とバイヤーが後悔してしまうことがあるのです。私の例いうと、見積りはちゃんと入手して条件に合致していることを確認していたはずだったのですが、またしても「この価格ではお売りできません」という事態が生じてしまいました。

「この製品価格に1,000円が加算されます」と。

実は「この価格には輸送費は含まれておりません」と見積りに書いてあったのですね。しかも、極小の文字で。

おそらく競合時には自社に不利になるような情報を営業マンが進んでバイヤーに提供しようとすることはないでしょう。これは、私に見積りの詳細を確認する、という意識を芽生えさせてくれました。

そして、重要なことは営業マンとの信頼関係でしょう。仕事ですから、あまり友人関係のように振舞うことは避けねばなりません。が、もし不利な条件があれば、何でも言ってもらうくらいの仲の良さは必要でしょう。

加えて、「この人を騙してはいけない」と営業マンに意識付けることも必要でしょう。逆に、そのためには仕事人として当然の礼儀もわきまえなければなりません。それは、「買うつもりもないサプライヤーにRFQ(見積り依頼)を実施してはいけない」ということです。

誰も大声にして言いませんが、例えば5社にRFQを実施しても、せいぜいターゲットとして考えているサプライヤーはそのうち2社程度であることがほとんどです。

残りの3社は「当て馬」と呼ばれます。それであれば、最初からその2社にのみ見積り依頼をすればいいだけの話です。

どんなに正確にRFxを行っても、発注する雰囲気すらなければ、サプライヤーも真剣に提示するはずなどありません。

何より両社の時間と紙代が無駄だ、と思います。

プレゼン36064511_10155455635586881_4826807053244694528_n

(2)-5 RFxの提示「雑感」

RFxはいつでも誰でもやっています。電化製品を買うときに、いくつかの安売り店の販売価格・条件(ポイントサービスとか)を比較することと一緒です。

自分たちの企業がせっかくお金を払うのだから、より良い製品を選びたい。その一環のプロセスであって、難しく考えることはありません。

また、私の例では、なんとか交渉で収めることができました。不幸中の幸いです。

が、これが海外サプライヤーとのやりとりではそうはいきません。彼らは「ある一定条件の下で、提示した」価格と「条件が少しでも変わったとき」の価格は大きく異なります。

多少発注数が減っても大丈夫だろう、と考えていたら倍の価格を再提示されたこともあります。発注数が多くなったら安くなるだろう、と考えていたら「今の設備では作れないから、設備導入費を加算させろ」と言ってきた例もありました(実話です)。

こういう問題は、特に「なあなあ」で進んでゆく日本人には相容れない感覚ですが、ますます海外との取引が拡大してゆく昨今においては注意が必要です。もっとも、海外のバイヤーたちも同じような悩みを抱えています。

海外のサプライヤーといっても、どんどん気になることは聞いていけばよいはずです。あからさまに値上げの心配をするのは失礼ですが、逆にそれだけ真剣に考えていることをアピールすることもできます。

ただし、くれぐれも「なんとなく」で見積り依頼はしないようにしてください。

無料で最強の調達・購買教材を提供していますのでご覧ください

(3)-1 適切な発注数を決定する<基礎知識>

代表的な発注方式は二つあります。①定量発注方式と ②定期発注方式です。直感的な意味でまず説明すると、

① 【定量発注方式】在庫が一定量以上減ったら自動的に決められた分を補充しましょう、という発注のやり方。

② 【定期発注方式】定期的に、その都度適切な数量を補充しましょう、という発注のやり方。安全在庫量、標準調達期間中の消費数量、現在の在庫量、引当数を計算し、無駄な在庫を持たないようにしてゆく方法。

上記の説明でお分かりいただける通り、①は単価が安く、消費数が安定しているものに向いています。②は高額部品など、在庫を極力持ちたくないもので、調達期間の長いものに向いています。

それぞれの方法に必要な用語は下記の通りです。

① 発注点:標準調達期間中の消費数量+安全在庫量、であり、
経済的発注量:clip_image002、で表現されます。

② 発注量:標準調達期間中の消費数量+安全在庫量-現在の在庫量+引当数、で表現されます。

その他にも発注方式はありますが、現場のバイヤーとしてはこの二つを知っていれば支障はありません。

バイヤー(あるいは生産管理部門)は購入品の特性によって、発注方式を使い分けることになります。

(3)-2 適切な発注数を決定する「私の経験」

以前、定量/定期発注方式を採用しようとしていた数々の製品の「標準調達期間中の消費数量(発注してから製品が納入されるまでに使ってしまう数量のこと)」を調べようとしたことがあります。

私も含めて、各バイヤーに対象製品の「標準リードタイムを教えろ」という命令が下りました。新しいシステムを導入しようとしていたときで、標準リードタイムを設定しようとしていたのです。その標準リードタイムの間に消費してしまう数量が、「標準調達期間中の消費数量」になるわけですから、この設定は非常に大事なものでした。

すると、各バイヤーが回答した標準リードタイムはヒドイものでした。なんてことのない普通のプレス加工品が「標準リードタイム30日」となっています。と思えば、いつも一週間で納入されるチップ抵抗器は「標準リードタイム60日」となっています。

