調達・購買・資材とはどんな仕事なのか
調達・購買・資材の仕事
みなさんこんにちは。調達・購買・資材という仕事に関わって20年以上が経ちます。キャリアの前半は製造業で現場の調達担当者でした。その後、コンサルティング会社で同じく調達・購買領域を担当しています(未来調達研究所)。
この文章は、調達・購買・資材という仕事を知らない方に向けて書いています。
まず文字から明らかのように調達・購買・資材とは、「モノやサービスを買ってくる仕事」です。企業は単体で何かを生み出すことができません。なんらかのモノやサービスを外部から買ってきて、それを使ったり、それを基にして新たな製品を作り上げます。
たとえば自動車メーカーは100の売上高があるとすると、70くらいは外部からの調達に費やします。原材料、部品などの製品、設備、金型、外注……など多岐にわたります。また文房具やシステム、パソコンなども、間接材といって同じく調達・購買・購買が関わる分野です。もちろん、どこまで調達・購買・資材人員がカバーするかは企業によります。
まずは「外部への支出ってそんなに大きいんだ」と思ってください。それを管理するのが調達・購買・資材です。
あ、ところで私も若い頃は「調達」「購買」「資材」の言葉の違いについて定義を作ったり、調べたりしましたが、さほど違いがないと理解してください。むしろ各企業が独自に、この3つの単語の意味を付与しているケースが大半です。
現場での仕事を想像してみよう
みなさんが企業に入社し、調達・購買・資材部門に配属されたとします。すると、次々に社内の関連部署から「これを調達してほしい」「いつまでに何個ほしい」といった依頼が届くはずです。しかも終わりがありません。
ちょっと難しい話をしますが、ざっくり覚えていただければ十分です。企業の調達・購買・資材プロセスは二つにわかれます。
●Sourcing
●Purchasing
この二つです。Sourcingは「どこから買うか考えたり、価格を交渉したりする仕事」と思ってください。そしてPurchasingは「発注したり、取引先に納期を催促する仕事」と考えてください。この二つを、一人の担当者にやらせる企業もありますし、役割を分担している企業もあります。
調達・購買・資材担当者は、自分が調達を担当するモノやサービスの価格について次を調べたりヒアリングをしたりし続けます。
●市況はどうなっているか、高騰しているか、下落基調か
●新サービスや新製品はどのようなものが発売されているか
●新しいサプライヤ(取引先)がいるか、海外のサプライヤはどうか
●サプライヤ(取引先)の経営状態はどうか、倒産などの可能性はないか
上記を調べるといっても、毎日の業務は大変ですし、会議もあります。さらに納期催促しながら、その空き時間に調べるのですから大変です。
(なお私たちは、これらノウハウを無料の冊子で公開しておりますので、ご興味があればダウンロードしてください)
調達・購買・資材部員が意識するべきこと
しかし、みなさんが好き勝手に、サプライヤ(取引先)や製品を選定できるわけではありません。なぜならば、企業にはユーザー部門がいます。ユーザー部門とは実際にその製品やサービスを使用する部門です。あくまで、調達・購買・資材部門は、仲介役ですからね。
そのユーザー部門が求める技術水準、品質水準があります。もっといえば「仲の良いサプライヤ(取引先)から調達してくれ」という素直な依頼もあります。
(1)適正な品質のもの
(2)最新の技術を有するもの
(3)適正価格なもの
(4)納期が短いもの
という四つの、ときにお互い矛盾する要求を、可能な限り満足させる製品を市場の中から調達せねばなりません。
技術のことであれば設計部門に訊けば良いでしょう。品質のことならば品質管理部門に聞けば良いでしょう。納期のことなら生産管理部門に訊けば良いでしょう。価格トレンドのことならば、サプライヤ(取引先)の営業パーソンに訊けば良いでしょう。
ただ、調達・購買・資材担当者が何もせずに、単に注文書を書いていなかったとしても、会社はまわる場合も多いのです。実際に、調達・購買・資材部員の少なからぬ数は何もやっていません。
だから、調達・購買・資材部門の存在意義を分かっていない会社はまだたくさんありますし、存在意義を発揮している調達・購買部門がどれほどあるかというと心もとない状況です。
ですので、調達・購買・資材部員は、逆にいえば主体的に仕事をしなければおそらくこの仕事で頭角を現すのは難しいでしょう。
とはいえ、やる気さえあればいくらでも会社を良くする可能性があります。
