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調達力・購買力の基礎を身につける5

(1)-1 製品知識こそ力<基礎知識>

自分が調達しているものなのに、「一体どういう製品なのかを知らない」という人が多いのには驚かされます。

分かりやすい製品(紙や材料、一般文房具など)を購入している人からはこのような発言を聞くことはありません。しかし、半導体や機器類になると、自分の購入しているものがどのような働きをするものか理解せずに調達を続けている人がいます。

戦略業務やeコマースなどの、上位・先端知識にばかり注目が集まりますが、そもそも調達の基本は「自分が調達しているものをよく知る」ことであると再認識されるべきです。

現在でも多くの企業が調達・購買部門を置かず、設計者に調達業を委任しているのは、「ものを知らない人間に調達はできない」という態度の表れと言えます。

(1)-2 製品知識こそ力「私の経験」

「お前じゃダメだ!電話を替われ!」

設計者からの電話を受け取ったときに、開口一番こう言われたことがあります。

当時、私は入社一年目の社員。電気部品を担当していました。

私の取り柄は応用の早さです。そのときも、ビジネスのルールを覚えるのは早く、自分ひとりで交渉を任されるようになっていました。

しかし、この言葉はショックでした。

確かに、サプライヤーは話を聞いてくれます。多少間違っていても、こちらが購入する側ですから、頷いてくれることが多かったのです。

社内で話をしているときも、ある程度常識的な人であれば、こちらの話を聞いてくれ、提案も受け止めてくれます。

ですが、この電話を受けたときは、それまでのバイヤーとしての自信が打ち砕かれる気持ちでした。ビジネス手法が分かっていても、高尚な知識を持っていたとしても、戦略を見事に立てることができても、現場では「ものを知る」ことなしに信用されることはないのだ、という気持ちを強く持ちました。

また、英語を学んだら外国のサプライヤーとも上手にコミュニケーションができる、とも思っている人がいます。しかし、実際の交渉の場では、英語が全くできなくても、製品知識を持つ設計者の方が図を使い単語を並べるだけでより高度な交渉を実施している場面に何度も立ち会うことになります。

加えて、「かつては設計者がよくバイヤーに『このようなプレス加工は可能か』などと問い合わせにくることが多かった。今ではバイヤーに聞きに来ることは減った」とよく聞きました。近年発達してきた情報伝達ツールを使わずとも、昔は今以上のコミュニケーションが可能だったのではないか、とすら思います。

難しい単語を並べてみても、製品知識の欠如したバイヤーを頼りにする人などいないからです。そんなことよりも製品に詳しい方がずっといいはずです。

それに、製品に詳しいバイヤーに対しては営業マンもヘタなことを言うこともできなくなります。少なからぬ企業が調達・購買部門に元設計者を投入するのは、このように「製品に詳しいだけでも十分だ」という考えがあるためです。

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(1)-3 製品知識こそ力「製品知識を身に付けるために」

自分が担当している製品に関わる本を3冊読むところから始めるとよいと思います。

1冊目は入門編。2冊目は高度な内容を含む本。3冊目は中くらい。どの本を選んでもたいした差はありません。

「○○入門」というタイトルの本であっても、読んでみると得ることはたくさんあります。3冊読めば、調達・購買内では最もその製品に関して詳しくなるでしょう。10冊読めば、設計者よりも詳しくなるはずです。

「仕事のことでお金を使うなんてもったいない」というバイヤーもいますが、10冊買ったとしても3万円もしないはずです。何も知らないのに仕事をするわけにはいきませんから、その程度の出費は当然だ、と思います。

本以外の情報としては、会社には先人達がコストテーブルというものを時間かけて作ってくれているので、活用すべきです。ほとんど使えないようなものもありますが、たいていのコストテーブルには製品の働きやコスト決定に重要となる要素が網羅されていることがほとんどです。

また、重要なのはバイヤーが製品仕様の打合せに積極的に参加しに行きましょう。製造業に属しているのにものに関心が薄いということは本来、本末転倒です。「仕様を決めるのは設計者、金を決めるのはバイヤー」という固定概念を捨てて、どんどん上流に入り込むべきです。

「開発購買」という用語があります。設計の初期段階から調達・購買が参画し、QCDに優れた製品を生産していこうという試みです。難しく特別な手法のように感じますが、「開発購買」は新たに組織を作らないとできないわけではなく、個人の工夫次第でいくらでも可能なことです。

ところで、私が製品知識を最も効率的に得ることができたのは「試しに作ってみる」ことによってでした。その当時、電子・電気部品を担当していた私は、各部品の働きが全く分かりませんでした。私は工作雑誌を購入し、手軽にできそうな自作コントローラを作ることにしました。基盤を買ってディスクリート部品を集め、ハンダ付けをしました。

そうすると、かなり各部品の働きがよく分かるのですよね。「おお、水晶はこのために取り付けるのか」とか「抵抗器がこういう理由で必要なのか」など、次々に驚きがあります。文系なのか理系なのかはほとんど関係がありません。秋葉原で買えば部品など安いですし、何よりも自分で作成したものが動く!という喜びはもっと事務系の社員に共有されてよいはずです。

そして、製品に関して十分詳しくなってから戦略や各種スキルを身につけても遅くありません。もちろん、技術は日々進化しており、設計者ですら各分野の高度化に追随することは難しくなってきていますから、バイヤーが完全に技術を理解できるはずはありませんが。

ただその一方で、現在はバイヤーのコミュニケーションの能力の必要性ばかりが強調されているように私は思います。社内外をコーディネートする能力の大切さは認めますが、ときにそれが「自分達は技術・仕様のことは分からない」という言い訳のように使われることがあります。