通常であれば、30日ほどあれば全て調達できる(そして、そのときもできていた)製品群が3ヶ月ないと調達できないことになっていました。

つまりこういうことだったのです。

標準リードタイムが決まる。そして、経済的発注量が決定する。そうしたら、バイヤーは必ずそのリードタイムは守りきらなければいけない。その経済的発注量を必ず期間内に納入することが求められる。だから、その標準リードタイムに安全(余裕)を加算しておけ。そういう意識が働いたようなのです。

本来ならば20日で手に入るところも、営業マンから25日と答えられる。それをバイヤーはさらに30日と社内に答える。こういうスパイラルが起きていたのです。

考えてみれば、標準リードタイムというものは大変難しい問題をはらみます。サプライヤーが専用生産ラインを持っている場合ならまだしも、様々なお客向けに生産している場合は一言で標準リードタイムは決定できません。

したがって、30日で生産できるものが、注文の込み具合によっては35日かかったりします。あるいは、逆に余力がある場合は、25日で生産できる可能性もあります。あくまでも標準リードタイムはその名の通り「標準」でしかありません。

リードタイムを長く設定するだけならばまだマシな方で、バイヤーによっては100年かかっても消費できないような数量を確保し「安全在庫」として備える猛者もいます。確かに生産は止まらないかもしれませんが、あまりに無駄な買い物です。自分の金であれば、そんな無駄遣いはしないくせに。

結局バイヤーだけで各数値を設定しようとすると、どうしても自分を守るために安全日数を確保しようとします。様々な防止策が練られてきましたが、一番効果があるものは生産管理をしている担当者とダブルチェックするというものです。生産ラインを確実にまわしたい担当者は、あまりリードタイムが長くなることを好みません。

しかし、生産管理の担当者にしても安全在庫を必要以上に持つことで自身の安全を確保しようとするかもしれません。その場合は、年間の生産量と比較して、どれだけ不要な量を持っているかということを外部部門(経理部門など)から指摘するしかありません。

適切な在庫量しか持たないように自戒し周囲にも注意を促すことが大切です。

無料で最強の調達・購買教材を提供していますのでご覧ください

(3)-3 適切な発注数を決定する「雑感」

自分のお金であれば、必要最小限の出費しか許さないであろうバイヤーも、こと会社のお金となれば不要な量を不注意に発注してしまうことが多々あります。

これこそ、バイヤーや関係者の倫理に期待するしかありません。普段は感じていなくても、無駄な在庫を持つだけで莫大な費用がかかってしまいます。

私がこういうことを認識し始めたのは、期末の不要在庫を捨てる現場に立ち会ったからです。何年も使われなかった材料(「死材」)を燃やすさまは非常に壮観でした。企業によっては何千万円分も捨ててしまうことがありますが、そのお金で何が買えたか分かりません。

なお、今回紹介した発注方式とは別に、都度発注の方法があります。これは、在庫という概念はなく、都度必要な数量だけを発注する方法です。客先の仕様に合わせて一品一品カスタマイズしてゆく製品を取り扱う企業はこの方法をとる場合が多いでしょう。

この場合は、リードタイムの設定と発注を確定する時期が非常に重要になります。くれぐれも関係部門とのコミュニケーションは大切に。

セミナー写真

(4)-1 適切な荷姿を決定する<基礎知識>

製品を輸送するとき、荷姿には下記のような条件が求められます。

・ 製品の品質が保持できること

・ 効率のよい積載で費用を最小限化していること

・ 開梱しやすいこと

・ 注文番号や製品番号の表示・識別の徹底

・ 梱包材は繰り返し使用できること(環境対応)

厳重に何重も梱包すれば、確かに品質は確保できますが、それでは費用もかかってしまい大量の廃棄物も発生します。開梱の作業効率も悪化するはずです。

大切なのは、品質を劣化させないレベルで、ムダを省いた荷姿にすることです。そのためには、バイヤーやサプライヤーが単独で決定せず、受入れ部門を交えて話し合い、ときには何通りかの荷姿を試みることになります。

加えて、製品を開梱したときに梱包材を捨てることは環境対応の側面から言えば非常に好ましくありません。何度も納入される製品であれば、専用台車や専用袋・専用容器などを作成し、何度もリサイクルできないか考慮すべきです。

(4)-2 適切な荷姿を決定する「私の経験」

ほとんどの企業ではサプライヤーと基本契約書の中で「軒下渡し(指定納品先まではサプライヤーが責任を負う)」の項目を謳っているため、バイヤーが荷姿を気にすることはあまりないはずです。どんな形態で持ってきてくれたって、そこまでの品質を保証してくれるのであれば知ったことではない、と。

確かに、バイヤー企業の指定納品先までは、サプライヤーの管理費の中でやりくりする話ですからバイヤーが介入することでもありません。書籍によっては、輸送費を分解し、ガソリン代・荷積み費・荷下ろし費・包装費・・・など、それぞれを計算するやり方を披瀝しているものもあります。が、私はロジスティックの専門家ならともかく、現場のバイヤーに必要な知識とは思えません。

品質を確保した上で、あくまで生産効率を上げるためにどのような手段があるかを考え、トライすることは必要です。しかし、それはコスト低減の狙いどころとしてではなく、あくまでのネタの一つという程度で考えておいた方がよいでしょう。