●どのような製品を調達するか
●いくらで調達するか
●その他、仕事で付加価値をつけられる領域はないか
知恵で競争力を創出できる領域はたくさんあります。
そこで次に、私が一人の調達担当者だったときのエピソードを紹介します。なぜかというと、これまでの説明よりも、リアルに仕事を感じていただけるのではないかと思ったためです。
昔の現場経験
「そんなことも知らないでモノ買ってんのかよ!!」
月末にサプライヤから届く見積り書にサインをしているとき、上司からこう言われたことを昨日のことかのように思い出します。
製品の価格を決めるまでに、相当数の打ち合わせを実施している。社内でも価格の精査を実施し、関係者は納得している。その金額どおりの見積り書が届いている。そして、どこかミスはないか自分で何度も確認している。その見積り書にサインし、最後に上司の机にある「承認依頼箱」に入れておく。
すると、予想通り、しばらくすると、私に向けた大声が聞こえてきます。
「おい!これは何だ!説明しにこい!」
私はすっとんで行って説明を開始しますが、矢継ぎ早に質問が飛んできます。
「これはなんでこの価格なんだ?」
「その理由はなんだ?」
「見積りに記載されている工法は実際のそれと合っているのか?」
「これは作業者何人で作っているんだ?」
「この開発費用の妥当性は?」
「費用請求されているこの設備は、もともとサプライヤが持ってたんじゃないか?」
私が答えにつまると、必ず「そんなことも知らないでモノ買ってんのかよ!」と怒られる。だから、私は「確認します」としか言えませんでした。
時は月末最終日の夕方。私はそこからサプライヤの営業パーソンに電話をし「なんとか今から現場を見せてください」と頼むしかありません。「もう工場の連中は帰りましたよ」と言われると、私は「工場内の設備と作業標準書だけでも確認に行きます」と。そこから車を走らせ、到着するのは夜8時。
「また、あんた来たんかね」と守衛の方から言われ、嫌がる営業パーソンと真っ暗になってしまった工場内部に入っていって、上司から投げかけられた質問・されそうな質問をできるだけぶつけて、悔いのないように確認してやっと帰社したと思ったら、時間は夜11時。
もう、これで良いだろうと思って、「遅くなりまして、すみません。確認してきました!」と上司に伝え、説明を開始します。すると、次は「そもそもこの焼結工程がなくても、製品は成立するはずだ」と議論をふっかけられ、答えきれずに一巻の終わり。
翌日、届くことを止めない書類を前にして、「支払い遅延」の始末書を書きながら涙をこらえていた姿は懐かしくもあります。不条理感。脱力感。おびえ。迷い。悲しみ。そして、逃げ出したいという思い。感情の起伏が激しくなり、酒を飲む回数が増え、怒りっぽくなる。何かに意味もなく激しくぶつかる。悩み、仕事のことばかりを日々考えることが多くなりました。当然、眠ることもできません。そんな期間が続いていました。
調達・購買・資材担当者が学ぶべきこと
さて、やや感傷的な私の昔話はここで終わります。ご興味があれば、私は複数の著作で経験談を書いておりますでのご参照ください(「調達・購買の教科書」等)。
私が自分のエピソードの続きとして述べたいのは、調達・購買・資材担当者が学ぶべきことです。いまから調達の仕事に就く人はどう思うでしょうか。
礼儀は基本中の基本として、私が学んだことを三つに表すならば、次のようなことです。
(1) 製品の知識
(2) 買い方の知識
(3) 契約・法的な知識
これらは、高度でもなく、精神的な宗教じみたことでもなく、当たり前のことばかりでした。
(1) 製品の知識
読んで字の如く、製品のことを理解しているかどうか。図面が読め、その製品に求められている仕様は何か、どのような生産工法で作られているのか、市場価格はどれくらいか、業界勢力はどうなっているのか、ということです。
思い出すに、優秀な調達担当者のもとには多くの設計者から製品に関する質問が届いていました。「こういう製品を作りたいと思っているが、どこか紹介してくれないか」「こういう風に製品を変更したいと思うが、工程はどのように変わるか(コストが上がるか)」などなど。その人の製品知識を頼りにした問い合わせです。そこには、設計者と同じ土俵で話せるという、共通言語がありました。
外国語を思い出してみれば良いでしょう。今では翻訳ソフトがある。ところによっては通訳もいる。でも、やっぱり人と人とのコミュニケーションが円滑化するのは、共通言語によってです。「この人は分かっているな」と設計者・サプライヤに思わせることが、どれだけ、その後に役立つかは計り知れないものがあります。同時に、「この人には下手なことはできないな」と思わせることもできるはずです。