まずはものを知る、という姿勢を徹底していかねばなりません。


(1)-4 製品知識こそ力「製品知識を高めるために」

・担当分野の本を3冊ほど読む

・ コストテーブルを読む(埃がかぶっているところもあるが、もったいない。是非一読を)

・ 設計仕様打合せには積極的に参加する(その他、技術商談会、カタログも使えます)

・ ためしに自分の担当領域の製品を使って工作してみる

バカにせずやれば必ず力がつきます。

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(1)-5 製品知識こそ力「雑感」

何かの会議のときに、設計者と対等に話すことのできるバイヤーは尊敬されます。そして、設計者の方もそのようなバイヤーに話を持ちかけるようになります。

冒頭に私の例を書きましたように、技術的なことが分かっているバイヤーはこれからますます求められてくると思います。ただ、これまでの私の経験では(残念ながら)、技術面に明るいバイヤーは全て元設計者でした。プロパーのバイヤーでは、「この人はすごい」と思える人は数名だけでした。この数名が周囲から尊敬を集めていたのは説明するまでもありません。

(2)-1 パソコンスキル<基礎知識>

以前は、手書きで注文書を発行し、電話で納期をフォローし、赤鉛筆で見積り査定をする、というイメージのあった調達・購買部門もかなりIT化が進んできました。ペーパレスオフィスを推進している企業もあります。

もちろんITのインフラ自体はバイヤーが作ることはありませんが、データ・情報のやり取りが電子化しているため、バイヤー個人のパソコンスキルが以前に増して重要になってきています。

エクセルやワード、メールの基本であれば誰でも使いこなせるでしょう。それに加えて、各種のパソコンスキルを身に付けることで相当な業務効率化が図れます。

メールも含めれば、サラリーマンの業務のほとんどは「書類を作る」ということですから、パソコンをうまく使うことで短期間に多くのアウトプットを生むことが可能となります。

(2)-2 パソコンスキル「私の経験」

「もう気が狂いますよ!」

営業マンからそう泣きつかれたことがあります。私の締め切りフォローが激しすぎる、というのです。納期であっても、書類の提出であっても、私は一旦約束した時期を必ず守ります。

だから、私は同じことを営業マンに要求していました。遅れるのは特に問題はないと思っています。問題なのは、当日まで何も連絡してこないことです。何も連絡しなければ、受け手側は予定通りに進んでいると思います。それに、遅れてしまうと他人に影響が出てしまいます。

約束を守らせるためにどうしたらよいか?私は考えて、約束期限を少しでも破ると、メールで自動的にフォローメールを送付するソフトを自作しました。VBA(Visual Basic for Application)というもので、一種のプログラミング言語でマイクロソフトのOffice上のソフトであれば稼動します。

少しでも学ばれた方は御理解頂けると思いますが、こういうプログラミング言語は、習得前は難しそうに思えても、やってみれば簡単です。三日ほど集中的に学べばほとんどのことはできるようになります。毎日決まったことをやっている(メールやエクセルで)人であれば、そのほとんどを自動化することができます。

私はそのソフトを使って、フォローメールを2時間ごとに送付するようにしていたのですね。しかも、自分で作ったのでメール送付間隔の時間も設定できました。あまりに悪質な営業マンに対しては、30分毎にフォローメールを送付していました。すると、「出張から戻ってきたらメールの山でした」とおっしゃるのです。すみません、むしろ私の方が悪質でした。

ただ、この活動を通じて時間厳守をサプライヤーに意識付けることができましたし、ヘタなことはできない、という印象を持ってもらうことに成功しました。

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(2)-3 パソコンスキル「バイヤーのためのパソコンスキル」

バイヤーに限らず、事務系の仕事は①書類を②できるだけ速く③期限を守って提出する、ということに尽きます。もちろん、「書類」と書いたのは、報告書類だけではなく、決済をしたり、見積りを査定したりすることも含まれます。それらの大半が、現在ではパソコン上で行われるのですから、それを学ばない手はありません。

そして、それらをパソコンスキルによっては速くも正確にも可能です。

(1) Windowsコマンド、使用メールソフトのショートカットキーを覚える

(2) エクセルの関数・マクロを覚える

(3) VBAを習得する

(4) できるだけ速くキーボードを入力する訓練をする

これらも専門の書籍を読むだけでも相当違います。やってみて下さい。

パソコンのスキルなどというと笑われてしまいますが、たまに他人のパソコン操作を覗き込むと、各種操作が遅すぎて機会損失を被っているように思ってしまうことがあります。パソコン操作を自己目的化するためではなく、パソコン処理のような無駄な時間をできるだけ廃するためにスキルを身に付けるのです。

(1) では、まず目標として「できるだけマウスを使わずにパソコンを操作する」ということを目指してください。「Ctrl+Sで保存する」「Ctrl+Cでコピーする」「Ctrl+Vでペーストする」くらいは覚えている人も多いのですが、「Ctrl+Yで同じ作業を繰り返す」などといった内容を覚えている方は少ないようです。覚えると有効なこれらのショートカット操作は本を買うまでもなく、アプリケーションのヘルプでほとんど知ることができます。

(2) 納期調整を行っている方はエクセルを使用することが多いはずですし、見積りを査定する際のシミュレーションでも重宝します。このようなときに、エクセルの関数を知っているだけで作業時間が半減することがあります。

(3) 私の例で前述の通りです。エクセルやメールで毎日ルーチンワークを繰り返しているようなバイヤーは絶対に学ぶ価値があります。CGIやPHPといった言語もありますが、バイヤーであればVBAだけでも身に付けるだけで全く世界が変ってきます。

(4) 人差し指のみで入力している人がいますが、あれはいただけません。入力速度とはまさにアウトプットの速度です。普通の人が一通しかメールを出せないところを、三通送付することができればそれだけ多くの人にコンタクトできるようになります。メールでは言いたいことが通じないと言う人がいますが、それは単にメールの書き方を知らないだけです。長く書く必要はなく、要件だけでも構いません。また、メールは必ずその日のうちに処理して帰宅するべきです。