バイヤーにとって必要なのは、下記の二点だと思ってください。

(1) 納入前に荷姿形態を把握し、それにより受入れ部門に支障が生じないか確認する

(2) できるだけ返却可能(リサイクル可能)な梱包材を使用するように、サプライヤーと受入れ部門と打ち合わせする。

(1)ですが、通常であれば管理費の範囲内でサプライヤーが最適と考える荷姿で納入されるだけです。しかし、場合によってはサプライヤーが納入してくる荷姿と、受入れ部門が考えていた荷姿との間にギャップが生じることがあります。基板実装部品を購入するときに、サプライヤーはバラ品で納入してきたが、受入れ部門はリール品でなければ受け取らない、とか。サプライヤーはビニール詰めである部品を納入してきたところ、受入れ部門は次工程のことを考えると作業性を向上させるために、一つ一つをパーティションで区切った箱で納入してほしい、とか。思い出すだけでもたくさんあります。サプライヤーからしてみれば追加作業が発生し、コストアップの要因にもなります。最後の最後でコストアップは許されないでしょう。全てを確認することはできませんが、高額製品や発注頻度の高い製品は納入荷姿を関係部門と確認しておきましょう。

(2)ですが、昨今の環境意識の高まりに対応したものです。一昔前の梱包材の廃却量はものすごいものでした。バイヤーは梱包材を購入するのではなく中身を購入するわけですから、必要以上に豪華な梱包は不要であり、必ずリサイクルができる(営業マンが持って帰り、再度使える)ような専用容器や袋を考慮してもらいましょう。豪華な梱包は必ず回りまわってサプライヤーからの見積りに転嫁されます。

納入荷姿は机上で計算しても最適解が分かるようなものではなく、いくつかの納入荷姿を試してみることによって模索してゆくことになります。ただ、品質を保持することが一番であるべきです。繰り返しになりますが、この領域はコスト低減の本命ではありません。深入りせず、効率的に決定することをお勧めします。

無料で最強の調達・購買教材を提供していますのでご覧ください

(4)-3 適切な荷姿を決定する「雑感」

あるとき、サプライヤーから納入される製品の寸法精度が突如悪化することがありました。交差内に入らないのです。工場監査もしたのですが、これまでと変わらず。結局、輸送上の問題であろうと結論付きました。とはいっても、荷姿は以前より何も変わっていません。

唯一変わったのは、サプライヤーが使用する運送会社でした。面白いことに(そんなに面白くもないのですが)、これまで使っていた運送会社ならば精度は保てており、それが新しい(超有名な)輸送会社では精度が悪化してしまうのです。ドライバーの運転の質が悪いのでしょうか。そうかもしれません。

解決策は、通常よりもより頑丈な梱包をすることでした。なぜ運送会社を元に戻さなかったかというと、料金が安く、なにより精度不良はその一品だけとのことだったからです。品質を保証してくれるなら、と私はそのときにそれ以上の追求はしませんでした。

今思えば、運転によって精度が悪化するとは恐ろしい話ではあります。

(5)-1 納期の確保<基礎知識>

納期の確保とは、バイヤーが発注した納入期日に合わせてサプライヤーから製品を納入してもらうことです。あるいは、協議の上、バイヤー企業の生産に支障の出ない程度の期日に変更することです。

自動車産業や一部の電機産業のようにサプライヤーがバイヤー企業向けに専用生産ラインを保有している場合はフォーキャストによる密接な生産・納期管理が重要になってきます。

ただし、ほとんどのバイヤー企業はサプライヤーに専用ラインを持たせるほどの発注量を確保できないため、発注のたびにいかにサプライヤーから納期回答を入手し、遅れる場合は社内生産工程と調整できるかが非常に重要になります。調達・購買部門の役割の大半がこの納期調整業務と考えられている企業もたくさんあります。

納入期日に遅れそうな場合は、次の順番で調整してゆきます。

まずは、①サプライヤーに納入期日を早めることができないかを依頼 ②自社内で納入されてから生産を開始するまでの安全日程を削減できないか考慮 ③自社内生産工程における作業時間の改善ができないか考慮 ④どうしても間に合わない場合は他製品の組立てを先にできないか(入れ替えることができないか)考慮 という順番になります。もちろん、①の中にはサプライヤー工程内の②③を含みます。

納期調整においては、バイヤーに苦労はつきものです。納期遅れが生じてしまった場合は、再発防止策が必要になってきます。

また、どうしてもバイヤーとサプライヤーの立場の関係上、無理を一方的に依頼してしまうことが多いでしょう。多少のお願いは仕方ありませんが、両社が歩み寄り事情を理解した上で、改善を図ることが重要です。

(5)-2 納期の確保「私の経験」

「なんでこんな役に立たないモノを持ってきたんだ!バカヤロー!!」

ある年、2月のおそろしく寒い日、私は秋田空港にいました。

空港出口の自動ドアが開くと、一面に雪が舞っており、持参した一枚のコートではとても寒さに耐えることはできませんでした。雪の中を歩いたせいで靴は汚れ、スーツから伝わってくる冷たさで凍えてしまいそうでした。

どうしても納入期日に間に合わない製品をハンドキャリーで持ち帰るために、私は秋田のサプライヤー工場に向かっていました。製品はパワーユニットでした。

タクシーに乗って、見知らぬ土地の奥地へ。工場に着くと、全く歓迎してくれない様子の生産管理担当者がいました。しかし、私は仕事だからと必死に交渉しました。

「あんな納期ではとても製品などできない」と相手は一点張り。私は、担当者にひたすら頭を下げて、生産を急いでもらうようにお願いしました。

そもそも無理な納入期日であることは私も十分承知です。それに、発注が遅れたのは私ではなく、他部門の責任でした。それでも納期を確保するのはバイヤーの仕事だろう、と責任を押し付けられた私。しかし、そんな社内の事情をごちゃごちゃ言っても仕方がありません。