(2) 買い方の知識
これも字の如く、どれだけ製品に適した調達手法を知っているかということです。競合でサプライヤを選択することもあれば、インターネットで探すこともある。コストテーブル(価格決定の履歴を分析してまとめたものと思ってください)を基に価格を決めるときもあれば、指値でサプライヤに申し入れることもある。
あるいは、商社を利用し効率化を図ったり、調達行為の一部を外注化することもある。オークションを活用し、サプライヤに緊張感を与えることもする。
このように、製品・場面ごとに最適な調達手法は異なります。その引き出しをいかに多く持っているかが、その調達担当者の価値を決める尺度です。一つを盲信せず、多様なやり方の中から最適解を瞬時に判別できることが、周囲からの尊敬を集めます。
(3) 契約・法的な知識
*以下、実際の調達業務を経験したことのない人にとっては難しい単語が出てきますが、読み飛ばしてください。
多くの企業では、取引基本契約書においては、指定納入場所までの品質保証はサプライヤが全責任を持つことになっています。しかし、このことを知らなかったらどうなるか。例えば、「サプライヤ工場出荷時は不良品ではなかったものが、自社納入時には不具合を生じている」などと言って大掛かりな対策会議を開いてしまいます。
これは、実際に私が経験した例なのですが、「輸送時のトラブルは誰の責任か」などと、関係者で侃々諤々の議論を交わしていました。お疲れ様です。このような議論は、契約条件を知っていれば、「これはサプライヤ責任範囲なので、至急改善すること」と一言で終わりです。
トラブルの多くは、契約上の取り交わしで解決できることが多々あります。設計者よりも当然詳しくてしかるべき領域であり、調達担当者ならば熟知しておくべき領域です。自社がどのような契約をサプライヤと結んでいるのか、ということすら知らない調達担当者もいますので、まずは自社の取引基本契約書の熟読は必須でしょう。
加えて、法的な知識が必要です。下請法は当然として、商法を知っていればサプライヤとのやり取りに、厚みが出てきます。減価償却のしくみを知っていれば、毎期のコスト低減に役立てることもできるはずです。
調達・購買・資材の目標
そして本来ならば最初にすべき話をします。それで結局のところ、調達とは何を目標にするのでしょうか。
やや青臭い言い方をお許しいただければ「自社もサプライヤ(取引先)も幸せになること」だと私は思います。上記の図では左が自社、右がサプライヤです。そして調達・購買・資材が仲介者として中心にいます。
調達・購買・資材がいることで、自社は適正な価格で調達することができます。そして利益を稼ぎ、その後の経営に活かします。サプライヤは、みなさんに適正な価格で良質なものを買ってもらうことで、おなじく安定的に利益を稼ぎ、その後の経営に活かします。
昔、サプライヤは敵対するものと考えられてきました。こっちがソンすれば、サプライヤはトク。こっちがトクすれば、サプライヤはソン。しかしその発想は古いと思います。むしろサプライヤは、すぐれた調達網を創るパートナーと考えること。そして共存共栄を目指していくこと。これが調達の仕事とその目標です。
私の調達・購買・資材業務の現場の経験や、レベルアップのための高いハードルを書きました。しかし、数人でもこの調達・購買・資材という稀有な仕事に興味をもってもらえればこれに代わる喜びはありません。
いや本当に面白いんですよ。
全国の調達・購買・資材人材を応援するために
なお前節までで、私の言いたいことは完結しています。最後に私と会社の紹介をしておきます。とくに未来調達研究所では、無料のノウハウ集を配布したり、時流コラムを配信したり、ここでしか買えない教材を発売したり、セミナーを開催しております。
ぜひご確認ください。
坂口孝則:未来調達研究所株式会社所属、調達・購買コンサルタント。電機・自動車業界で従業したのち、現在では主に素材・半導体製造装置・原材料等領域のサプライチェーン全般のコンサルティングを担当。サプライヤマネジメントに精通。著書多数。
未来調達研究所株式会社(Future Procurement Research Institute Inc.)
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