繰り返しますが、あくまでこれらは資料作成を効率化するためのものです。一番良いのは資料自体を作成しないことではあるのですが、そうともいかない場合が多いはずです。それに、資料を速く提出してくれる人は気持ちいいものです。これに理屈はありません。

できるだけルーチンは自動化にし、本来やるべき業務に特化する。そのためにパソコンスキルを身に付けていってください。


(2)-4 パソコンスキル「雑感」

私がメールを多量に送りつけた例をバイヤーに話すと、反応が分かれます。「ひどい」と「面白い」です。しかし、ある人に話すと「それは、自分自身への戒めなのですね」と的確な指摘をしてくれました。確かにその通りで、他人に時間の厳格さを求めるということは自分自身も厳格にならざるを得ません。そういう意味では、自分自身のため、と言えます。

また、私はこう書くくらいなので、提出期限には絶対に遅れないように努めています。問題は、会社の中での評価が仕事の量や質ではなく、時間で測っていることです。一週間の期限が設けられているものを三日で提出したとしてもそれに価値を見出す評価基準を持っていません。せいぜい新しい仕事を頼まれるのがオチです。

しかし、それでもなお、速く(早く)仕事を終らせるのは気持ちが良いものであることを強調しておきたいと思います。

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(3)-1 決算書を読みこなす<基礎知識>

バイヤーが決算書を読むときは次のような状況です。

(1)定期的経営分析・・・サプライヤー決算時に経営状況を確認する

(2)新規サプライヤー経営分析・・・取引考慮時にサプライヤーの経営状況を把握する。

全てを把握しようとすれば、それこそ1冊の本になってしまいますが、メインとなる目的は、①「安定した納入が可能かどうか」ということです。将来に供給危機に陥ることがないかを確認します。これらはB/S(貸借対照表)により安全性を確認します。加えて、②「収益を十分確保しているか、業界他者並みか」ということです。これはB/S、P/L(損益計算書)によります。過剰に利益を確保しているサプライヤーは毎期のコスト低減要求のネタにもなります。

なお、返済能力を見るためにはキャッシュフロー額やインタレストカバレッジレシオを見てゆくことになりますが、実際の実務で1社毎にこれらを計算してゆくことは稀です。とはいえ、より企業経営への深い理解ができるようになりますので、B/S・P/Lを使って上記確認項目を理解した後は、ぜひこれらの指標に関してもチャレンジしてみて下さい。

(3)-2 決算書を読みこなす「決算書を見るときに」<B/S>

冒頭に書いたように、経営分析を本格的に行おうと思えばたくさんの指標があります。しかし、現場バイヤーが実際基礎として押さえておくべきことは「安全性」と「収益性」の数項目でまずは十分といえます。

B/Sとは、バランスシート・貸借対照表のことで、ある時点(決算期末日)での企業の財政状態を示しています。

1.流動比率=流動資産/流動負債
流動負債に対する流動資産の比率です。流動資産とは、1年以内に現金化される資産のこと、流動負債とは、1年以内に、支払われる負債のことです。短期的な支払能力を見るもので、流動負債が流動資産より多い場合には倒産の危険性が高いと思ってください。
(理想は200%以上、目安は140%以上~業界によって異なる)

2.当座比率=当座資産/流動負債
流動負債に対する当座資産の比率です。当座資産とは1年以内に決済され現金化される棚卸資産以外の流動資産のことです。棚卸資産とは、企業が保有する、製品・原材料・仕掛品などを指しますから、現金化されない危険性が高いわけでその分を差し引いています。当座資産が、流動負債より大幅に少なければ危険信号と思ってください。
(理想は100%以上、目安は80%以上)

3.自己資本比率=自己資本/総資本
総資本に対する自己資本の割合です。自己資本とは、資金調達のうち返済の必要がない部分を指しますので、当然高いほど良くなります。これも業界によって異なりますが、目安はだいたい30%くらいです。

(理想は50%以上、目安は30%以上)

なお、負債(他人資本)を自己資本で割ったものを負債比率といい、自己資本比率と合わせて、自己資本の充実度と資本の安定性を見てゆくことになります。

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(3)-3 決算書を読みこなす「決算書を見るときに」<P/L>

P/Lとは、プロフィットアンドロスステートメント・損益計算書のことで、ある会計期間における企業の成績を表します。

1.売上高営業利益率=営業利益/売上高
営業利益を売上高で割ることにより本業でどれくらいの儲けを出しているかを表現しています。これも業界により異なるため、業界内比較によりどこに位置する企業化を把握します。

2.売上高経常利益率=経常利益/売上高
経常利益を売上高で割ることにより計算されます。この経常利益率は新聞紙上でも最も報じられる指標の一つです。製造・販売に加え財務活動を加えた利益を表しています。

3.ROA(総資産利益率)=経常利益/総資産
経常利益を総資産で割ったものです。元手を使って、どれだけの利益を上げることができたかを見ます。収益性を見る上で、最も基本的な指標です。利益の大きさだけで評価するのではなく、貸借対照表を関連させてみることで効率性を見るわけです。

4.ROE(株主資本利益率)=当期利益(税引後利益)/自己資本
当期利益を自己資本で割ったものです。ROAとの違いは、株主資本を使ってどれだけ利益を得たかを見るということです。株主という立場から見た収益性を評価する指標であり、その企業の取締役の業績評価基準と考えてよいでしょう。バイヤーにとっては、サプライヤーのこの指標の良し悪しによって、「その企業の取締役の選任と解任が発動される可能性がある」という認識を持つことになります。