生産現場の片隅に設置されていた会議室で5時間も待ち、やっと検査工程が終了したそのパワーユニットを持参したバッグの中に入れ、手短なお礼を述べタクシーですぐさま空港に戻りました。

そこから最短帰路で自社の工場に向かい、近くのホテルに宿泊。翌朝、工場の受け入れ検査場に持っていきました。

しかし、動作確認をしても、そのパワーユニットは全く動こうともしません。何回やっても、結果は同じでした。揺らしながら持って帰ってきたせいか、あるいは完成したときからの不具合なのか分かりませんが、いずれにせよ不良品です。受け入れ検査の担当者は、私にこう言いました。

「お前、なんだよ!どういうつもりだ!役に立たないモノ持ってきやがって!」と。

悔しくて泣いてしまいそうだったことを思い出します。

無料で最強の調達・購買教材を提供していますのでご覧ください

(5)-3 納期の確保「納期の確保のために」

サプライヤーの生産と自社の生産を同期させているのは自動車メーカーのような超大手企業だけです。その他多くの企業のバイヤーは、納期調整に奔走しながら、なんとか自社の生産に間に合わせています。

納期の確保に絶対的な改善方法はありません。製造業はお客からの注文を基準として動かざるを得ず、どうしても短期間の生産が生じてしまうからです。あるいは、サプライヤーにおいても、生産が込み合っていたり、不可測な事態に見舞われ生産が遅れたりすることがあるからです。安全在庫を過剰に持つという手段もありますが、それは不良資産の拡大にもつながります。

そのような前提に立てば、納期遅れを完全に予防することはできません。当然、入念な生産計画を立て、無理のない発注を心がけることは必要です。しかし、できる限りのことを行った上で、柔軟にサプライヤーの納期に合わせ調整してゆくことも大切です。

日ごろ、生産管理部門とバイヤーは情報交換を密にすることが求められます。納入期日が遅れそうだった場合、これだけ生産システムが発達した現在であっても、結局のところ生産を上手く調整できるかどうかは社内の関係部署とバイヤーの「人としてのつながり」に尽きるということを忘れてはいけません。

ただし、社内の各部門を動かして調整してもらうにしても、最低限下記のことをバイヤーが確実に実施していることが必須となります。私は前述の例のようなことも少なくありませんでしたが、このようなことを確実に行ってからは、だいぶ少なくなりました。

(1) サプライヤーに対する納期遅延防止の意識付け

(2) 納期遅れの原因の追究

(3) 納期遵守サプライヤーへの謝辞

たったこれだけのことです。

(1) について。多くの企業はサプライヤーと取引基本契約書を結んでいます。この中には、「発注内容に異議がある場合は○日以内に申し入れる」という条項がある場合が多いはずです。発注内容には納入期日が記載されているはずですから、サプライヤーが何も言って来ずに納入遅延をしてしまった場合は契約違反と言うことができます。もちろん、杓子定規に主張することはいけませんが、契約の遵守をサプライヤーに認識させるべきです。調達・購買部門によっては、商談室に納期遵守ワーストサプライヤーの一覧表を「見せしめ」として貼っているところもあります。

(2) サプライヤー工場が必死に生産してくれても遅れる場合は仕方がありません。しかし、十分な納入期日を確保していたにも関わらず、納期遅延を引き起こす場合は工程監査も含めた厳重な原因追求が必要です。私の経験した例では、工場内の生産指示がむちゃくちゃであった例がほとんどです。一社だけ、営業マンが自社工場に発注することを2ヶ月間放置してしまうという例もありましたが。

(3) 無理をお願いし、希望通り納入してもらったときは事後のお礼が必要です。バイヤーはどうしても立場上、サプライヤーに対して高圧的な態度に出てしまうことが多いでしょう。依頼するだけで、何のお礼も言えないバイヤーに対しては必ず長期的にサプライヤーの協力度が落ちてきます。メールならば5分もかかりません。ちなみに、私は無理な注文を聞いてもらうたびにサプライヤー工場の担当者にお礼状を出していました。すると、次回行ったときに、そのお礼状が額に飾られていたことがあります。

納期の確保は「できて当たり前。できなければ評価が下がる」という調達・購買部門が少なくありません。通常は±ゼロ、遅れればマイナス評価、というわけです。これではバイヤーのモチベーションが上がるはずもありません。

バイヤー個人の問題ではなく、このような評価制度も変える必要があります。バイヤーとしては、当然生産の安定のためにサプライヤーや社内と良好な関係を築く。同時に、バイヤーへの評価としては、納期遅延によるマイナス評価を止め、バイヤーがどれだけ納期遅延を防ごうとしているかの努力をプラス評価してゆく。これが必要です。

BtoB営業セミナー0801 025

(5)-4 納期の確保「雑感」

調達・購買部門にはバイヤーではなく、企画・計画を担当する人たちもいます。現場のバイヤーからこのような職種に異動した人に聞いてみると、「確かに仕事は以前よりも面白くないが、一番良かったのは納期調整をしなくてよいことだ」と言う割合が非常に多いです。