バイヤーはこれらの計算を実際に行うことはあまりありません。上場企業であれば、これらを表示してくれている情報サイトもありますし、各種指標の意味を知っておけばよいはずです。上場企業ではなければ、バイヤー企業が株を所有しているのでもない限り開示義務などないのが普通です。

しかし、重点的に管理してゆきたいサプライヤーであれば定期的に決算情報を入手できないか頼んでみましょう。信用調査会社に倒産情報を一任している企業もありますが、バイヤーが直に確認することに越したことはありません。

ここではバイヤーとして基礎的な知識を身に付けるという前提で「安全性」と「収益性」を紹介しました。深入りしようと思えばどこまででも勉強することのできる分野ですし、サプライヤーに対して各種経営指標の改善のためのコメントをしようと思えば、当然広い知識が必要となってきます。特にバイヤーはサプライヤーの決算書を見る機会が多いですから、ぜひ多くの企業を通じて学習を進めてみてください。

(3)-4 決算書を読みこなす「雑感」

決算書などほとんど読めずに、それでいてバイヤーという業務を20年ほど続けても「なんの支障もない」と言い切る人もいます。これだからバイヤーとは本当に面白い職種です。

たいていの調達・購買部門では、最初にバイヤーに担当させるのは経営的に優良企業、ベテランの担当するところが経営的に問題を抱えた企業とされます。なるほど、優良企業ばかり相手にしていたら、決算書を気にする必要もなかったかもしれません。

ただ、私は「超問題企業」を若手が担当することを勧めます。問題が降りかかる中には、発見と学習の機会に溢れているからです。

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(4)-1 業界知識の理解<基礎知識>

バイヤーは担当する製品について、その業界特有の知識を吸収する必要があります。

(1) 業界内サプライヤーシェア(日本・世界)

(2) サプライヤー各社の強みと弱み

(3) 競合他社調達構造

(4) 業界固有用語、略語

これらは、前任者や営業マンからヒアリングをしたり、業界団体の資料・展示会・セミナーで学んだり、専門調査機関からの情報によって得てゆきます。

また、(4)に近いのですが、各業界とも「暗黙知」と呼ばれるものを持っています。これは、言語化するのは難しいことですが、業界に一定期間携わっている人は勘や経験的に分かっている知識のことです。

「こういう困りごとがあったときには、どうすればよい」ということはこれまでほとんどバイヤー間で共有されることはありませんでした。このためにバイヤー業務が属人化していたことは否めません。

これからは、(1)~(4)の知識とともに、これまで「暗黙知」とされていた知識もできるだけ言語化することにより共有化してゆくことが重要です。

(4)-2 業界知識の理解「私の経験」

「一体何を話しているのだろう」

私がバイヤーになったときに、先輩バイヤーの商談に同席していたときのことです。

何を話しているのか全く分かりませんでした。正直言って。

日本語ですから、話の流れは分かります。ですが、その端々に出てくる固有名詞が全く分からず(最初なので当然ですが)、何が起こっているのかが理解不能でした。「ソース」くらいならば「プログラミング」のことくらいはすぐに分かります。ですが、「みかか」ときたときは、さすがに驚愕しました。「みかか」とキーボードでかな入力すると、その電話事業体グループになるのですが、そのひどすぎる略語が共有されていることにもっと驚愕したことを覚えています。

どんなに優秀な人であっても、何も知らないと何もできません。右から左に注文書を流すだけであれば、業界知識など不要でしょうが、私はそうはなりたくなかった。

私は早速、自分の担当製品領域の情報を集め始めました。

(1) 業界内サプライヤーシェア(日本・世界)

・ 日本、世界シェア
・ 金額ベース、数量ベース
・ 業界の中でセグメント分けされているところは、それぞれのシェアを把握します

(2) サプライヤー各社の強みと弱み

(3) 競合他社調達構造
競合他社がどのようなサプライヤーから調達しているかをまとめます。もし今後○○社の情報が必要となれば、A社を通じて情報収集することになります。

(4) 業界固有用語、略語

正直に申し上げて、最も役立つ資料はこの「業界固有用語、略語」集です。これに暗黙知を共有できれば望ましいでしょう。

バイヤーが後任者に引き継げるのは価格表くらいだ、と言われます。私はバイヤーになったばかりのときに困った経験を持っていましたので、詳細なリストを作成しました。

「みかか」は某電話事業体グループのこと、から始まって様々な用語・略語・隠語、そして「こういうときは誰に聞けばよいか」「このサプライヤーのキーマンは誰だ」などなどこれまでなかなか言語化されなかった業界の知識やコツまでも網羅してゆきました。このリストは後輩バイヤーに引き継いだあと数年間も使われていたようです。

最近の企業は社員SNSを導入し知識を共有化しようとする動きもあります。そこまで進歩的ではなくても、メーリングリストを作ることくらいはできるでしょう。そこで「こういうことに困っている、どうしたらよいだろうか?」とか「この会社でこういうすごい方法を実践していた」とかの情報を共有化することができます。新しいITツールでなくても、誰でもアクセスできるサーバーに共有エクセルファイルを置くだけでも十分です。

ほとんどの場合、「全く新しい仕事」などというものは存在しません。たいていは以前同じことを誰かが調べているか、既に資料をまとめていることがほとんどです。それが上手く下の世代に伝わっていないから、下の世代が同じことをやり出します。これからは、いかに情報を集めるかに注力するのと同時に、集約できた業界知識をいかに他のメンバーと共有できるかを意識せねばなりません。

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(4)-3 業界知識の理解「雑感」

同じ「Tさん」でも電機業界だと「東芝さん」のことであり、自動車業界だと「トヨタさん」。もっと範囲を狭めると、半導体製造装置の「Tさん」は「東京エレクトロンさん」など、無数の「Tさん」が存在します。「Nさん」も「NECさん」や「日産さん」や「日本電産さん」だったり。もうばからしいので止めておきますが、業界によって無数に略語が存在しています。