また、一部の産業では、価格・サプライヤー決定を担当するバイヤーと発注・納期管理を担当するバイヤーが完全に分かれていることがあります。このような場合、会社を退職するまで(退職しても)お互いの業務を知らない、ということが起こります。

価格・サプライヤー決定業務と発注・納期管理業務に貴賎はありません。が、私などは発注・納期管理業務を経験せずに価格のことばかりに従事することは、どこか重要なことを欠落させているように思います。

ただし、この分離にも利点はあります。緊急納期ばかりをサプライヤーにお願いしているバイヤーは、同時に価格面で強い要求がなかなかできないというのです。これも、業務が分離していれば「納期は納期」と割り切って価格交渉を実施できるのだ、と。逆も然りです。

無料で最強の調達・購買教材を提供していますのでご覧ください

(6)-1 品質の管理<基礎知識>

品質の管理とは、要求する品質レベルの製品をサプライヤーに生産してもらう活動のことです。

調達する製品は、ただ安いだけでは意味がありません。まず、バイヤー企業から要求する品質についての詳細を提示します。サプライヤーはそれに基づき、品質基準をクリアした製品を納入することになります。

これまで、欧米企業は生産工程の最終検査段階を厳格化し不良品を流出させないようにしていたのに対して、日本企業は工程毎の品質管理を徹底し次工程に不良品を流さないことで検査を簡略化してきた、という背景があります。バイヤー企業側からサプライヤーへの要求も、各工程での不良品流出防止でした。日本の一部の産業でバイヤー企業側の受け入れ検査を省略していたのも、このようなサプライヤー側への品質管理指導の賜物といえます。

出口で不良品を出さない仕組みをとるよりも、工程毎の品質管理を徹底した方が、結果として不良率が下がることも分かっています。一つの品質不具合が市場で話題になり信頼を失墜させてしまうこともありますので、日本型の品質管理方式を正として推進してゆきます。

(6)-2 品質の管理「私の経験」

「また、同じところから不良品が出たぞ!」

ある時期、受入れ担当者から立て続けに電話がかかってきたことがあります。「同じところ」とはあるサプライヤーのことでした。あるサプライヤーから納入される製品に不良品が多いというのです。基本的には、不良品は一度でも発生させてはいけないものです。

消費者を相手にしている企業であれば、一度不良品を消費者の手に渡すともう購入してくれることはないでしょう。それだけ不良品を出さないことは大切です。それなのに、立て続けに。

すぐにこのサプライヤーに品質監査を実施することにしました。そこで分かったのは、作業者の退職率がとんでもなく高いことでした。基板に電子部品を半田付けし納入する外注工場で女性中心でしたが、1年間勤続している人はほとんどいません。この定着率では、現場の品質が安定するはずがありません。

品質管理を難しく感じているバイヤーもいます。また、多くの企業ではバイヤーが品質を管理せずに他部門に任せているところもありますので無関心である場合が多いようです。しかし、品質管理は特別なことではありません。

簡単に言えば、「不良品は出ていないか。出ていたとしたその問題は何かはっきりさせているか。その問題を解消し、再発を防止する仕組みを構築しているか」ということだけです。

① 品質基準を持ち、その作業・検査方法が決められているか

② 作業者に①が教育され、浸透し、規準通り実施されているか

③ 結果としてターゲット通りの製品ができているか

④ ③が芳しくない場合は対策が練られているか

こういうことを書類や体制だけではなく実践されているかどうかを確認してゆきます。不良品を出す工場はこのどこかのプロセスに問題があるはずです。

私の例では、まさに②が問題でした。人員の定着しない工場で、社内全体の技能が浸透するはずはありません。半田付けとは、ご存知の方が多いように、非常に高いレベルを必要とします。半田ごての温度や半田量や盛り方によって、将来の持続性が決まります。失敗すればクラックが生じ、故障の原因ともなります。

実は、この工場、半田付け作業の場所に吸引機を設置していませんでした。半田付け作業には必ず換気が必要で、吸引機は必須です。そうでなければ作業者は鼻や口から半田を吸い込むことになり、体調不良になります。

これが体調不良による女性作業員の退職につながっていたのです。考えてみれば、最悪の場合不妊症になりますから辞めてゆくのは正解だったかもしれません。このサプライヤーは吸引機をすぐさま設置し、作業員の衛生安全をまず確保することで徐々に品質を安定させてゆきました。

①~④に問題があるか、そしてすぐに解決できないようなことであれば、真の要因を見つけるまでしつこく調査する必要があります。これはバイヤーが現場に行き確認する必要があります。

無料で最強の調達・購買教材を提供していますのでご覧ください

(6)-3 品質の管理「品質の向上を目指して」

品質管理に特別な知識は要らない、と言いました。しかし、感度は必要です。私の例で言えば「なぜ不良品が出るのか」→「それは作業者の定着が悪いからだ」→「なぜ作業者の定着が悪いのか」→「作業者の体調が悪化するからだ」…と繰り返し「なぜ」「なぜ」を問う感度が必要とされます。これは、現場に出向き自問自答してゆくしかありません。

書類や体制に頼るな、と言ったのは「作業標準書は揃っている。品質保証体制も構築されている。抜き取り検査も問題ない」とデータだけを信じてしまうと危険であることを強調したいからです。