業界用語をしたり顔でまくし立てるのは、大変横から見ていて滑稽に見えます。なんだかその業界に妄信的に染まっている気がするからです。これはその業界に慣れて仕事ができる、ということでもありますが。

一旦、ある業界を離れ違う業界に身を置いた瞬間に、これまでの常識が通用せず、新しい常識を獲得する必要が生じることがあります。これからはますますバイヤーたちが業界を飛び越えて調達・購買というフィールドで活躍するでしょう。そのときに、業界に10年居続けているバイヤーでなければ活躍できない、ということであればその業界は人材が活性化せず停滞します。業界知識を早く身に付けることは当然として、それを自分一人で保有するのでなく、どんどん共有してゆきましょう。


(5)-1 サプライヤーの評価方法<基礎知識>

バイヤーは担当するサプライヤーに対して、出資やリストラクチャリング、ときにはM&Aを視野に入れた検討が必要になるときがあります。その際には、サプライヤーという一つの企業を評価する必要があり、「企業価値」の考えを身に付けておかねばなりません。

企業価値とは、そのサプライヤーをプロジェクトの集合体とみなして、それらがどれだけの経済的価値を持つかを表現したものです。具体的には、そのサプライヤーが生み出す利益(フリーキャッシュフロー)を、その元手となる資本を調達するためのコスト(資本コスト)で割り引いて計算します。

・フリーキャッシュフロー(FCF)=税引後営業利益+減価償却費-投資

なにやら数式ばかりになってしまいました。

最後の現在価値とは、将来生み出すであろうキャッシュが、まさに今の時点(現時点)ではどれくらいの価値があるのかを見るものです。簡単に言えば、「稼ぐであろう金を、リスクで割り引く」というものです。WACCとは、金を貸してくれた人(債権者)が要求する利回りと、出資してくれた株主が要求する利回りの合計です。当然、FCFが多いほどよく、WACCが少ないほどよいことになります。

上場企業であれば、各種公開情報を使うことができますが、非上場企業であればそうはいきません。その場合は業界標準値を使用し代替することになります。

また、上場企業に対して、PER(株価収益率=株価/一株あたり利益=株主資本市場価値/純利益)を使用して株主資本の市場価値を推測しようとする考えもあり、某有名ファンドもこの手法で買収価格を求めているように報じられましたが、これはあまりに雑すぎて本当にプロがこの方法で買収価格を決めているとは思えません。株価はすぐに変わるものだからです。一つの評価項目にはなるのでしょうが。

バイヤーは、サプライヤー戦略上、出資等によって子会社化を目論むときがあります。当然、調達・購買部だけで決める問題ではありませんが、サプライヤー窓口としてしっかりとした理論を持って社内外の交渉にあたることが大切です。

(5)-2 サプライヤーの評価方法「私の経験」

「このサプライヤーの株を購入しようと思ったら、いくらくらいまでなら出せるか検討しておけ」

突然の上司からの指示に戸惑ったことがあります。「サプライヤーへの出資?」。なんだか大きな仕事のような気がしたからです。「あのサプライヤーを買収するんですか?」そう訊いてみたところ、「そうじゃないが、株主安定化のために、第三者からの譲渡としてウチにいくらか保有してほしいらしいんだ」と。

それまで、毎日矛盾と苦悩にまみれていた仕事ばかりしていた私にとって、企業間の将来戦略に関わる仕事はどこかインテリジェンスに思えました。私の上司への返答は当然前向きなものです。

「分かりました。とりあえず検討してみます。ところで、どうやったらいいんでしょう」

「俺もこんなこと検討したことないから分からん」

「・・・」

そこから私の勉強が始まりました。敵対的M&Aに恐れている企業は何もテレビや新聞の中だけにいるわけではないのです。どのバイヤーも、担当しているサプライヤーが買収危機に見舞われないとも限りません。あるいは買収する側に回るかもしれません。バイヤーにとって、サプライヤー評価・企業価値の知識を使う機会は増えてくるはずです。実際、私も何度もこのような知識を使うことがありました。

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(5)-3 サプライヤーの評価方法「雑感」

「このサプライヤーの株を購入しようと思ったら、いくらくらいまでなら出せるか検討しておけ」という上司に対して、何の理屈もなく「現在の株価が2,500円ですから、5%引きの2,375円くらいですかねえ」という返答ももちろん可能です。

そんな適当でいいのかよっというツッコミが聞こえてきそうですが、実際にそのような会話を聞いたことがあります。あるデータによると、M&Aのときに日本企業は買収プレミアムが高いそうです(早い話が、買収金額の査定が貧弱により払いすぎている)。

冒頭でも書いたとおり、市場環境変化が激しく、サプライヤーを取り巻く環境も変わりつつある中、バイヤーが企業評価の知識を習得するのは必須といってよいはずです。勉強してみれば愉しいことばかりで、バイヤーの中ではこういう知識をちょっと知っているだけで羨望の的になりますから、どうぞお試し下さい。

(6)-1 QCの基本<基礎知識>

QCとはQuality Control、つまり品質の管理のことです。そして、QCを改善するツールとして、QC七つ道具というものがあり、①グラフ・管理図 ②パレート図 ③特性要因図 ④チェックシート ⑤ヒストグラム ⑥散布図 ⑦層別 のことを指します。バイヤーに限らず、入社すると学ぶことになるでしょう。

QCサークル(品質や生産性の向上を目指す社内グループ)では、「現場で不良品が発生する」→「不良が発生するプロセスをつかむ」→「原因を追究する」→「その改善対策を練る」→「効果を測定する」→「標準化する」、という改善ストーリーをこのQC七つ道具を使用して具現化していくわけです。

これらQC七つ道具が使われるのはQCサークルの中のみであるという考えがなされます。使ったとしてもせいぜい生産現場か品質部門だけだろう、と。確かにバイヤーが日々の業務で生産不良の撲滅のためにQC七つ道具を使用することはありません。

しかし、これらの手法を学ぶことで、より高いバイヤー業務を遂行することが可能となります。それは、結論を導くためにQC手法を使うのではなく、結論を正当化するためにQC手法を使うことです。

(6)-2 QCの基本「QC七つ道具とは」

QC七つ道具に関しては、様々な解説書が出ているので詳細は譲るとして、ここでは概要だけを述べてゆきます。

まず、QC七つ道具を使用したQCサークルにおいて最も重要なことは「いかに上手く形にはまるか」ということです。ここで求められているのは奇想天外な発想や発想ではありません。いかに目の前の事象に対して正確な手法で分析ができているかということだけです。

日々の困りごとがたくさんある中で、どうやってQC活動を展開してゆくかというと定石があります。

1.テーマを選定する・・・これはパレート図を使います。それぞれの困りごとが、おのおのどれくらいの件数として発生しているかを表示します。

2.現状を把握する・・・困りごとが現状に与えている影響です。これはグラフ・管理図を使用します。

3.目標を設定する・・・その困りごとをどれだけ解消したいかです。例えば見積り書のご入力を現状の100分の1にする、など。これもグラフを使用します。

4.活動の計画を立てる・・・誰が何月までに何をして、どういう結果をどのようにまとめるかを決定します。

5.問題と原因の究明・・・問題がどのようなメカニズムや原因で生じているかを明らかにします。これは、特性要因図を使用します。

6.問題発生時の特性の究明・・・問題発生しているときはどのようなときが多いかを究明します。例えば、時系列で見たときに季節による違いはないか。使用機器による違いはないか。年齢別に発生頻度が違わないか。などなど。これには、グラフや管理図、チェックシート、ヒストグラム、散布図を使用します。

7.対策案の検討・・・これまで見てきた原因をつぶすために最も効果的な対策案と効果を予測します。

8.効果の確認・・・実際に7.で考えた対策案がどれだけ効果があったかを確認します。場合によっては失敗し、過去のプロセスをさかのぼり真の原因の究明を行います。

9.標準化・・・効果のあった対策案を、対策案としてその場で終わらせるのではなく、どうやって定着させてゆくかを決定します。

これまではおそらくバイヤーが学んだであろうQC手法の復習でした。新QC七つ道具というものも存在しますので、勉強を深めたい方はトライしてみて下さい。

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(6)-3 QCの基本「QC手法の本当の使い方」

冒頭にも書きましたが、バイヤーにとってこれらQC手法やQC七つ道具は不要であると思われがちです。おそらく、その理由はQCサークルなどの活動が強要されていたり、解説書が面白くなかったりするからではないでしょうか。

確かに、地道に事実を収集し検証を繰り返すことが面白いとは思えません。しかも、どこか古臭い雰囲気すらあります。

しかし、ここでも私はこのQC手法がバイヤーにとって役立つと主張します。QC手法を通常の逆に使用することによって、それを証明できます。

バイヤー業務の中には「説明して納得させる」ということがあります。新規のサプライヤーを推薦するとき。調達戦略を他部門に伝えるとき。この価格で決定したいと書類を作成するとき。様々な場面が想像できます。その際に、このQC手法を使用するのです。

一体何が違うのでしょうか。簡単にいうと、次のようなことです。

・ 【従来のやり方】事実を集めて、QC手法を使い推考し、結論を導く

・ 【これからのやり方】結論を説明するために、それを導けるような事実を探し、QC手法を使って正当化する

こういうことです。これは一般的に仕事ができる人が無意識に使っているプロセスです。つまり、「積み上げ式の思考」から「トップダウン型の思考」に変えてしまうわけです。しかも、それを「積み上げ式の思考」の代表ツールのQC手法でやってしまう。

これは、QC手法の正統派からは怒られてしまうかもしれません。ですが、私が実感として本当に重要だと思い、常に活用している方法です。一回聞いただけでは、「ふーん」と思うだけかもしれませんが、一旦自分の業務に当てはめて考えてください。

この方法を勧める理由は、調達・購買業務において「全てが完璧な解」というものが存在しないからです。Aを選択すれば、Bは損害を被る。AとBを選択しても、Cの被害はゼロではない。などなど、どうしても矛盾や問題を抱えたまま何らかの意思決定をせざるを得ません。そのようなときには(言葉は悪いのですが)直感に頼らねばならないときもあります。

直感を使うが、理論的に説明せねばならない、という状況があります。そのときに、この「トップダウン型の思考」を使うのです。まず結論はこう、それを裏付けるデータはこれ、この要因は全体の何%を占める、その対策として今回の結論がある、と。もちろん、聞く人々を騙すために使ってはいけません。

ただし、結果を積み上げるだけではなく、まず結論やありたい姿を設定した上で、そこまで到達する手法を考えた方がモチベーションははるかに上がるということは強調しておかねばなりません。

(6)-4 QCの基本「雑感」

バイヤー同士の勉強会でのことです。私は、各社のバイヤーが作るプレゼン資料を興味深く見ています。文字を並べただけのもの。装飾をやりすぎているもの。くだけすぎているもの。真面目すぎるもの。

これらから各社のカルチャーが透けて見えるようで面白いです。やはり戦略系の業務に従事しているバイヤーはプレゼン資料が上手いようです。社内で報告ばかりしているからでしょうか。

文章についても注目に値するものばかりです。ある企業のバイヤーは皆しっかりした理論的な文章。逆に、ある企業のバイヤーは文面がめちゃくちゃ。どちらの企業の業績がよいでしょうか?余計なお世話でした。