もう二例私の経験を話すと、

・ 作業標準書が各工程に準備されているところがあり、工場関係者からも「作業者には次工程に不良品を流さない仕組みを作っている」と聞いた。しかし、作業者の3割は外国人労働者で日本語が読めなかった。もちろん、作業標準書は日本語だけで記載されていた。

・ サンプル品をサプライヤーに注文し、検査したところ問題がなかった。しかし、わざと市場に流れている量産品を購入し検査したところ別の工場が作ったのではないか、と思わせるくらい品質レベルの低いものだった。聞いたところ、サンプル品は別管理を行い、高い水準で特別に生産されたものだった。

などということがありました。

バイヤーの品質管理というと、毎月不良品の発生状況をグラフ化して配布するという方法を紹介されることがあります。当然、そのような活動は絶対に必要です。営業マンやサプライヤーのトップに品質改善申し入れることは大変効果があります。

その一方で、現場に出向き、自分の目で見て感じてサプライヤーの品質を向上させてゆくことも大切です。品質の悪いサプライヤーは長期的に必ずコスト優位性がなくなるのは間違いありません。品質の良くなったサプライヤーは長期的に必ずコスト優位性を持つことになります。

品質に関することは自分の業務外、と割り切らずに取り組むことです。

(6)-4 品質の管理「雑感」

不景気のとき大多数の企業は工場の人員を極限まで減らし、生産量に応じて臨時社員でまかなう構造を取りました。そのとき工場の人員を減らさなかった企業は大変でした。「最近、受注する数が少ないでしょう。だから最近は早めに工程をストップして、皆で自己啓発運動をやっているんです」と笑いながら悲しい状況を教えてくれる営業マンもいました。「最近、工場でやることなくてねぇ。だけど工場の奴らを帰らせるわけにもいかないでしょう。だから、工場のペンキ塗りとかをやらせているんですよ。」と教えてくれたかと思えば、「もう塗る壁もなくなりました」とも。

しかし、そのサプライヤーは現在、他のサプライヤーを引き離して抜群の品質と納期対応力を誇っています。技能の伝承がしっかりと行われており、工場としての一体感も持っているからです。

「社員数を減らさないよう、必死で頑張ってきたんです。だから今では、他の企業と違って、しっかりとした生産体制が出来上がっています」と語る営業マンの顔が明るかったことを覚えています。

私は不景気時に社員を減らしたサプライヤーを批判する気など全くありません。それは、やむを得ないことだったかもしれません。減らさざるべきだったか、減らすべきだったか。私は答えを持ち合わせていません。

品質の安定と向上には作業者間の技術の伝承は不可欠です。同時に工場の作業者を減らさなければ企業自体の存続が危ぶまれたサプライヤーがいるのも事実です。私はこのことを考えるたびに複雑な思いにとらわれます。

無料で最強の調達・購買教材を提供していますのでご覧ください

(7)-1 見積りの査定<基礎知識>

調達・購買部門が取り扱う製品は、価格を決定する要因によって分類することができます。

つまり、①市況というものに影響を受ける材料系と、③要素を積上げる成型品関係に分かれるわけです。そして、②どちらにも影響を受ける中間領域として電子・電気部品系があります。

もちろん、成型品といってもプラスチック等の材料を使用しているわけですから完全に市況影響から逃れるわけではありません。市況影響型の材料系も要素積上げを完全に放棄しているわけでもありません。大きな分類として考えてください。

多くの本では、これらの製品の見積りを査定するときにコストテーブルによるチェックを勧めています。コストテーブルとは、これまでの調達実績から加工費や金型費の適正コストを割り出そうとするものです。しかし、現実にはコストテーブルが使用できるのは③くらいです。

市況に応じて価格決定せざるを得ないものもあれば、コストテーブルを使い各要素の査定ができるものもあります。コストテーブル手法を盲信するのではなく、製品の特性を把握し、①~③それぞれに適した査定手法を適宜模索していかねばなりません。

(7)-2 見積りの査定「私の経験」

「あの男は俺が殺した」

突然、上司からそう告白されたことがあります。ある居酒屋のことです。上司は、かなり酔っ払った調子でした。

実は、その数ヶ月前に別事業部のバイヤーが自殺するという事件が起きていました。自殺したバイヤーの上司は、目の前のその人でした。その上司は数ヶ月前にその事業部から異動してきたばかりでした。

上司は、「あいつの自殺は俺のせいだ」と言うのです。「あの男はね、俺が異動する直前に作ったバイヤーの評価制度について悩んでいたみたいなんだ」と。

その上司はずっとプレス品のバイヤーをやっていました。このプレス品の曲げ工程の加工費はいくら、このカット工程はいくら、このピアシング工程はいくら、この形状の深絞り工程はいくら。よって、合計は○○円。このように、各要素を積上げて価格を決定するタイプの製品ばかりを担当していたものですから、上司の調達思想は「バイヤーが調達する価格は、理論的に必ず説明できねばならない」というものになっていたようです。

「こういう材料を使い、このような工程を経るのだから、必ずこの価格になるはずだ」。そういう信念にも似た調達スタイルを持っていたようで、それはどんな製品にも応用できると考えていたようです。

この上司は、以前の職場で「全ての調達製品にコストテーブルを作成することを義務付ける。そして、そのコストテーブルよりいかに安く調達することができたかで、バイヤーの評価を決定する」という提案をし、実行しました。