幸いに私が親しくしているバイヤーにはいないのですが、ちゃんとした説明もできず、ちゃんとした文章も書けないバイヤーを担当している営業マンはさぞ大変だろうと思います。そういう人に限って他人には厳しかったりするので手に負えません。多くのバイヤーと知り合うことは、このように自戒にもなり有益です。皮肉ではありません。

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(7)-1 寡占率とコスト低減<基礎知識>

市場の寡占率を測るものとしてハーフィンダール指数があります。ハーフィンダール指数とは、「ハーフィンダールIndex」ともいい、日本では一般的ではありませんが、海外の調達・購買業務従事者にはポピュラーなものです。

これは市場に参入している企業の持つシェアを2乗した値の総和によって求められるものです。例えばある市場で1社が独占的シェアを持つ場合は、100(%)の二乗で10,000(%)となります。その市場に2社が半分ずつのシェアを獲得している場合50(%)の二乗+50(%)の二乗で5,000(%)となります。

それが3社・4社と増えると、その値は小さくなってゆきます。つまり、市場参入企業が多いほどその値は低くなるわけです。

この結論として、ある市場のハーフィンダール指数を見たときに、数字が小さいほど競争が盛ん(=コストが安くなる)ということになります。

(7)-2 寡占率とコスト低減「私の経験」

「なんでこんなメーカーから買うんだよ!!」

突然、会議中にそう言われて驚いたことがあります。

常々「高い」と言われていた半導体製品に関してのことでした。

「もっと安くしろ」と日々指示されていた私は、市場調査を経て現行のサプライヤーよりも安く販売してくれるところを見つけたのでした。

私は、その新しいサプライヤーから何度も見積りを入手し、他社と比較して優位であることを数度の検証により確信していました。

そこで、私は「よし」と思い、そのサプライヤーを次回の競合に入れることを会議で提案したのでした。

「こんな安いサプライヤーだったら皆も喜んでくれるはずだ」

しかし、皆からの反応は全然でした。

全く賛同を得ることができませんでした。

「なんだよ、そこのメーカーは?」

「訳がわかんねぇな」

特に以前から「もっと安くしろよ」と言っていた当時のプロジェクトのリーダーは、私にこう言いました。

「なんでこんなメーカーから買うんだよ!!」と。


(7)-3 寡占率とコスト低減「雑感」

実際、このエピソードの2年後に、私はこのハーフィンダール指数が、特別な方法でもなく、海外の購買プロフェッショナルの間では普通に使われていることを知りました。全然特別な方法ではなかったわけです。彼らは普通にこのような指数を使い、論理的なコスト低減を目指している。そういうことを知ったのでした。良いことはすぐに取り入れればいいはずです。

まずは自社内の各領域の競合企業数を調査してください。きっとその数とコスト低減率が比例関係にあることを知るでしょう。

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(8)-1 契約・商習慣<基礎知識>

強行法規(=当事者の意思如何にかかわらず適用される法。下請法など)に抵触しない限りは、バイヤーはサプライヤーと自由に契約を結ぶことができます。

①契約締結の自由 ②相手方選択の自由 ③契約内容の自由 ④契約方法の自由(形式の自由)

これらを「契約自由の原則」と呼びます。多くの企業では、国内サプライヤー向け・外国サプライヤー向けに基本取引契約書の雛形を持っており、それをベースに契約を進めているはずです。

契約で全てを書かずとも共通の前提を持つ国内サプライヤーとは異なり、外国サプライヤーとの契約はより具体性と厳密性が求められます。

支払いに関しても、多くの国内取引における契約書では「納入指定場所までの一切の費用を含む」として価格が決められますが、外国サプライヤーとのやりとりではそうはいきません。最低でも、下記の理解が必要になります。

外国サプライヤーとの売買契約では、これら5種類ほどの中から選択することになります。Ex-workとはサプライヤーの工場を少しでも離れたら製品の所有権はバイヤーに移り、それ以降は全てバイヤーが手配すること。その逆がDDPで、国内取引と同じように、注文書を発行すればあとは外国サプライヤーが自社工場まで送ってくれること、と思ってよいでしょう。

DDPが手間の面では優位でしょうが、そこまでやってくれる外国サプライヤーは少なく、頻度としてはFOB・CIF下での契約と実務を覚えることになるはずです。

外国サプライヤーとの取引では契約上の揉め事が増えます。国内サプライヤー以上に契約について厳格になる心構えでいるように努めてください。

ここでは外国サプライヤーとのやりとりを通じて契約というものについて考えてみます。外国サプライヤーとの契約業務を理解すれば、国内サプライヤーとの契約業務はこなせるからです。

(8)-2 契約・商習慣「私の経験」

「全くありえないよ」

見た瞬間にそう思いました。中国で光ケーブルのサプライヤーの工場を見たときのことです。日本のサプライヤーとのあまりの差に驚いてしまいました。

そこには多くの女性工員がいたのですが、髪の毛は結んでおらず、手は洗わないまま作業が開始される。クリーンルームはなく、ホコリは舞っている。どれほど基本から教えないといけないのだろう、と眩暈がしてしまいました。

「これはありえない」という話をしたところ、返ってきたコメントは「スペックは満足させています」と。最終の検査工程を見てみると、相当数がNGとして落とされています。なるほど、工程では製品を流すことだけに注力して、最後の工程で絞る。確かに理屈上は、どんなにひどい製品が途中に流れていたとしても、最後でふるい落とせば問題ありません。でも、そういう話じゃないだろう、と思うのは日本人だからです。

「外観に傷なきこと」と条件付けていましたが、傷はたくさん付いていました。「なんで傷がついているんですか?」と私が訊いても、「どこに傷が?」と。「ここです」と指摘すると、「ああ、これを傷と呼びますか?」と逆質問。

外国サプライヤーに対しては、とにかく具体的に指示できるものはすべきです。「傷なきこと」ではなく「○○箇所の傷は認めない」がふさわしい。もっと言えば、「○○箇所には、○○ミリ以上の傷は認めない」がよりふさわしいのです。理解されないことは履行されません。

アジア系は一部日本化が進んだとはいえ「顔は似ているが、考え方は違う人たち」と思ったほうがよいでしょう。これは差別ではなく、文化の差異なのです。有名なサプライヤーだからといって、知っている日本企業が取引をしているからといって、スムーズに取引が進むわけではありません。有名なサプライヤーが品質的や対応に優れているとは必ずしも言えません。

可憐な客室乗務員を誇る欧米の航空会社がつぶれても、ポロシャツにホットパンツの航空会社が生き残る。これが自由競争というものです。そこでは、高い倫理観や理想ではなく、「お客からいかにしてお金を取り、利益を生み続けることができるか」という結果が問われています。

だからこそ、バイヤーは海千山千が存在しうる荒海の中で自己を守るためにしっかりとした契約を結ばねばなりませんし、それは今後日本でも同じことでしょう。

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(8)-3 契約・商習慣「契約の注意点とバイヤーの落とし穴」

とはいえ、何もかも全てを契約で縛ることなど不可能です。そういうフォーマットがあるのであれば、バイヤーたちの中で使われているでしょう。人によっては「不良発生時の賠償金も細かく取引前に設定しておけ」という人もいます。が、賠償金まで完全に事前契約しておくことなど不可能です。

考えてもみれば、これから結婚しようとしている二人が離婚時の財産配分まで厳格に決めることなどできるでしょうか。できるはずもありません。「お前の製品は不良品である可能性が高い」などと言うことができないのは、国内のサプライヤーであろうが、外国のサプライヤーであろうが同じことです。それは、相手の出方や態度や実績をもって柔軟に決めてゆかねばなりません。

せいぜい賠償金に関しては上限額を決めることくらいでしょう。契約では、押さえるべきところを押さえ、100%を目指すのではなく80%満足できたら上々です。それ以降は両社の文化を共有しあうことに時間を使いましょう。

なにやら外国サプライヤーから身を守ることだけに用心すればよいと思われたかもしれません。しかし、同様にバイヤー側も契約の遵守をすることは当然です。バイヤーがやりがちなミスは

(1) 見積り条件を無視して注文してしまう・・・見積りでは「最小ロット1,000個」と書いてあるのに、800個などそれを割り込んだ数量で注文してしまう。これは日本人バイヤーはやりがちです。国内サプライヤーであれば「1,000個というのは希望数量」という解釈も成り立ちますが、外国サプライヤーのそれは「1,000個という条件の下にこの価格だ」という意思表示なわけです。それを守らないと、「文字が読めない」と思われます。実際、私は「英語が理解できないのですか?」と真顔で言われた経験を持ちます。

(2) 指値を達成したのに発注しない・・・外国サプライヤーに対して指値として目標値を言い、その金額以下の提示を受けたときは注文せねばなりません。国内サプライヤーには「まぁ今回は様子見ということで」という愚にもつかない言い訳が通用しますが、外国サプライヤーにはその通りではありません。口頭であっても、指値としてある金額を言ってしまう(=その金額であれば取引成立)ならば、愚直に履行されねばなりません。当たり前ですよね。

相手は「○は○」、「×は×」という態度で臨んできます。特に契約に関してはシビアなので、契約に書いていることを守る反面、契約に書いていることが履行されない場合は猛烈に抗議してきます。曖昧な領域であっても、自分たちの正当性を主張するでしょう。

元々、欧米人(加えてアジアのビジネスエリートたち)は自分のことを立派に見せる教育や理論的に語る訓練を受けてきています。だからといって必要以上に億劫になる必要などありません。契約を冷静に解釈し、淡々とこちらの主張をより理論的に語るだけです。

契約が重要だと言っても、それを運用してゆくのは人間です、当然。契約以上の柔軟な対応をしてもらうこともできます。契約を履行させないことだって。契約とは設計部門ができない業務の一つです。そこでいかにバイヤーの存在感を示すことができるか。これこそまさにバイヤーの力量でしょう。

(8)-4 契約・商習慣「雑感」

「契約書なんて役に立たない」と言う人がいます。私はそこまで言い切る度胸も度量もありませんが、確かに真実の一面を表しています。例えば、契約書を履行しないサプライヤーがいるとします。そうだったとしたらどうすればよいでしょう。おそらく答えは、「履行させる」でしょう。どうやって?おそらく厳重注意か抗議によって、です。

それでも守らなかったら?違約金を支払おうともしなかったら?訴訟でもしますか?そこまでやる時間と費用はありますか?訴訟してもよいのですが、もしあなたと取引しているサプライヤーが一斉に契約不履行となったら?

そう考えると、契約締結前は性悪説的に、契約締結後は性善説的に動かねばしかたがありません。だから「契約書なんて役に立たない」と言う人がいるわけです。なるほど。

もちろん、通常は契約不履行ということは起きません。多くの企業は社会責任を負わされていますし、上場企業であればなおさらで、評判も気にします。契約を優位に結んでおいた方が良いに決まっています。

ただ、おそらく「契約書なんて役に立たない」と言う人はそういうことも承知で、あえて言っているのでしょう。

しかし、それでもなお私は契約を重視することを勧めます。契約は「言葉」でできているからです。言葉で約束事を表現する、ということは仕事の基本だと信じるからでもあります。しかも、多くの人は他人を裏切ることはできても、自分の言葉を裏切ることはできません。

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