成型品などはもちろんたやすかったようです。しかし一番困難だったのは、半導体を担当していたバイヤーでした。DRAMなどは市況にも影響され、また物不足であれば調達するのもやっと。コスト低減をすることなどできないことが多々あります。しかも、半導体の加工工程を分析しコストテーブルを作るなどできるはずもありません。

ですが、その上司は「半導体や電子・電気部品はコストテーブル化が難しい」と相談されても、「だってウエハーの使用面積を計測して、エッチング工程とか要素毎に計算したらコストは算出できるだろ?」と全く譲りません。

そして、譲らないままその評価制度は開始されました。少しして、その上司は異動。私の上司となっていました。成果が出ずに迷いに迷ったそのバイヤーは、サプライヤーになんとかお願いする毎日。調達するだけでも大変なのに、少しでも価格を下げないと評価されることはありません。お願いと土下座の日々。

その後、間もなくそのバイヤーは自殺しました。

無料で最強の調達・購買教材を提供していますのでご覧ください

(7)-3 見積りの査定「コストテーブル至上主義を超えて」

何も見積り査定ぐらいで自殺の話をしないでもいいだろう、と思われた方がいるでしょう。しかし、大変多くのバイヤーがこのような評価制度に苦しめられているので、どうしても書いておきたいと思いました。

バイヤーが調達するものは、必ず理論的に説明のできる価格でなければならない、という考えを否定したいわけではありません。もちろん、できる限り理論的に説明できる価格で調達すべきです。しかし、世の中にはどうしても市況に影響されるものがあります。ガソリンの市況価格が140円/ℓのときに、「120円/ℓで買えない理由を述べよ」と言われても説明は不可能なのです。市況に強い影響を受けるものは、バイヤー個人の努力ではどうしようもないときがあるのです。

特に、成型品を長く担当していたバイヤーが昇進しマネージャーになったときは、どこか「コストテーブルを使用し、各要素を積上げて価格を決定することが絶対だ」という考えを強要しがちです。が、考えてみれば市況に影響されるものと、各要素を積上げるものとの間に貴賎はありません。

結局は、「この場合のときは、このようにして価格の妥当性を見ればよい」という尺度をどれだけバイヤーが持っているか、という点に尽きます。

画像5

(7)-4 見積りの査定「雑感」

どの製品にどの査定手法が最もマッチするかはトライを繰り返すしかありません。そのうちに最適解を見つけることができます。

私は以前パワーユニット(ACアダプタの大きいものと想像してください)を担当していたことがあります。多変量解析によるコストテーブルの作成を目指していましたが、複雑すぎて全く使えそうにありませんでした。

そこで悩んだ結果見つけたのが「重さ」です。製品重量に一定金額をかけると、面白いほど価格に近似した数値が出てきました。しかも、ほとんどのパワーユニットに関して、です。

素材じゃないのだから、重さなんて尺度を使うことができるのか、と疑問に思われた方もいると思います。たしかに半導体では、重さと価格は相関ありません。

しかし、その後私は(共同調達の項でも書いたとおり)多くの領域で重さをキーとすれば価格を説明できる、という場面に立ち会ってきました。重さは単純な尺度なので使いやすくもあります。

みなさんの領域でも試しに重さと価格の関係を調べてみてください。

無料で最強の調達・購買教材を提供していますのでご覧ください

(8)-1 調達リスクの管理<基礎知識>

バイヤーとして業務をこなしてゆく中で、必ず予期せぬトラブルに巻き込まれる経験をすることになります。突如あるサプライヤーから調達できなくなったり、法外な金額を請求されたりと様々です。

世の中は移り変わりますので、100%安全な取引先と製品などはありません。リスクをできるだけ小さくした上で、万が一起こった場合のトラブルをいかに最小限に抑えるかによってバイヤーの真価が問われます。

バイヤーが対面するリスクの代表例は次のようなものです。

① 為替リスク・調達国税率変動リスク

② 材料高騰リスク

③ 寡占サプライヤー集中調達による生産リスク

④ サプライヤー倒産リスク

①は、海外輸入製品のときに常に考慮せねばなりません。②は、特定材料の市況が高騰した際に値上げという形で噴出してきます。③は、1社集中によって災害や事故により供給がストップしてしまうことです。④は、解説も不要でしょう。

様々なリスクのうち、バイヤーが遭遇する確率では①→②→③→④です。②はサプライヤー選定に関わってくるため、6-(5)項で説明します。また、③に関してはサプライヤー戦略により、集中と分散を決定するものでこれも別項の6-(1)で説明しています。1社集中生産を選択すれば、サプライヤー内での分散生産か在庫対応か災害防止活動しかありません。④に関しては、企業評価の観点で、これまた別項5-(5)で説明しています。つまり、②③④は対サプライヤーのリスクであり、①のみがサプライヤー管理に関係なく、誰もが普遍的に影響を受けるリスクと言えます(為替や政治を左右させる力を持つ人物ではない限り、という意味です)。

ここでは、バイヤーが最も直面しやすく、さらに不可避な為替変動に対するリスク管理について述べてゆきます。

(8)-2 調達リスクの管理「私の経験」

「これは詐欺だ!」

つい営業マンに対して叫んでしまったことがあります。オプトスイッチを調達しようとしていたときです。その製品はカナダ生産であることもあり、納期がなんと半年ほどかかるものでした。私はいくつかの価格シミュレーションをした結果、アメリカのIPO(International Procurement Office)経由でカナダにドル建ての発注を行うことにしました。見積り通貨はアメリカドルです。その当時は輸入比率の拡大が叫ばれていたときでもあり、海外調達をせねばならない雰囲気もありました。

そして、半年するとドルはTTMレートで6円ほど上昇してしまいました。たった6円と言うことなかれ、です。当時20万円ほどしたオプトスイッチでしたから、それだけ上昇してしまうと一個当たり1万円は価格が上がってしまいます。それを400個ほど調達していましたから、ああ恐ろしい。

IPOのメンバーはさかんに海外調達を勧めてきており(当然です。口銭が増えるから)、その結果レートを見たときは愕然としました。価格は高くなる、しかもやりとりは全て英語、納期調整も自分でせねばならない。原価が高くなったと部内外からも責められました。

参考書によっては、「企業の輸出額と輸入額を均等させることによってリスクを相殺できる」としているものもあります。これは有効なアドバイスです。マクロな観点から私は8-(3)項にてグローバル調達の必要性を説いています。しかし、会社全体の収支と担当しているプロジェクトの収支は別の話である、というリアルな事情もあるでしょう。確かに会社全体のリスクヘッジになったとしても「自分の担当している製品が割高になった」ことの責任から完全に免れた例を私は知りません。

ちなみに私は、同じ頃に中国では増値税還付残問題でも困らせられました。還付残とは、それだけで1章が割けますが、簡単に説明すると「中国政府から戻ってこない税金(つまりその分価格が実質的に上昇する)」のことです。しかも、品目によって方針がコロコロ変わってゆきました。

もちろん、誰も為替・税率は完全には予想できないものです。特定勢力の詐欺ということはありえません。私の被害意識は単なる自己の甘さを露呈していただけのものです。だからこそ、私はリスクをいかに最小限に抑えることができるかを考えてきました。

無料で最強の調達・購買教材を提供していますのでご覧ください

(8)-3 調達リスクの管理「できるだけリスクを減らすために」

私が実際に役立つと思える為替・税率リスク回避法は、下記のようなものです。あまりに初歩的な内容と思われるかもしれません。しかし原点に立ち返るものです。

(1) 円高のときにまとめ買いする。円安のときは、そもそも海外調達すべきなのかを再考慮する。なんでも「海外調達ありき」で進めない。税率が変動する際は猶予期間に輸入を止める勇気を持つ。

(2) サプライヤーに円建ての見積りにしてもらう。こちらは日本のバイヤーであり、軒下渡し条件の日本円で払いたい、ということを認識させる。為替・税率リスクがあるというのであれば、その分を任意に加算して競合に参加してもらう。

(3) 商社に仲介してもらう。為替予約を使って、金融機関と一定為替条件での売買を確定してもらいリスクを回避する。あるいは、一定の為替条件を著しく逸脱したときにはルールを設定しておき、為替シェアリングを行う(益も負担も半々に分担する)。税率変動も同様。

そもそもリスクを負う、とはメリットを享受することの裏側に常にあるものです。ときに海外調達を行うことだけが自己目的化し、メリットが何であるかを忘れてしまうことがあります。技術的な先進性や供給リスクを考慮してのときは目的がはっきりしているものの、コスト低減のための海外調達は海外調達をすること自体が絶対化せぬよう注意する必要があります。

調達・購買部門には、必ず「海外調達かぶれ」が一人はいて無理に海外調達を推進しがちです。たいていは、自己の英語力を周囲に自慢したいか、何も考えていないかのどちらかですが、それはよいとして、英語であれば問題なく意思疎通できる私でも無理な海外調達には何の意味も感じません。リスクをとる前に、まずメリットについての吟味が必要であるはずだからです。

(8)-4 調達リスクの管理「雑感」

ファイナンス理論を学ばれた方はご存知の通り、リスクを回避すればするほど安全率は高まり、同時に利益も減少してゆきます。株式を一点集中するよりも、市場に分散させた方が暴落時の損害が少ない代わりに利益も少なくなるということは少し考えれば分かるでしょう。

よってリスク対策をすればするほど、利益という観点から見れば「つまらない」ものになってしまいます。どこまでリスクを許容できるかは企業により、バイヤーにより異なってくるでしょう。

企業によっては精度の良い「為替予測」を社内配布しているところもあります。

最も良いのは、バイヤー個人の予想とするのではなく、為替の推移展望を社内で固定してしまうことです。何年後の為替相場はこうなる、という展望を社内で固定してしまうわけです。各バイヤーはそれに従って機械的に計算して海外調達するべきかを考えます。

この方法で重要なのは、実際の支払い時に生じた差異をバイヤーの責任に帰さないことです。1ドル=100円と予想していたが、実際は1ドル=110円になってしまっても、その10円分は機械的に処理する仕組み。もちろん、実際は1ドル=90円になったとしても評価の対象としません。

こうすれば、バイヤーに為替評価の責任を取らせることなく、メリットの吟味を十分にさせることができますし、何より毎朝新聞の為替欄を読んで精神的に困憊する事がなくなります。

無料で最強の調達・購買教材を提供していますのでご覧ください

いいなと思ったら応援しよう!